【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】鹿島建設 副社長 梶山 秀義

江戸・天保年間の創業から明治、大正、昭和、平成と時代を経て、2019年で180年を迎える鹿島建設
日本ではゼネコンという認識があるが、1964年、日本企業のなかで海外進出に最も早く取り組み、アメリカでは建設、開発事業をおもに手懸けている。ニュージャージーにあった米国本拠を2010年にアトランタに移し、その躍進は続く。
業務の約7割がリピートクライアントからの発注依頼ということから評価の高さがうかがえるが、その成功を支えた信念を語っていただいた。

物流倉庫、ミレニアル向け住宅、製造業は引き続き堅調な様子が見られます。

まずは鹿島USAの業務内容、および全国の鹿島建設グループ全体に占める役割、割合についてお聞かせください。

2016年度の鹿島USAの売上高は約2,200億円となっており、これは鹿島建設グループ全体の連結決算の売上高の12%を占めます。
グループ内ではアメリカ駐在経験のある社員がほかの国へ赴任し幹部職に就くケースが多く、アメリカでの事業展開を経験し、マネジメントスキルを身につけるなど、社内の人材育成においても大きな役割を担っています。

世界でのオペレーションの方法を教えてください。

我が社はアメリカ、アジア、ヨーロッパ、オーストラリアに拠点があります。
アジアでは我々がイニシアチブをとって進めることが一般的です。一方、アメリカでは既存の会社を買収し、その地域に根差した現地企業とともに事業展開を進めるなど、オペレーションやマネジメントのスタイルが変わってきます。

北米のヘッドクォーターをアトランタに移した背景をお聞かせください。

ヘッドクォーターのアトランタ移転は2010年のことですが、背景には仕事の案件数やボリュームがジョージア州周辺に最も多かったことがあります。くわえて、2000年代に買収した会社のいくつかはアメリカ南東部に拠点を有していました。
アトランタは地理的にみてもグループ会社とのコミュニケーションに優れていた、ということです。

鹿島USAのスタッフの人数、そして日本からの駐在員の数を教えてください。

2017年末で鹿島USA全体で駐在員は37名おります。
弊グループには、2本柱として建設系の統括会社Kajima International Inc.(以下KII)と、不動産開発系の統括会社Kajima Real Estate Development Inc.(以下KRD)があります。これらはホールディング会社のため、社員数は少なく、アトランタオフィス20名のうち日本人駐在員は12名となっております。
鹿島ビルディング&デザイングループ(以下KBDG)は建設系のKIIの傘下にあり、KBDG全体で社員は160名ほど、うち22名が日本からの駐在員です。

建設事業を行うKII、不動産開発系事業を行うKRD、それぞれ、また両社の強みは何でしょうか。

グループ会社内で事業創造できるのが強みです。
KRD傘下には物流倉庫の立地から開発までを自社で行う会社Core5社があり、KII傘下のKBDGに施工を任せることで、我々がドライバーズシートに乗ってプロジェクトを推進できるわけです。
最近ではFlournoy社というアメリカの会社と買収契約を締結し、グループ傘下に入れることとなりました。アメリカには木造3、4階の建物が一般的に多いのですが、Flournoy社は自社で開発・建設・マネジメントを一括して行うことができます。

業績が伸びている分野、とくに南部で顕著なものはありますか。

アマゾンの影響で世間ではEコマースが注目を浴びており、我々の倉庫建設事業にも好影響を与えています。ただ全米の小売の売上高からみるとまだ全体の10%を超えた程度で、Eコマースには今後まだ伸びしろがあるとみています。
そのため、この事業に関しては「ビッグボックス」と我々が呼ぶ100万平方フィート級の巨大なデポとなる倉庫、そしてお客様の住宅のそばにある「ラスト1マイル」といわれる、配送直前の小さな倉庫のどちらもまだ伸びることを見通しています。

また、ミレニアル世代に向けた住宅関連の事業も伸びています。
ヤングエグゼクティブ、シングル、子どものいない若いカップルといった層は、適齢期に家を買うなど、古くからの常識にとらわれず、自分たちが価値を感じるものにお金を使います。例えば屋上にプールがあるなど、住環境のアメニティーをとくに重視する傾向があります。
グループ企業に属するBatson-Cook社とBatson-Cook Development社は、スカイハウスという23階ほどの高層アパートの建設・開発に携わっています。アトランタのバックヘッド、ミッドタウン、ノースカロライナ州シャーロットなど、近年各地に17本を建設しました。
2010年以降の統計をみても、アメリカ南部では、人口がジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、フロリダ州で8∼10%ほど、テキサス州では2ケタ台で増えています。人が増えれば雇用も生まれ、住宅も必要になるという図が描けます。

くわえて、トランプ政権になってからはとくに、製造工場をアメリカ国内に作るという圧力が影響しています。関税を逃れるために、部品工場も同じく国内生産となるでしょう。
アメリカの会社だけでなく、日本を含めヨーロッパ、中国、インドなどのさまざまな国がアメリカに生産拠点を置く動きもみられ、製造業の工場建設マーケットも堅調なようです。

KBDGが設計施工にて手懸けたジョージア州グリフィンにあるマルカン酢グリフィン工場

リピートクライアントが多いのは、コミットした予算のなかでお客様に満足してもらえていることが大きな理由だと思います。

日系のお客様に対してはどのようなサービスを提供していますか。

弊社にはアメリカにおける建築士のライセンスや、設備におけるエンジニアのライセンスを持つ日本人もおりますので、日本語でやり取りをしながら効率的な対応ができます。
アメリカに初めて進出するお客様は、とくに法律や具体的な進め方の日本との大きな違いに驚かれます。例えば、狭い日本では縦に建物を建てていく傾向がありますが、土地が安いアメリカでは広い土地を使って平屋で建設した方ががコスト面も効率も良いわけです。

アメリカでビジネスをするうえでとくに感じることはありますか。

アメリカは契約社会と言われますが、実は人間関係を非常に大切にするように感じます。立場は別にしてお互いに人としてリスペクトし合います。
業務上の注意点としては、契約書にはじっくり目を通す必要があります。同様に、ゼネコンを例にするとサブコンに発注する際に詳細な契約書を作らないといけません。またそれには保険についての十分な知識も要します。

高い技術、プランニングの正確さといった日系企業への評価はどんな時に感じますか。

おかげさまでデータをみると、弊社KBDGでは仕事の約7割が日系、米系に関わらずリピートクライアント、すなわち、我々の仕事に満足いただいたお客様からの依頼です。
運輸運送業のUPSに関してはプロジェクトの度にお声がけ頂き、弊社のビジネスでの姿勢が評価されていることを感じます。
例えば仕事を得るために、見積もりを安く仕上げ、後から追加を乗せていく会社もありますが、我々は最終形を見定めた金額をお知らせし、きちんと仕事をすることを心がけています。コミットした予算のなかでお客様に満足してもらえていることが、リピートクライアントが多いことの大きな理由だと思います。

技術革新やAI化など、建設業界にみられる進化の波を教えてください。

先端のICTを使った例えば3Dスキャン、モデルといわれる3次元の図面の3Dキャドなどを使って、新しい効率的な工事管理、施工管理を確立しようと取り組んでいます。これにより品質管理、出来形管理はより正確な目処が立てられることとなるでしょう。
近い将来にはAIが最適なレイアウトを提案できるようになることも考えられます。

アトランタ生活は快適ですか。

私は単身赴任でニュージャージーからアトランタに移り住んで約3年です。
四季があり、季節感がある生活はいいですね。コンサートやショーなどのエンターテインメントがアトランタでも近年とくに充実し、楽しみが増えました。運動不足にならないよう、定期的に汗を流し、柔術の道場にも通い心身を鍛えています。

新しくアメリカで駐在生活を送る読者にアドバイスをお願いします。

東南アジア、ヨーロッパでの駐在生活経験と比べ、アメリカは自己責任の国というのをとくに実感します。免許の取得、家の契約、ユーティリティー加入など、すべて自分でやる国。
駐在期間にはリミットがありますが、その限られた時間のなかで、異国の地で何を成し遂げられるのか視野に入れ、それを自ら掴み取る姿勢が大切なのではないかと思います。

鹿島建設 Kajima Building & Design Group, Inc. 
副社長 Senior Vice President
梶山秀義 HIDEYOSHI KAJIYAMA

1965年東京都生まれ。1989年に早稲田大学理工学部建築学科卒業、同年鹿島建設東京支店入社。シンガポールにて海外要員育成研修を経験。1995年より米国カリフォルニア州勤務を経て、2001年任満帰国。東京支店勤務を経て、2010年1月より鹿島ポーランド勤務、プロジェクト・ディレクターに就任。2011年米国ニュージャージーに異動、KBDG NJ支店長兼副社長を歴任。2014年にアトランタ本社に異動、2017年より現職。
※2018年3月インタビュー時点

Interview : Ayako Ueda