【メキシコで活躍する日本企業インタビュー】MISUMI México President 守屋 聡

President
守屋 聡(Satoru Moriya)

早稲田大学を卒業後、日系大手メーカーに入社。アイルランド現地法人社長、アメリカ現地法人社長、光電子事業部長を歴任。ミスミに2012年に入社後はエレクトロニクス事業部長やシンガポール現地法人社長を務め、メキシコ現地法人立ち上げを担当。2018年4月より現職。

 

 

─会社の沿革を教えてください。

弊社は、FA・金型部品の専門商社ミスミグループのメキシコ現地法人です。立ち上げ準備に着手したのが2017年 9月で 、本格的な営業開始は2018年4月となります。取り扱い商品は、FA部品や金型部品の他、エレクトロニクス部品や工具、工場副資材など。社内には物流倉庫を備え、弊社がこだわりを持つ「確実短納期」を実現するオペレーション体制を構築しています。納期は弊社在庫品で最短1日、輸入品でも標準5日目で出荷しております。従業員数は現在51名。お客様との接点であるカスタマーサービスなどに、多くの人材を充てています。

 

─設立の理由を教えてください。

弊社はミスミグループの米州事業のさらなる拡大を目指して設立され、ラテンアメリカで最初の拠点となります。メキシコは安価な生産コストを背景に安定した成長が見込まれ、当地ケレタロには日系の自動車関連企業も集積しているなど、自動車向け製品を強みとする弊社にとって非常に魅力的な地域でした。グループ企業であるデイトン(金型部品メーカー)が、既にケレタロに進出していたことも当地を選択した理由です。現地法人の立ち上げ時やオペレーションにおけるノウハウを共有できることは、メリットが大きかったです。

 

─企業連携の手応えはいかがですか。

ミスミは、流通機能も備えたメーカー商社です。自社製品については、注文後すぐに製造し、短時間で納品できれば競争力は高まりますよね。そういった狙いからも、デイトンとの関係はさらに発展させたい。デイトンと共同で移転拡張も推進しています。弊社が今年 6月にケレタロ市内のマルケスという工業団地へ倉庫を移転し、そこにデイトンも引っ越してくるというものです。弊社とデイトンはこれまで、約 3,000 平方メートルの敷地を使用してきましたが、移転先は8,500平方メートル。倍以上のスペースを活用でき、双方の事業に弾みがつきそうです。

 

 

─今後の拠点設立予定はありますか。

具体的にはまだありませんが、いずれは北部などにも営業・物流拠点が必要になってくると考えています。

 

─事業の概要を教えてください。

軸は、金型部品事業、FA(Factory Automation)事業、VONA(Variation & One- Stop by New Alliance)事業の3つになります。順に説明しますと、金型部品事業は、プレス金型やプラスチック射出 成形用金型に組み込む金型標準部品の製造・販売を行っています。FA事業は、主に工場の生産ラインの自動設備に使用される部品を製造・販売するものです。VONA事業は、ミスミ以外の他社商品をEC(Eコマース)サイトを通じて販売する事業です。商品1点から送料無料で、中小企業にとっても使い勝手が良いことがアピールポイントです。

 

 

メキシコ人従業員の誠実な仕事ぶりが、「確実短納期」の配送につながっている。

 

 

─ ECの手応えはいかがですか。

メキシコでは物流事情への不安を背景に、ECへの信頼感はまだまだ発展途上といった様子です。お客様が「本当に届くのか」と考えるのも無理はありません。このような状況のなか、弊社としては「確実短納期」の取り組みを地道に続け、ECが安心して購入できる手段であることを、多くの人に知ってほしいと思います。PRも重要で、先日はボクシングで「メキシコの英雄」と称されるカネロ・アルバレス(Canelo Alvarez)の試合に広告を出しました。会社への信頼を積み重ねていきたいです。

 

─利用者のニーズは他国と違いますか。

メキシコ人は会って話すことを大切にしています。ECのお客様にも「ヒューマンタッチ」へのニーズがあり、弊社はカスタマーサービスやインドアセールスなどにも力を入れています。例えば、カスタマーサービスで受け付けた質問に、従業員が回答するまでの時間をモニターするなど、サービスの向上に努めています。

 

─ 物流体制について教えてください。

日本からメキシコに向けては、成田空港発の便が毎日あります。荷物はロサ ンゼルスを経由してメキシコ入り。設立当初は遅れやトラブルが起きがちでしたが、今ではかなり改善されてきています。 メキシコ到着後の陸路は、現地の運輸業者数社を使い分けています。この理由としては、各社で強みとする配送エリアが異なるためです。また将来的には自社便も検討したいと思います。

 

─事業の課題はいかがですか。

現地へ浸透するのに、想像以上に時間がかかると実感しています。というのも、現地の企業は、我々の立場からすればニーズがあるように見えても、すでに他社との取引関係があり、簡単に利用を切り替えてくれません。弊社はそのなかで、営業や講習会での周知に力を入れ、顧客割合は現時点で日系企業と非日系企業が3:7。時間はかかっていますが、ローカル企業の開拓に手応えを感じています。政権交代によって労働関係法や輸出入規制が変わってしまうのも課題ですね。メキシコは大統領が左派系に変わったばかりですので、企業に対する姿勢は今後厳しくなると見ています。

 

─社内マネジメントで大切にしていることは。

社内の雰囲気を重視しています。弊社は間違いなく風通しが良いですよ。優秀な人材が多く、ほぼ全員が英語を話せるからでしょうか。例えば「朝会」を毎日開いており、日々の課題や数字的な目標、 お客様のコメントなどさまざまな事柄を共有し、朝会の最後には誰かに大きく、元気な声で「今日も頑張りましょう」と日本語で言ってもらい、1日の業務をスタートさせています。コミュニケーションが十分できているおかげで、従業員はミスミの企業文化についても理解してくれています。

 

 

ミスミの企業ロゴを囲み、笑顔でポーズする守屋聡氏と従業員ら

 

 

─人材確保や育成の取り組みはいかがですか。

良い人材を雇いたいので、採用には力 を入れています。採用では主に、弊社の雰囲気に合いそうか、英語のリテラシー(読み書き能力)があるかなどを見ていますね。育成にも力を入れており、ECでは2ヵ月のトレーニング期間を設けています。実は弊社は、離職者が 1 年で1、2人程度と、退職率が低いのが自慢です。人間関係も含めてうまく回っていますよ。

 

─メキシコ人従業員の魅力を教えてください。

それはやはり、真面目さですね。彼らは仕事を途中で投げ出すことなく、最後まで責任を持って働いてくれます。本当に信頼できますね。

 

─社としての目標を教えてください。

生産材のEC企業としてメキシコでの成功モデルとなることが目標です。メキシコにはまだ競合相手がおりませんので、「eカタログ」をより充実させ、弊社が強みとする「確実短納期」を継続していくことで、多くのお客様に「困ったらミスミに頼もう」と思ってもらえるよう頑張ります。その次は、ブラジルやチリ、アルゼンチンなど南米へも展開できたら良いですね。

 

─私生活や言語についてはいかがですか。

メキシコ生活は1年半以上となり、非常に快適です。気候が良いうえに食事も美味しい。普段から気を付けているので、今のところは治安も問題ありません。メキシコには、達成感を味わうまで離れたくないと思っています。スペイン語については苦労しています。動詞や過去形の変化に慣れるのが、本当に難しいですね。

 

─メキシコに進出する日系企業や駐在員にメッセージを。

メキシコは先程話した通り、気候と人の温かさが魅力です。楽しめることは間違いありません。ビジネスについてはさまざまな難しさがあります。何かを判断する際には、1つの情報だけを頼りにせず、 複数の情報を参考にすることが大事だと思います。頼りにできる人を見つけられるかも、鍵だと言えます。真面目に働いてくれる従業員がいれば事業は伸びます。 やはり人が全てですね。

 

 

Interviewer: Hisashi Abe
Photographer: Cristian Salvatierra
Editor: Shota Haga

2019年5月16日取材