【特別インタビュー】社会人のアメリカでのMBA取得体験

MBAとは何か?

アメリカでは社会人がキャリアアップのために大学院に戻ることは普通のこと。その代表的なものがMBA(Masterof Business Administration)、日本語で「経営管理修士・経営学修士」というビジネスの学位だ。  

発祥はアメリカ。1881年に「企業の経営を科学的に捉える」ためのコースとして、ペンシルベニア大学がウォートン校を開校し、1990年にはダートマス大学がビジネススクールを設立。1998年、ハーバード大学で初のMBAプログラムが生まれた。  

MBAは3大国際認証機関であるAACSB、AMBA、EQUISのいずれか、もしくは複数から認証されたビジネススクールでの修了が主だ。
学生は、経済学、統計学、会計、金融、マーケティングなど経営に関わる一通りのクラスを履修する。研究者ではなく、ビジネスの実践者としてのリーダーを育てることが目的のため、ケーススタディーやグループワークなど実践重視の授業が主で、欧米の学校では通常修士論文は必要ない。
実社会での実務者の能力向上のための学問なので、他の大学院と違い、働きながら学べるパートタイムのコースが充実しているのが特徴だ。  

ニューヨークでは、働きながらMBAの取得を目指す社会人は多い。日本の社会人がMBA取得のために留学する場合は、会社からの派遣でフルタイムで通学することが多いが、現地企業で働きながら、パートタイムのコースを会社の支援、もしくは自費で目指す社会人も少なくない。

「NY MBAの会」会員の竹内さとみさんも、社会人になってから自費留学でMBAを取得したひとりだ。

竹内さとみさん略歴

神奈川県立外語短期大学付属高校、国際基督教大学卒。学生時代に日本舞踊サークルの公演で訪れたニューヨークへの留学に憧れて、2012年に29歳で渡米、2015年5月ニューヨーク市立大学バルーク校MBA修了。2017年よりロンドン在住、Rakuten Insight London Limitedにアカウントマネジャーとして勤務。

竹内さんのきっかけ

竹内さんがMBA取得を目指し始めたのは、2011年に起きた東日本大震災がきっかけだった。
海外マーケティングリサーチ専門会社のAIP(現:楽天インサイト・グローバル株式会社)に転職して3年目、次のステップを模索しているときだった。
震災後、東京も交通が混乱したため自宅勤務になる。日本中が不安に包まれていたとき、部屋にこもって通常通りに仕事をしている自分に、「このままでいいのだろうか。もっと広く世の中に貢献したい」という思いがこみ上げてきたという。  

当時日本では、ブラック企業や、職場環境や働き方に起因するうつ病や自殺などが大きく取り沙汰され始めていた。「人が働きながら幸せになれる方法」を模索するためにも、経営の根本を学ぶ必要があると思いMBA取得を決めた。

MBAの取得

竹内さんがMBA取得の場にニューヨークを選んだ理由は、海外に出て広い視野で物事をとらえたかったこと、そして社会人が働きながらMBAを取得する環境が整っていたからだ。 過去に訪れたニューヨークで生活することへの憧れもあった。
アメリカの職場では、基本的に定時に仕事を終えることに罪悪感を感じる風習はない。社会人が勉学を続けることができる大きな理由のひとつだろう。  

とはいえ竹内さんの場合、会社からの派遣制度も、仕事を辞めて留学する余裕もなかった。
幸いにも上司の理解を得られ、同社のニューヨーク現地法人での「現地採用」という形で仕事を続けることが可能になった。
しかし会社がサポートできるのはここまで。学校を探し、入学申請をし、学費を支払うのはすべて自分だ。
キャリアを積みながらの結婚や出産・育児も視野に入れれば、独身の今しかないという思いもあった。  

社会人用にパートタイムのコースを開設している大学をリサーチし、ニューヨーク市立大学バルーク校を見つけたとき、「ここしかない」と思った。
ニューヨーク市に居住し就労、納税をしていれば、市民向けの授業料割り引きが適用されるのも魅力のひとつだった。
滑り止めとして私立のグローバルな大学も受験したが、本命はバルーク一校に絞った。

申請・入学準備

以下は通常入学申請に必要なもの。学校やコースにより異なる場合もあるので確認が必要。

  • TOEFLスコア(学校により足切り点の設定もある)
  • GMAT(Graduate Management Admission Test)スコア ※学校によりGRE(Graduate Record Exam)あるいはテストスコアを必要としない場合もある
  • 4年生大学の成績表
  • 推薦状(職場の上司、顧客や学部時代の教授など、各学校の要項による)
  • 志望動機のエッセイ

竹内さんは、翌年4月の出願締め切りを目指し、震災後の5月からエッセイや読解、ヒアリングなど、留学塾や通勤時間を利用しての猛勉強を始める。
自費留学なので会社に迷惑はかけられない。
残業後に24時間営業のファストフード店で追い込みをかけ、つらすぎて全部放り出したくなったときもあったが、1年後に無事合格通知を受け取った。

卒業までにかかる時間と費用

パートタイムコースは通常、平日の夜と土曜を合わせて週2~3日授業を取り、夏期インターンシップの代わりに授業を取ることで、2~5年で過程を修了する。
仕事や家庭の都合に合わせフレキシブルに受講クラスの予定を変更することも可能だ。
取得に時間をかけたくない場合、Accelerated Programのある学校では1学期に取るクラス数を増やすことで、1年半での修了も可能となる。
一方で5年かけてこつこつ頑張る社会人も多い。
竹内さんも当初はAccelerated Programだったが、途中で通常のパートタイムコースに切り替えた。  

費用は大学によって大きく違う。
有名私立大学では、授業料がフルタイムで年間5~6万ドルということも珍しくない。
一方、市立大学であるバルーク校のパートタイムプログラムは、2018年現在、ニューヨー ク居住者が48時間単位のコースを3年間で修了する場合、卒業までにかかる授業料は3万9,000ドルである。

カリキュラムと専攻

MBAではハーバード大学の「ケースメソッド」という、意思決定者が直面しうる状況を記したケースを読んだうえで、意思決定者の立場に立ちながら議論を積み重ねる授業スタイルが有名。
入学の準備はもとより、授業はさらに大変だったと竹内さんは語る。
「ネイティブでもない自分に対等な発言やプレゼンができるのだろうか」という不安をよそに、授業はどんどん進んでゆく。ひとりだけ落ちこぼれになった気分で悔し涙の繰り返しだった。それでもフィードバックを受けながら場数を踏むことで、プレゼンの技術に自信がついてきた。  

バルークではMBAコースも専攻に分かれており、竹内さんはHuman Resource Managementと、トヨタ方式も紹介されているOperation Managementのダブルメジャーを選んだ。
提供するプログラムは学校により異なるので、詳細を確認したうえで学校を選ぼう。

グループワークの苦労

MBAの授業ではグループワークも欠かせない。クラスメートとミーティングをし、担当を決めてプレセーテーションの計画を進めるのは、フルタイムで働く社会人にはそれだけでも大きな負担だ。
くわえて竹内さんが直面したのは、個人の価値観の違いだ。多様な背景の学生が集まっているため、宗教上の休日によるミーティングへの不参加や個人プレーなど、日本式の調和と合意を前提に進めるチームワークの常識が通用しない。
さまざまな価値観が混在するなか、それらを否定せずに、お互いの能力と時間を擦り合わせて課題を形にするためには、常にアンテナを研ぎ澄ませていなければならなかった。

「ニューヨークでMBA」で得られたこと

竹内さんは3年間の学生生活で、経営を学問として体系立てて勉強する利点を実感した。ケーススタディーで鍛えた会社の課題に対する考察力から、リサーチの仕事で異なる業界のクライアントに一歩踏み込んだ提案をできる素地を養えた。
また、多様な価値観や文化を持つチームであっても、相手のモチベーションを引き出し、最適なコミュニケーションを生むリーダーシップを発揮するため、経験や根性論だけに頼る のではなく、理論に基づき体系的に考える力がついた。これはビジネスのみならず、日常生活にも応用できることだった。

何より、日本で学んでいたら体験できなかったであろう多様なクラスメートと切磋琢磨しながら、限られた時間で仕事や複数プロジェクトをこなすためのマルチタスク能力と、広い視野が身についたと感じている。
また、ニューヨークという特別な場所に分野は違えどさまざまな夢や情熱を抱えて集まる人びとのエネルギーにも大いに刺激を受け、やりたいことには何でも挑戦しようという気持ちになった。  

グローバル化が進み、女性のリーダーシップが叫ばれて久しい。実務の理論を学ぶことは、自分のキャリアアップのみならず、働く環境にいるすべての人の幸せに繋がるはずだと竹内さんは信じる。
同時にMBAは資格でないので、将来の活躍や成功を保証するものではない。
すべては学んだことをどう生かすかだ。
今や企業経営の規模の大小に関わらず世界を相手にできる時代だ。MBAというタイトルだけでなく、その過程で得たものは未来を変える原動力になるだろう。

NY MBAの会

「アメリカでビジネスを通じて活躍したい人たちが集う場」を目指し、2015年に有志により設立。現在の会員数は540人にのぼる。毎月の定例会には、ニューヨークエリアを中心に全米、日本からもMBA在校生・卒業生、社会人、芸術家などが集まる。
毎回講義とディスカッション形式で行われ、トピックはファイナンス、マーケティング、IR、税務会計、エネルギー、人材、IT、自動車、通信など多岐にわたる。初心者にもわかりやすく、かつ上級者も満足できる内容で構成され、異業種への理解を深めるとともに参加者同士の繋がりも広がっている。
定例会は毎月第4木曜に開催。飛び入り参加も大歓迎だ。

New York 日本人 MBAの会
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©︎植山 慎太郎

社会人・経営管理経験者のためのパートタイムMBAコースがある大学一例

学校によりさまざまな分野にフォーカスしたプログラムが用意されている。MBA取得のための費用や時間、申請条件や授業内容などは、学校やプログラムごとに異なる。MBA/PMBA(Professional MB)/EMBA (Executive MBA)など種類があるので、各大学のHPで確認するとともに、自分にあったプログラムを見つけよう。