【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】Kajima U.S.A. Inc. President & CEO 内田道也

Kajima U.S.A. Inc.
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Kajima Building & Design Group, Inc.
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1960年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒。84年4月、鹿島建設入社。92年に米ペンシルバニア大学ウォートン校へ留学、96年よりヨーロッパにて勤務。その後、鹿島ヨーロッパ社長、鹿島建設執行役員海外事業本部副本部長を経て2018年より現職。2021年4月、鹿島建設常務執行役員に就任。

建設と不動産、2つの事業で長期的な安定性を追求

1840年(天保11年)の創業以来、業界の最先端を走り続けるゼネコン大手の鹿島建設。
戦後アメリカに進出し、現地企業を買収するなどして規模を拡大。
アメリカでもその地位を確固たるものとしている。

ー アメリカ進出のきっかけは。

戦後、ロサンゼルスのリトルトーキョーがかなり廃れてしまったことを知り、1964年、この復興を目指す再開発のために鹿島インターナショナルという会社を立ち上げました。今も現存する鹿島ビルを67年に建設、76年にはホテルニューオータニ、またその隣にショッピングセンターを建設し、それらがアメリカでの出発点となりました。建設より不動産事業が先に始まり、その後日系のお客様がアメリカに進出してきたことに伴い、ニューヨークやシカゴ、アトランタ、ダラスなどに拠点を構え、我々の基盤である建設事業も開始しました。 86年、現地事業を統括する地域統括現地法人を立ち上げ、これが鹿島USAの始まりです。鹿島USAの下で建設事業と不動産事業の両方を展開しており、特に建設事業では、日系のお客様をサポートしていくだけでなくアメリカの複数の優良企業が我々のグループに仲間入りすることで規模を拡大し、現在に至ります。

計画名:Charlotte Metro
場 所:Charlotte, NC
発注者:Childress Klein Properties
設 計:TVS Design
2022 年10月完成予定

ー アメリカでの企業買収実績は。

鹿島USAは、現地で特色ある事業を展開する優良企業が我々の仲間になりたいと願うユニークな事業グループを目指しており、今までに建設会社3社と不動産開発会社1社を買収した実績があります。なお、不動産開発会社でも、建設部門を備える会社は、その部門を取り出して建設会社と不動産開発会社に分け、それぞれをグループ傘下に加えるというようなことも行っています。また、過去に売却した会社の主要スタッフが戻ってきて当社の傘下で新しい事業会社を立ち上げたこともあります。鹿島と言えば建設会社のイメージが強いかもしれませんが、アメリカでは不動産開発、いわゆるデベロッパーとしての事業も積極的に推進しています。

ー アメリカにおける建設・不動産業界のイノベーションは。

建設事業と不動産開発事業は同じサービス業でもビジネスとしては全く異なりますが、広義で不動産関連事業と捉えた場合、「生産性の向上」と「サステナビリティ」という2つのキーワードが双方に関係してくると考えます。生産性の向上についてですが、2017年に大手コンサルティング会社が出した有名なレポートによると、過去20年間で建設業関連の労働生産性の成長は年率1%に過ぎないそうです。一方、世界経済の成長率は2.8%/年ですので、このギャップを埋めるだけ生産性を向上させるとすると、世界のGDPを2%ほど押し上げられるのではないかと分析されています。そのため、アメリカの建設業のイノベーションというのは生産性の向上という方向で考えるのが潮流となっているのではないでしょうか。日本ではこの面への取り組みはかなり進んでいますが、アメリカは日本と比べてこの面での取り組むべき余地がまだまだ大きいと感じます。さらに、人々の活動のベースとなる不動産は、サステナブルな社会の一員であることが求められます。特にエネルギーの面においては、アメリカの新政権のインフラ投資政策においても重要な課題として取り上げられており、環境への配慮がビルトインされた不動産の開発に注力していく必要があると考えています。

鹿島USAが目指すのは、
現地で特色ある事業を展開する優良企業が、
私たちの仲間になりたいと願うユニークな事業グループです

ー アメリカにおけるイノベーションの特徴は。

建設業においては、BIM等のソフトウエアによってデジタルトランスフォーメーション化が進んできています。ドローンで現場のモニタリングをする、メガネ型のウェラブル端末で安全管理をするなど、様々な技術が開発されています。不動産開発事業においては、スマートフォンの登録情報データから、例えばショッピングセンターでの買い物客の動向、年齢層等を解析することで、統計データを作成でき、それを活用して次の開発に役立てることなどが試行されています。これらの技術開発にはリスクを伴う進取の精神が不可欠で、コンテック(コンストラクションテクノロジー)やプロップテック(プロパティーテクノロジー)と呼ばれるベンチャーやスタートアップが豊富に存在し、イノベーションを支えているところがアメリカ特有なものだと思います。

ー 貴社の強みとは。

建設と不動産開発の2つの事業を展開していること、そして建設では幅広い顧客層、不動産開発では多様な資産クラスを対象としていることです。新型コロナウイルスの流行が分かりやすい例で、ホテルやオフィスなどの分野は影響を受けて投資が止まりましたが、Eコマースの活況を受けて流通倉庫の需要は増加しました。傘下の個別事業別に見れば、顧客の分野、開発投資対象の資産クラスに偏りがありますが、グループ全体で見ると幅広い顧客層、多様な資産クラスを対象にしていることによって、事業環境に変化があってもある程度安定的・継続的に収益を確保していくことが可能になります。また、建設事業も不動産開発事業も人材が命のビジネスであることは同じですが、フローとストックというようにビジネスモデルが全く異なります。ただ、不動産開発の要素として建設、つまり設計と施工があり、主要なノウハウは共通する部分があるため、当社はモデルの異なるビジネスをひとつ屋根の下で展開できています。それによって、事業を展開する上での厚みができ、長期的な安定性を追求できると考えています。

ー サービス内容における特徴は。

日系のお客様からプロジェクトの途中で担当者が変わり、きめ細かいサービスが受けられなかったという話を聞くことがありますが、我々のサービスの特徴はアメリカでの経験が豊富な日本人社員と日系プロジェクトの経験が豊富なアメリカ人社員のコンビネーションにより、日本的なきめ細かいサービスが提供できる点です。アメリカでは設計と施工が分業化しており、設計が決まらないと建設が始まらないことがありますが、設計というのはなかなか決まらないのが正直なところ。予算について先に詳細を詰めたり、もっとさかのぼって土地探しにも協力したり、お客様のニーズに合わせて柔軟にサービスを提供しています。

ー コロナ禍での業績は。

おかげさまでそれほどコロナ禍の影響を受けずに済んでおります。建設事業においては、昨年はコロナ禍の影響が少なかった食品や製薬関係のお客様からのお仕事が増えました。食品というのは個人消費向けの製品のことで、それに連動したパッケージや印刷事業も含まれます。そして、流通倉庫の建設の依頼が増えています。また、当社は傘下に流通倉庫開発を行う不動産開発事業会社も抱えておりますが、コロナ禍でのEコマースの進展が追い風となり、我々が開発した流通倉庫に対して投資家の購入意欲は著しく高いものとなっています。不動産開発事業は、ホテルやオフィスなどは需要が減りましたが、マルタイファミリー(Multi-family)と呼ばれる、特に郊外型の賃貸集合住宅の需要は高く好調です。この背景には、例えばニューヨークのマンハッタンにある手狭な高層住宅よりも郊外のゆとりある住宅を好むという志向の変化があると考えられます。今までは経済が良ければだいたいの事業は好調でしたが、この過去1年間は経済が落ち込んでも好調な分野とそうでない分野のコントラストが明確となり、それが今までとは違っていると感じています。

「日本とアメリカでは仕事の進め方が違いますから、その違いをお客様にお分かりいただきながら、
きちんとしたサービスを提供していきたいですね」と話す内田氏

ー これからのビジネスについて。

コロナ禍を経て、長期的に世の中のニーズがどのように変わってくるのかを常に考えています。今までのように直接人と会わなくても仕事はできる一方で、会うことの重要性も痛感しました。これは生活やビジネスにおいていろいろな選択肢があることが明確になり、そして、その選択基準が今までとは違ってきていることを意味します。今後は、人々の選択の幅の広がりを認識した上で、その峻別を明確に行っていくことが社会の動向を見ていく上で重要になると予想します。建設事業と不動産開発事業のどちらにおいても、全く異なる社会のニーズを捉えていかねばならず、ただし、そこでも当社の事業のイノベーションを進める上でのキーワードの1つ「サステナビリティ」は変わらないと思います。現在のアメリカの新政権の政策を勘案すると、様々な技術や才能が集まり新たな都市を構想するスマートシティは、面白い課題になるかもしれないと思っています。

ニューヨーク便利帳®︎vol.30本誌掲載

Interviewer:Miho Kanai
Photographer:Hiro Edward Sato
※「アトランタ・ノースカロライナ・サウスカロライナ・テネシー・アラバマ・テキサス便利帳Vol.17」でのインタビューを再掲載