【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】東芝キヤリア・ノースアメリカ 社長 本郷 一郎

アメリカ市場向け商品の企画、開発を行うとともに、VRFを中心とした製品の営業技術やスペックイン活動を支援するエンジニアリング企業、東芝キヤリア・ノースアメリカ
日本の東芝とアメリカのキヤリア社のDNAを受け継ぎ、空調機器をメインに研究、開発、販売サポートを行う。2016年に設立されたジョージア州アトランタにある東芝キヤリア・ノースアメリカの本社を訪ねた。

ジョイント・ベンチャーである我々は、多様な企業、人、製品と関わっています。

まずは東芝キヤリア・ノースアメリカの沿革について教えてください。

成り立ちが少し複雑なのですが、東芝キヤリア・ノースアメリカは、ジョイント・ベンチャー(合弁企業)です。

まず、日本を代表する電機メーカーの東芝と、アメリカのUnited Technologies Corporation(UTC)のグループ会社であるキヤリア社のジョイント・ベンチャーとして、1999年に設立されたのが東芝キヤリアです。キヤリア社はアメリカに本社を置く世界シェア上位の空調設備メーカーで、エアコンなど空調システム全般の製造や販売を行っている会社です。北米ではNo.1のシェアを誇ります。日本で開発した東芝ブランドの製品を、キヤリア社が持つ販売網を利用して世界中に広める、というのが東芝キヤリア設立の目的です。

そしてこの東芝キヤリアとキヤリア社のジョイント・ベンチャーとして、2016年に誕生したのが、東芝キヤリア・ノースアメリカとなります。

事業内容について教えてください。

東芝キヤリア・ノースアメリカは、エンジニアリング企業です。北米向け製品のマーケティングから研究、開発、そして販売までの一連の業務を統合し、常に最大限の成果を実現するように尽力しています。
我々が扱っている製品はおもに、ビル全体の空調設備と、ビルの管理システムなどのコントロールシステムのふたつです。メインで取り扱っているのは業務用の空調機。研究所や工場は日本にあるため、製品の研究開発と製造は基本的に日本で行っています。この製品を、キヤリア社の販売網を介して、北米全体へ営業、販売していく。これが東芝キヤリアのビジネススキームです。
クライアントはさまざまで、建設会社のなかでもゼネコンとサブコン、空調機だけ交換するという場合はそのオーナーさん、設計事務所など、多岐に渡ります。キヤリア社販売チームの技術サポートも大切な業務です。

アメリカで会社を設立するに至った理由は何でしょうか。

東芝ブランドのグローバル展開を加速させるというのが設立の目的です。北米のマーケット調査を行い、どんな製品が人気が出るか、気候や環境に合っているかなどを調べ、そしてそれに合わせた商品企画や設計、開発を行い、また製品販売の支援も行っています。
弊社は北米のキヤリア社内に拠点を置いており、ジョイント・ベンチャーである我々は、多様な企業、人、製品と関わっています。日本とアメリカを繋ぎチームワークを最大限に発揮することが必要とされているのです。

日本とアメリカでは同じ製品を扱っているのですか。

アメリカでは、日本やヨーロッパで普及している空調とは全く異なるダクト式という仕組みの、水を冷やして冷房に、水を温めて暖房にする空調が主流です。水を循環させるための配管やポンプ、風を流すためのダクトなどが必要となります。
一方、日本やヨーロッパで普及しているエアコンは、フロンガスを使用して冷房と暖房機能を実現しており、ダクトが必要ないダクトフリーの製品です。アメリカでは比較的新しいジャンルの製品 となるので、この東芝ブランド製品の普及が我々の使命ですね。世界各地でずっと空調機を扱ってきた我々からすると、完全なる新大陸です。

また、ビル用マルチエアコンという商品セグメントも人気の製品です。北米ではVRF(Variable Refrigerant Flow) と呼ばれ、ビルや商業複合施設、大規模集合住宅などでおもに採用される、可変冷媒流量制御技術を採用したマルチ空調システムです。高い省エネ効果が得られます。

追い風を十分に掴み切れているか?自らに問いかけ続けることが大切だと思っています。

東芝ブランド空調機のアメリカでの反応はいかがでしょうか。

アメリカは本当に国土が広く、寒い地域もあれば暑い地域もあります。建物も高層ビルもあれば平屋造りもあります。そのため要望の種類も幅広く、すべてに応えるのが難しいという課題があります。
お客様の要望に合わせて、データをもらって検討し色々なものを組み合わせて提案するなど工夫をして、できる限りのサポートをしています。お客様の要望にも応えながら、販売店の売上も上げていきたいという思いがあります。

この業界における日系企業ならではの強みは何だと思いますか。

世界でトップクラスの省エネを達成してきた、省エネ先進国である日本ならではの技術は、世界No.1だと思います。また、高品質であるということも強みですね。

実は、空調システムの開発に必要なのは最先端の技術ではなく、機械、電気、流体、制御の組み合わせによるすり合わせ技術です。日本の得意としているさまざまなノウハウの積み重ねによる、製造メーカーの文化が、実はアメリカにはぴったり合うのだと思います。
技術者としては、過去から身に付けてきたノウハウでかなり活躍できる。これまでの積み重ねのすべてが、今の自分を大きく支えてくれていると感じます。

アメリカでの空調機のマーケットはいかがですか。

東芝キヤリアは来年で設立20周年を迎えますが、空調機のマーケットは順調で、海外を中心に成長しています。日本流の空調機のシェアが伸びてきているのも大きな要因ですね。我々もアグレッシブな事業計画を立てています。マーケットの可能性は大きく、グローバルでますます伸びて行くだろう領域です。
この日々変容を続ける市場で勝ち抜くためには、既存の考えやシステムにとらわれず、イノベーションを起こしていかなければなりません。

東芝キヤリアのアメリカでの今後の目標について教えてください。

2013年の売上に対して、2020年の売上を2倍にする、というのが弊社の目標です。そのために打てる手はすべて打っていきたいと思います。
技術面では、製品開発を強化して、業務用空調のビル用マルチエアコンのシェアを上げていきたいです。
いずれはアメリカでも自社工場を建てて、製造まで行えたらというのが理想ですね。

業務用空調のマーケットは、毎年10%から15%ほど売上が伸びています。何もしなくても売上が上がる、恵まれた環境にいると自覚しています。その追い風を十分に掴み切れているか?自らに問いかけ続けることが大切だと思っています。

最後に本郷社長ご自身について教えてください。また、アトランタでの暮らしはいかがですか。

私は技術畑出身です。もともとは東芝の家電機器技術研究所からはじめ、エアコン工場の量産部隊にいたり、本当に色々なことを経験してきました。
海外赴任は今回が初めてですが、海外出張は何度も経験しています。30年以上も前の話ですが、東芝の研修制度を利用し、1年半ほど米国サンディア国立研究所にいたこともあります。海外に住むことも、英語で生活することも、私には合っていると思いました。
海外プロジェクトなどの新しいことでも物怖じせずに、ガンガン前進してみる。そんなことを続けてきたら、いつの間にかアトランタに辿り着いていました(笑)。

アトランタは住みやすく、現地に溶け込もうとすれば、広く受け入れてくれる場所だと思います。もちろん苦労も多いですが、日本企業としてこれからを期待されている新天地で、技術に関わる仕事に携わらせてもらうことは、やりがいがあります。

Toshiba Carrier North America, Inc.President 本郷 一郎
1958年生まれ、島根県出身。東京大学工学部、東京大学大学院工学系研究科を卒業。1982年に東芝へ入社、2002年に東芝キヤリアへ転籍。2016年より東芝キヤリア北米社社長としてジョージア州アトランタへ赴任。一般社団法人日本冷凍空調工業会の前会長(2014-2016年)。
※2018年3月インタビュー時点

Photo : Jonathan Wade