【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】ミスミUSA 代表取締役社長 蘆田 暢之

顧客視点での迅速・確実・誠実な対応。 それがミスミの「時間戦略」です。

1963年、金型部品を扱う商社としてスタートしたミスミグループ
現在、製造業も手がける同社は、「製造業の裏方」としてグローバルにビジネスを展開している。その事業戦略は、同じ製造業者としてのノウハウやアイデアを生かし、お客様目線の課題解決を徹底的に追求したからこそ生まれたものだった。
ミスミのビジネスと米国市場における今後の展開について、ミスミUSAの蘆田暢之社長にお話を伺った。

製造・物流・IT基盤を駆使した「自社プラットフォーム」で高品質・低価格・確実短納期を実現させました。

会社の沿革について教えて下さい。

ミスミグループは1963年に田口弘が創業し、金型部品を扱う商社としてスタートしました。その後2005年に駿河精機と経営統合し、商社機能と製造業とを併せ持ちます。
取り引き先の業界は幅広く、自動車・電気・電子・医療関連など製造を必要とするあらゆる企業様とお付き合いさせて頂いています。
グローバルに展開し現在では全世界に62の営業拠点、17の配送センター、23の生産拠点を構えており、海外売上比率も日本国内に迫る勢いで成長を続けています。

米国法人の歩みを教えて下さい。

ミスミUSAは30年前の1988年に現地法人として設立されました。
設立当時はアメリカの商材を現地メーカーから購入し日本のお客様へ輸出する拠点としてスタート。2001年に新経営体制になり、米国を含む海外拠点でも日本と同じ事業を現地のお客様へ展開するという経営方針を打ち出し、アメリカ国内のお客様へ向けたビジネス展開にも注力し現在に至ります。
現地法人設立後の業績は毎年二桁の成長を果たしています。

事業内容についてお聞かせ下さい。

大きく分けて「FA事業」、「金型部品事業」、「VONA事業」の3つの事業を展開しています。
まず、FAはFactory Automationの略で、主に工場の生産ラインの自動設備に使用される部品を製造・販売する事業です。FA部品や、部品を組み合わせたユニットなどを提供し ています。例えば近年、製造過程で人に代わりロボットや搬送設備が多く採用されています。搬送・溶接・組み立て・梱包などの作業を行う自動設備の需要は高く、そのマシンの部品となる製品を製造・販売しています。
次に金型部品事業は、金型そのものを造っているのではなく、金型を構成するのに必要な部品の製造・販売をしています。例えばプラスチックとなる樹脂を金型に流し、それが固まり型から抜く際に押し出す部品であるエジェクタピン、車のボディーを圧縮形成する際に用いられる、鉄やアルミが対象のプレス金型用部品などです。金型には耐摩耗性や耐久性、精度の高さが求められます。
そして3つ目のVONA事業(Variation & One- stop by New Alliance)は、業界最高水準のEC基盤を活用しミスミブランド以外の商品を含め販売する事業です。分かりやすく例えるなら、B to B版アマゾンでしょうか。アマゾンでは種類やブランドを超えてB to C商品を1ヵ所で購入することができますよね。私たちもB to Bのお客様向けに、製造現場で必要な工具から消耗品まであらゆるものを自社のプラットフォームを通して「ワンストップ」で調達できるよう2010年に事業を開始。高品質・低価格・確実短納期を実現させました。現在では3,324社を超えるメーカー様、2,530万点を超える商品を扱っています。
弊社が取り扱う製品は、最終製品の製造過程で使用される設備や部品なので、皆様の目に直接触れる機会はあまりありません。そのため事業内容を理解していただくのはなかなか難しいですが、つまり「製造業を裏方として」サポートする事業なのです。

貴社が掲げる「スピード出荷可能、納期遵守率99.9%」を実現させる仕組みとは。

これは正にミスミの事業コンセプトである「ミスミQCTモデル」です。QCTはQuality(高品質)、Cost(低コスト)、Time(確実短納期)に由来します。
高品質な製品を扱うのは絶対条件。それらをいかに安く提供できるかに価値があると思っています。また、確実短納期というのは、お客様が欲しいときに、欲しい分だけ、欲しいタイミングでお届けするという意味です。在庫拠点がLA、シカゴ、メキシコの3ヵ所にあり、ご希望の場合は部品ひとつからでも即日発送します。1週間後に欲しい場合は1週間後に確実にお届けします。
高品質で低コストな製品をお客様が指定した日付に確実にお届けするこのQCTモデルは、事業の根幹であり、全社員が意識している非常に重要なコンセプトです。

そのコンセプトを実現するための具体的な取り組みとは。

先にも申し上げた、スピーディーに対応し納期を確実に守る「時間戦略」だと思います。
例えば、お客様からの見積もり依頼は多品種・小ロットの複雑なものでも平均15分以内に確実に回答。受注書が届いたらその瞬間に処理を開始。製造現場では生産指示書にある期日までに必ず製造する。物流拠点でも指定された納期に確実にお届けする仕組みを構築しています。これらの対応処理はすべてデータ化して常にモニタリングしています。万一、納期遅れが発生したら早急に策を検討し、多少コストがかかってもすぐに対応します。
この迅速さがお客様に対する我々の「付加価値」であり、「確実短納期」の実現はリピートにも繋がります。
米国拠点においても、日本と同様の誠実で迅速な対応が今後も必須だと考えています。

アメリカと日本では、商品の需要に違いはありますか。

製造における違いはいろいろあります。ひとつ挙げるなら、アメリカでは日本で取り扱いのない製品・サービスが求められる点です。
日本やアジアでは規格がほぼ画一であるため特殊な注文は限定的ですが、アメリカではジャンボジェット機の製造を行う企業も、日本より大きいサイズの車を製造する企業もあります。するとそれらを造るために必要な自動設備も大型のものになります。自ずと製造ラインを支える自動機のサイズも大きくなり、より丈夫な製品が求められるのです。日本と同等のサイズや製品でカバーしきれないため、必要とされる製品のバリエーションも増えます。
アメリカ現地企業が求める製品、つまり現地のお客様のニーズに合ったものを開発しなければアメリカでは受け入れてもらえません。そこが日本やアジアとの違いだと言えます。

シャンバーグのミスミUSA本社社屋

困難を共に乗り越えた時に絆が深まる。そうして戦友になれるのだと思います。

蘆田社長のキャリアや携わったプロジェクトなどを教えて下さい。

前職は日系大手メーカーで営業、マーケティング、経営企画を統括していました。
ミスミに入社し、タイでは工場長兼社長を務めると同時に、インド現地法人の前身であるインド駐在員事務所を立ち上げ、市場参入に向けたフィジビリティスタディーを実施しました。また、昨年はミスミメキシコのビジネスプランを策定し、立ち上げの総責任者を務めました。
アメリカ含めどの国でも数々の失敗を経験し痛い思いもしましたが、優秀な幹部・社員に恵まれ数々の貴重な経験をさせていただいたことにはとても感謝しています。

そのなかでも最も印象に残っているエピソードは何ですか。

11年前に初めて社長を務めたタイ駐在時のこと。設立後間もないまだ小さな現地法人ながら、250人程従業員がいました。
ところがオペレーションが全く機能しておらず、月次の損益も正確に把握できない状況の立て直しを任せられたのです。当時日本人駐在員は私を含め3人しかおらず、タイ人の社員も約9割が英語が通じずコミュニケーションが取れない状況で、何から手をつけてよいのかさっぱりわかりませんでした。製品が出荷できない、従業員がストライキを起こしそうになる、政府から訴えられるなど問題は山積し、現地人マネジャーも問題の原因すら把握していないという状況。はじめの頃現場は混沌とし、眠れない日もありました。
しかし、出荷ができないときは原因を探るために倉庫に足を運び、業務フロー図を自ら書いて問題解決の糸口を探ったり、従業員がストライキを起こしそうになったときも社員食堂で代表社員と対峙し彼らの声に耳を傾けたりしているうちに、徐々に社員たちとの信頼関係ができていくのを感じました。
着任2年目の後半からは環境も安定し、現場が改善され組織がうまく回り始めました。月次損益も正確に締められるようになり、優秀な社員も定着し、主要KPI、業績も上がりました。辛さは喜びに変わりました。
時には徹夜で、また寝食を忘れ休日出勤をして、課題解決に向け共に頑張ってくれた幹部や社員には、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。タイ国際空港の閉鎖、クーデターによる夜間外出禁止令、大洪水など多くの困難を共に乗り越える度に彼らとの絆は深まり、戦友と呼べる存在になりました。これはこの上ない貴重な経験です。

日系企業がアメリカで成功する秘訣は何だと思いますか。

私の経験から言えるのは、日本流で押し切るのではなく、日米には違いが沢山あることを前提に取り組むことが大切です。
それには現地顧客や従業員の声をきちんと聞き妥協なく協議したうえで、重要な要素は事業運営に反映させること。同時に現地の幹部に会社の事業コンセプトはよく理解してもらい、現地顧客に受け入れられる事業モデルを構築することだと思います。
現地のやり方やニーズをいちばん把握しているのは現地従業員です。アメリカの企業と取り引きする際に鍵となる彼らが主体的に事業を回せる仕組み作りをすることが、アメリカでビジネスを円滑に進める秘訣だと考えます。
また、日本には製品の質の高さや時間を守るという強みがありますが、アメリカはIT技術の先進国です。そうした現地の強みと融合させていくことが大切ではないでしょうか。

ミスミUSAの今後の展望をお聞かせください。

今ミスミグループの米州事業の従業員は1,400名、売上はグループ全体の約10%の330億円程度ですが、今後も確実に伸びる市場であるとみています。米国における製造業は既に成熟しているとはいえ、人件費の高い北米ではFA需要は今後も益々高まります。我々の製品やサービスを提供できていない企業様はまだあり、そうした将来のお客様を考えると飛躍的に成長するポテンシャルは高く、少なくとも1,000憶円の売上達成を当面の目標に、戦略を確実に実行していきたいと思います。
その裏付けとして昨年のミスミメキシコ(ミスミUSAの100%子会社)の立ち上げや、アメリカ国内でも将来の成長の布石として、製造・物流・IT基盤強化に向けた大型の投資を継続しています。その先は、2、3,000億円の売上を超えなければこの国で事業をする意味がないと思っています。
また、最近では他社との差別化要因として「確実短納期」に合わせITを駆使したエンジニア向けソリューションプロバイダーでありたいとも考えています。近年製品を注文されるお客様がエンジニアなので、彼らに無償でお使いいただけるインキャドコンポーネント(設計支援ツール:「Rapid Design」)を提供し、お客様の設計シーンをより簡潔にするとともに、ミスミのプラットフォームから簡単に商品を選んでもらえるようにするなど、IT技術とミスミの強みであるQCTコンセプトを融合させたソリューションでお客様のお役に立つことを目指しています。

ミスミUSA MISUMI USA, INC. 
 1717 Penny Ln, Schaumburg, IL 60173
 Tel (800) 681-7475 (カスタマーサービス)
 inquire@misumiusa.com
代表取締役社長 President
蘆田 暢之 Nobuyuki Ashida

慶應義塾大学卒業。ノースウェスタン大学大学院(Kellogg)留学を経て、日系大手メーカーで営業、マーケティング、経営企画職を歴任。2007年、株式会社ミスミグループ本社入社。2008年、ミスミタイランド代表取締役社長としてタイに駐在し、ミスミインド現地法人の前身となるインド駐在員事務所の立ち上げ、駿河タイランド工場長を歴任。2012年、ミスミUSA代表取締役社長としてシカゴ赴任。2018年ミスミメキシコ立ち上げ総責任者を経て、現在に至る。

Interview:Mika Nomoto 
Photo:Amy Bissonette 
※2019年1月10日取材