【メキシコで活躍する日本企業インタビュー】山善 社長 吉倉 雄二

創業70年以上となる専門商社の株式会社山善は、50年以上前より海外展開を始め、2013年にメキシコ現地法人を設立。メキシコでは自動車関連メーカーをはじめとする企業のモノ作りを支える生産設備を主に扱う。
現在はシラオ市とサン・ルイス・ポトシ市にショールーム兼事務所を構え、4,000社に及ぶメーカーの商材を流通させる。
現地法人の立ち上げからメキシコ事業の展開を手がけてきた、メキシコ現地法人社長の吉倉雄二氏にお話を伺った。

メキシコは「生産」という面で米州のハブとなるモノ作りに欠かせない国です。

メキシコでの沿革を教えてください。

メキシコでの事業は2012年の1月、メキシコシティーのポランコに駐在員事務所を設立したのが始まりです。そして、2013年の9月にレオン市に現地法人を創設しました。(2016年シラオ市に移転)

山善の海外進出は歴史が長く、50年以上前にアメリカ現地法人を設立したことからスタートしました。この業界では比較的早い海外進出になります。
現在は海外に4支社、17現地法人、67事業所を展開しており、海外で働くスタッフは1,000名を超える規模となっています。支社は北米支社(シカゴ)、アセアン支社(バンコク)、台湾支社(台北)、中国支社(上海)の4つです。

メキシコは山善の海外の現地法人のなかで最も新しい現地法人になります。米州においては早くから事業展開をしていましたが、90年代後半から2000年初頭にかけては中国を中心としたアジアへの進出に力を入れていました。中南米エリアは未開拓であったため、その足がかりとして、まずは北米メキシコでの事業展開を決めました。
北中南米エリアのなかでもメキシコを選んだ理由は、「生産」という面で米州のハブとなる国だからです。メキシコは多くの日系自動車メーカーも進出していますし、トランプ大統領就任後は懸案事項となっていますが、NAFTA(北米自由貿易協定)を締結しているため基本的には自由貿易で、モノ作りには欠かせない国です。

メキシコでの事業内容を教えてください。

山善は大きく分けてふたつの分野で事業を行っています。ひとつ目は工場生産のものづくりを支える生産財事業、ふたつ目が快適な生活空間を提供する消費財事業です。
海外での事業は、この生産財事業が中心で、メキシコにおいては、工場内の設備全般の取り扱いが中心となっています。企業が工場でものづくりをするための生産設備の流通とそのアフターサービスを提供しています。

ショールームには数多くの商品が展示されていますが、どれくらいの数の商品を扱っていますか。

バヒオ地区のショールームに展示しているのは30社ほどの商品です。我々は専門商社で、自分たちでモノを作っているわけではないため、さまざまなメーカーの商品を扱っています。取引のあるメーカーは約4,000社、商品は何十万単位のものがあります。メーカーは日系企業から海外の企業までさまざまです。

具体的にどのような設備の流通がメインですか。

四輪一次サプライヤー等の自動車産業をクライアントとする流通がメキシコでは主体です。メキシコには日産、マツダ、ホンダのほか現在トヨタの自動車工場も建設中で、多くの日系自動車関連メーカーが進出しています。我々は自動車のエンジン、ブレーキ、ステアリング等の関連部品を生産する生産設備を主に取り扱っています。その中でも特に関連部品を加工するための設備が多い状況です。

メキシコの市場のニーズを察知するためにされていることを教えてください。

組織としての情報収集です。我々は創立70年以上の企業ですので、比較的日系企業の情報は入手しやすいですが、海外企業の動向を知るのは非常に難しいです。メキシコは多国籍な企業が集約していますし、ポテンシャルの高い現地企業もあります。そのような企業の動向を知るために、さまざまな角度から情報を集めています。
現在はインターネットやSNSなどの情報網が発達しているので、そういったものも社内で独自にカスタマイズして情報収集のツールとして活用しています。マーケティングに役立つ情報収集をいかにして組織立って行うかというのが今後のカギになると考えています。

メキシコ法人の日本人社員の割合はどのくらいですか。

現在27名のスタッフのうち、日本人の駐在員は5名で、そのほかはメキシコのローカルスタッフです。社内は英語が公用語です。
本来であればお互いに第二言語でコミュニケーションを取るより、この国の文化を知るという意味でもスペイン語の方がよいと思うのですが、なかなか日本人スタッフ全員がスペイン語を習得するというのも難しく、私も現在勉強中です。

ローカルスタッフと仕事をするうえでの困難はありますか。

日本人とメキシコ人のメンタリティーは当然違います。私はメキシコに赴任する前は、中国に7年ほど駐在していましたが、どの国であっても国ごとに文化の違いがあるのは当たり前のこと。メキシコ人は比較的のんびりとした国民性だと思います。
また、日本人は良くも悪くも仕事の優先順位が高いですが、メキシコ人は必ずしもそうではありません。ですから、モチベーションを高く保てる環境を作ることで、ポテンシャルの高いメンバーに継続して働いてもらえるように心がけています。単純に給与を上げれば良いということではなく、ローカルスタッフは若年層も多く、自身の能力向上に敏感です。働くことで自分自身の能力が向上していく、組織はそのためのチャンスを提供してくれると感じさせることが大切だと思います。やる気のあるメンバーには、個々人の能力を上げるためのチャンスをできるだけ与えるようにしています。これは国民性の問題ではなく万国共通のことだと思いますが、能力のある人ほど自分のスキルアップを実感すると、やりがいを感じてくれます。所謂、知的好奇心に訴えかける事が重要だと思います。もちろん成果に対する報酬を与えることも行っていますし、結果、やったことが報われるという環境作りも、その上で必要だと考えています。

メキシコを足がかりに、未開拓である中南米のマーケットを開拓していきたいです。

メキシコの事業において最も力を入れて取り組んでいることは何ですか。

組織の拡大とサービスを含めたCS(顧客満足度)の向上です。そのためには組織としての体制をしっかり強化していかなくてはなりません。当然メンバーのレベルアップもそうですが、サービスに対しどのような付加価値をつけていくかという事も重要だと考えています。エンジニアによる日本と同等の決め細かなアフターサービスなども付加価値のひとつとして力を入れて取り組んでいます。

今後の展望を教えてください。

メキシコを足がかりに、未開拓である中南米のマーケットを開拓していきたいと考えています。これは5年以内に達成したい目標です。

吉倉さんご自身について教えてください。メキシコに来て何年目ですか。

メキシコのビジネスに関わり始めたのは2011年からです。立ち上げ当時は本社からの出張というかたちでしたが、メキシコ現地法人に赴任してからは4年目です。
メキシコは比較的高地にあり、メキシコシティーの標高は2,200メートルほど、中央高原でも標高が1,800メートルほどあります。富士山の5合目と同じくらいの高さで生活していることになりますので、スポーツ選手が行う高地トレーニングを常にしているようなもの。ダイエットには最適な環境で、私はメキシコで生活を始めてから体脂肪が減り、ウエストは5センチも減りました。生活しながらダイエットができて一石二鳥です。

休日はどのように過ごしていますか。

趣味のゴルフを楽しむことが多いです。メキシコにはプロゴルファーがツアーで周るような非常に広くてチャレンジングな面白いコースがあるのが魅力です。おすすめのゴルフ場はトーナメントでも使用される名門コース、エル・ボスケです。
また、遠いのでなかなか行けないですが車で6時間ほどかけて釣り場に行き、釣りをすることもあります。日本では釣れないような大きな魚が釣れますよ。

吉倉社長の座右の銘を教えてください。

常に思っていることは「同じアホなら踊らにゃ損」。どうせやるなら面白く、楽しくやりたいと考えています。この考えは仕事もプライベートもどちらにおいても大切にしています。
そして、何事においてもやらないよりやった方がいい。よく言われていることですが、やらない後悔よりもやった後悔の方が断然良いと思います。私は攻めが得意で、どちらかというとディフェンスが弱いと言われていますが(笑)

山善自体も関西が本社ですが、私も大阪出身の関西人です。定期的に社内でも食事会を開いて楽しむようにしています。メキシコの方も集まってワイワイするのが好きな方が多く、メキシコのラテン系の気質は関西人に近いところがあるなと感じています。

最後にこれからメキシコに赴任する読者の方にメッセージをお願いします。

メキシコは日本から見れば治安の面で不安なところもあり、我々のスタッフも少なからず被害に遭っているので注意は必要ですが、住めば都です。食事も美味しいですし、気候もよく、住みやすい国だと感じています。
アメリカとの問題など悪いイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、市場もまだまだ伸びていく、大きなチャンスがある国です。ぜひ、一緒にメキシコでのビジネスを楽しみましょう!

株式会社山善 Yamazen Mexicana S.A. de C.V. 
社長 President
吉倉雄二 YUJI YOSHIKURA

1971年生まれ。1996年株式会社山善に入社。2001年より7年以上中国に駐在し、現地でのビジネスを展開。2005年に広州事務所所長に、2010年に国際本部機工部課長(部門名は当時)に就任。2014年メキシコ赴任。2016年より現職。
※2018年7月インタビュー時点

Interview:Kaori Kenmizaki
Photo:Adan Jardon Romero