【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】Pinewild Golf Corp. / President 佐藤 広一

Pinewild Golf Corp.
14 Culross Ct, Pinehurst, NC 28374

専修大学商学部卒業。公認会計事務所勤務を経て、デンマークとイギリスへ留学。帰国後、佐藤重機の取締役副社長を経て渡米。ビル、駐車場管理会社の設立・運営に関わった後、竹中工務店サンフランシスコ支社入社。その後レーベンUSAを設立、取締役社長就任。解散後、東ハトリアルティーUSAにて取締役副社長を務め、2001年東ハト製菓本社代表取締役社長に就任。02年パインワイルド・ゴルフ・コープを設立。

ウィズコロナ時代にみつけた、
新しいゴルフの未来

アメリカゴルフ界のメッカ、パインハーストに位置する「パインワイルド・カントリークラブ」。
そのゴルフ場を所有するパインワイルド・ゴルフ・コープ社のオーナーに、ゴルフ場と宅地開発の逆転成長の理由を聞いた。

ー パインワイルドCCの沿革は。

パインワイルドCCはノースカロライナ州パインハースト市で約2,100エーカーの敷地に3コース(54ホール)のゴルフ場と、1,800戸の宅地開発を基本計画として、1988年に地元5名の投資家によってパインワイルド開発として始められました。90年に資金調達の問題で売りに出された際、当時千葉県でゴルフ場を所有し、アメリカの姉妹クラブを探していた東ハト製菓が、ゴルフのメッカとして知られるパインハーストの立地に惚れ込んで買い取りました。当初は、パインワイルド開発の運営を任されていたパインハーストリゾートの親会社とパートナーシップを組み、既存のマグノリアコース(18ホール)に加え、93年にパー3のアゼリアコース(9ホール)、練習場とつながったチャレンジコース(パー4、パー3、パー5の3ホール)、95年にはゲーリー・プレーヤーデザインのホーリーコース(18ホール)の計48ホールと1,100戸の宅地開発を共同で行いました。98年にパインハーストリゾートとのパートナーシップを解消し、2002年まで東ハト製菓とその子会社東ハトリアルティーのパートナーシップにより運営を継続しました。私は東ハト製菓からオファーを受け、1990年に東ハトリアルティーの副社長としてパインハーストに赴任し、ゴルフ場運営に参加しました。

ー ゴルフ場経営の経緯は。

2000年に入り東ハト製菓のゴルフ場経営が悪化し、それに続く会社の窮状を救うため、私は日本に呼び戻され、その後東ハト製菓の社長に任命され、経営再建に取り組むことになりました。それは成功し、再びパインワイルドの経営に専念すべくアメリカへ戻りましたが、その後も本社の紆余曲折は続きました。2002年初め、東ハト製菓がアメリカのゴルフ事業から撤退したのを機に、私個人で買い取ることになり、現在に至っています。

ゴルフと郊外の宅地開発ビジネスは、
コロナ禍で人々に求められる事業としてプラスに働いています。

ー IT化とゴルフ運営の相性は。

会計、飲食、プレー予約、コースメンテナンス、メンバーシップ、プロショップ在庫管理、PRなど、全ての部門でゴルフコース運営ソフトの提供およびメンテナンスを行うIT企業と契約し、業務処理のスピード、在庫管理の正確さは毎年向上しています。パインワイルドではまだ導入していませんが、カートの位置情報ソフトでプレーの進行状況が随時確認でき、スタート時間への対応や、故障カートの把握など、コースで役立つシステムが開発されてきています。今後もコースメンテナンス機材へのAI化が進めば、コースやグリーンの芝刈りをAIが行い、人間でなければできない作業にメンテナンスクルーを集中できるようになると思います。

 

メジャー大会4冠「キャリア・グランドスラム」を達成した伝説のゴルファー、ゲーリー・プレーヤーとの2ショット。
1996年にオープンしたホーリーコースはゲーリー・プレーヤー設計だ

ーコロナ禍での変化は。

2020年の感染拡大に伴い、会員ゲストや企業、外部からの予約が1年分全てキャンセルになったときは、「とうとうこれまでか」と思いました。しかし政府からの援助ローンなどの支援で、1人も社員を解雇せず、当時進行中だったグリーンの張り替え工事も中止することなく危機を脱し、半年後には状況が好転しました。リモートワークの普及で大都市から郊外へ移住する家族が一気に増え、ゴルフは「屋外で距離を保ちながらできるスポーツ」として注目が高まり、人気が上昇し、プレー予約も新会員の数も順調に伸びてきました。結果、21年度は過去を大きく上回る業績を上げています。予約状況や新会員の増加数値を見る限り、ゴルフと郊外の宅地開発ビジネスは、コロナ禍で人々に求められる事業としてプラスに働いています。

ー パインワイルドCCの強みは。

最大の強みは立地です。ゴルフのメッカであるパインハーストに位置していることはもとより、会員がゴルフコースの周辺に住んでいることで一定の会員数が常に維持されており、リゾートプレーヤーの減少があっても経営に大きな影響がありません。また、宅地や住宅の在庫不足の状況下で、新規に区画開発が行える500エーカーの土地を所有していることも強みです。当社は社員に長く働いてもらえる環境作りを常に心がけています。20年以上勤務しパインワイルドCCの各業務を熟知し、問題への対応能力の高い社員が多くそろっていることも強みとして挙げられます。

ー ゴルフ経営の日米差は。

あくまで私見ですが、アメリカのゴルフ場は経営の安定と会員へのサービスとともに、地域貢献を重要視します。日本のゴルフ場は、立地も影響しているとは思いますが、地域とは隔離された空間で、顧客へのサービスを中心に考える経営という違いがあると考えます。
パインワイルドでは、地域貢献として教会関係、病院、高校、各種NPO団体、退役軍人の会が主催するチャリティートーナメントへのコースおよびクラブハウスの提供、施設の子どもたちへのゴルフレッスンなどを毎年無償で行っています。このような活動は、地域の新聞や雑誌に紹介されます。これらを通してクラブの認知度も上がり、将来のパインワイルドの発展にもつながると思っています。
日本ではゴルフは金持ちの遊びで、施設の維持コストも高く、土日だけゲストと車で遠方からプレーに来るという形が多いので、経営上、無償でチャリティーを開催することに、会員から理解を得るのは難しいかもしれません。しかし、このような地域貢献が、将来的に若い世代へゴルフの認知度を上げ、ゴルフ人口の増加につながると信じます。

 

ー ゴルフ場運営の苦労は。

良い人材の確保と、近年の気候温暖化に対応するグリーンのコンディションの維持です。パインワイルドでは、以前は全て寒冷気候に適したベント芝だけで管理も簡単でしたが、一昨年21ホールを温暖気候に適したゾイジャー芝に張り替え、昨年は18ホールを熱帯気候に適したバミューダ芝に張り替えました。芝は生物です。管理ミスで全てのグリーンが数日で枯れてしまうと、張り替えなければ再生できない可能性があります。そのコストは膨大で、頻繁に起きればコース経営は不可能になります。大学の植物科研究室の協力を得て、芝の根の健康を定期的にチェックし、肥料のアドバイスを受け、芝の管理を行っています。また、社員をメンテナンス協会の教育セミナーなどに積極的に参加させ、常に芝の管理に関する新しい情報を取り入れ、管理の強化を目指しています。

あくまで私見ですが、アメリカのゴルフ場は
経営の安定と会員へのサービスとともに、地域貢献を重要視します。

 

景観が美しい池越えのホーリーコース、12 番グリーン

ー 現在の事業全体の状況は。

パインワイルドは郊外のリタイアメント宅地開発マーケットとして、需要も開発もゆっくり進むと認識されていました。ゴルフ場はマイナス成長が続く中、生き残りの試行錯誤を重ねていたところ、コロナ禍が状況の悪化に拍車をかけると予想しました。しかし、時が経つにつれ、状況はプラスに転じ宅地も住宅もマーケットに出るとすぐに売れ、売り情報が不動産業者に届かず、個人間で売買が何件も成立するという今まで聞いたこともない現象が起きています。ゴルフも、戸外で他人との距離を保ちながら、安全で安心なスポーツとして認知され、会員の入会が増え続けています。コロナ禍で生まれた新しい意識が定着し、若い層の家族が増え、ゴルフクラブの会員の動きも多様になるでしょう。開発全体として活気ある、良い効果が生まれると期待しています。

ー 事業売却については。

私も今年70歳を迎えます。長年ともに働いてきてくれた社員たちも60歳に手が届く者が増えました。この辺で一旦精算して、まとまった退職金を彼らに渡したいと思い、事業売却を視野に入れ始めました。売却によって大きな影響を受ける各部門のマネージャーとは、オープンに趣旨を説明し、密にコンセンサスを取っています。現在は売り手市場で経営も順調に伸びているので、私が正当と考えた価格で買い手が現れたときにのみ売却することには同意を得ています。現在許可申請中の90エーカー80戸の区画開発の許可が近く下りる予定です。宅地の在庫が足りない状況は今後も続くので、今は売却せずに開発を進め、開発区画の売却益の有効な運用による増収、会員の増加などで、ゴルフコースの価値を高めてから5年後
に売却を再考する案も話し合っています。20年に渡り、マネージャーたちに約束したことは実行し全て守ってきています。皆も約束は必ず実行される、と疑わず協力してくれています。彼らの信頼に応えるためにも、売却の最善の時期を見極めるつもりです。

 

アトランタ・テネシー・アラバマ・テキサス便利帳 Vol.18本誌掲載

Editor: Sonoko Kawahara
2022 年 3 月 19 日取 材