【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】CBCアメリカ President & CEO 木田 勝紀

中外貿易株式会社という名で1925年に創業したCBC株式会社
化学品や染料などの輸入に始まり、90余年の社史のなかであらゆる分野の商品を手がけてきた。「創造商社」を称す同社は、世界30ヵ所以上に広げてきたネットワークを駆使し、一般的な商社の業態を超えて飛躍。次世代をも視野に入れた野心的なイノベーションは、止まるところを知らない。
CBCが北米本社を置くノースカロライナの社屋を訪ね、お話を伺った。

取り扱う製品に付加価値をつけて販売することで競合他社との差別化を図ってきました。

CBCのアメリカ進出の経緯について教えてください。

弊社は、中外貿易株式会社として1925年に創業しました。もともと化学品専門商社で、今でもそれがコアビジネスとなっています。
ニューヨークに進出した1970年を皮切りに、国外に駐在員事務所を拡大していきました。当時はマンハッタンに事務所を置き、欧米からの輸入をメインとする化学品の輸出入事業を行っていました。しかしマンハッタンに在庫を置いてのディストリビューションは課題が多かったため、ロングアイランドに自社ビルを建て、在庫を置き始めたのが、アメリカでの事業拡大の大きなきっかけです。

CBCの事業内容を教えてください。

部門ごとにご説明すると、母体になっている化学品専門商社のルーツを引き継いでいるのがElectronics Devices & Materialsの部門で、合成樹脂、化学品、添加剤などを扱い、最も売上があります。これにくわえ、アラバマに工場を置くIngsという部門では電磁波シールド加工やUV塗装などといった付加価値加工を行う工場を持っています。生活関連資材などを扱うLife Products部門では、食品や介護用品、食品パッケージなどを手がけています。Healthcare部門は医薬・農薬を扱い、今最も成長しています。タブレットの薬は1錠あたり0.1mgがAPI (Active Pharmaceutical Ingredient)と呼ばれる薬効成分なのですが、2006年にイタリアでAPIを製造しているプロコスという会社を買収し、世界各地に製品を提供しています。アメリカは世界一の医薬品のマーケットで、ジェネリックの使用率も格段に高く、まだ数年はかかると思いますが非常に期待しています。
そして我々の部門、Image & IT部門です。ノースカロライナのメベン市に倉庫を持ち、エンジニアなどが在籍するBroadsight Systems社が、防犯カメラの加工や、カメラ部品の製造を行っています。

商社事業のほかに、マニュファクチャリング部門も展開されていますが。

弊社では、取り扱う製品に付加価値をつけて販売することで競合他社との差別化を図ってきました。何かを買っても、右から左へ流すだけでなくそれを加工・改良するなどしてお客様により良い形で提供するのです。

弊社の主要事業のひとつであるセキュリティー光学情報機器の事業はアメリカが発祥です。初めは商社として製品を売買していただけだったのですが、マーケットの大きさを受け、社として初めてメーカー部門を設立しました。
セキュリティー事業はレンズから始まっており、その生産は日本が得意とするところでしたので、日本のレンズをアメリカで販売したのです。今では監視カメラなどを指す「CCTV」という言葉も一般的になってきましたが、当時は日本よりアメリカのマーケットが進んでいました。アメリカで拡大している市場は、他国でもいずれ伸びゆくという自然な流れがあり、ヨーロッパ、日本と受け入れられていきました。これが、一般的な商社の業態を超え、メーカー的側面を持って事業を進めていくきっかけとなったのです。
やがて化学品や医薬・農薬などさまざまな分野がそうした機能を持ち始めました。今では各部門にひとつは製造・加工機能を置いています。

数ある候補地からノースカロライナを移転先に決めたのは、この地の将来性を見込んだからです。

2015年に本社をニューヨークからノースカロライナに移転した背景は。

マンハッタン本社と、ロングアイランドの自社ビルの2ヵ所でビジネスを行っていたのですが、ふたつの理由から移転を決めました。
まず、ロングアイランドは家賃や生活費、税金も高く、ローカル採用の若い人材がなかなか定着しにくいという状況がありました。有能な社員がいても、プライベートの生活環境を考え他のエリアに引っ越してしまうケースが多かったのです。
もうひとつは物流のコストです。全米への物流を考えた場合、ロングアイランドはベストな立地ではありませんでした。

ノースカロライナを選んだのはなぜでしょう。

数ある候補地からここを移転先に決めたのは、この地の将来性を見込んだからです。
州主導の企業誘致も活発に行われており、一見田舎に見えるエリアですが、実際農地はあまりなく、暮らす人の多くが会社員なのです。ラーレー、キャリー、ダーラムに囲まれたリサーチ・トライアングルでは、とくに積極的に開発と誘致を行っているのが見て取れます。
州全体では、1日約80人のペースで人口が増えているという話もあり、実際肌でもその勢いを感じます。これはなかなか面白い場所だと考え、ここを選定しました。

ローカル人材のマネジメントについての取り組みを教えてください。

このオフィスの約80名のスタッフのうち、8名が日本人です。
ローカルスタッフのマネジメントは試行錯誤の繰り返しです。我々は商社ゆえビジネスの幅が広いので、採用の際、その人の持つキャリアと、担当してもらう業務を慎重に見極めます。
一方メーカー部門では、ある程度職務内容がはっきりしているので、それをいかに実行できるかが評価基準となり、ローカルスタッフの採用がしやすいです。既にいくつかの工場にはローカル採用のマネジメントを置いており、こうした現地化を進めていくのが社の基本的なポリシーです。

アメリカでのビジネスはいかがでしょうか。

優良な人材の確保も大きな課題ですが、世界でいちばん進んでいる国でビジネスをする難しさもあります。
全部門に言えることですが、アメリカは研究開発、テクノロジー、需要と、多くの点で世界一スピード感のある場所です。テクノロジーの進んでいるものを発掘し、それをビジネスに繋げていく、または投資をしていくのが我々の任務です。私が以前いたヨーロッパにも同様のことが言えましたが、スタートアップ企業などを見てもアメリカの方がさらにスピードがあります。とくにこのセキュリティー事業は、軍需から民需に下りてきていますので、圧倒的に進んでいると言えます。

今後のビジョンをお聞かせください。

やはりメーカー部門の成長は常に目指していきたいと思います。また、買収などを含めた投資をもう少し進めていく計画もあります。大前提として、本社の売り上げがあくまで一部となるよう海外で成長していきたいという目標がありますので、我々の使命はアメリカでこれまでにない新たなビジネスに参入していくことです。さらに勉強を重ね、コンサルタントにアドバイスを仰ぎながら、投資により業態を広げていくことを考えています。
また、セキュリティー事業はハードウェアからソフトウェアへと焦点を移行していく転換期にあります。3年ほど前に出資をしたソフトウェア会社が今年ようやく立ち上がりました。時間はかかりましたが、こうした部分が新しいビジネスになると考えているので、今年来年は大事な年になると考えています。

ノースカロライナに進出を検討している日系企業にアドバイスをお願いします。

ノースカロライナは州が誘致を進めており、積極的に事業をサポートしてくれるというメリットがあります。また、今後人口の増加が見込めるので、人材確保の面でも期待できます。
ただしひとつ、移動手段が要となる営業拠点を置くには、トランジットが多くなってしまうので、別の場所を検討した方が良いかもしれません。

ノースカロライナでの生活はいかがでしょうか。

木田CEO:とてもフレンドリーな土地柄です。先日、雪が積もって車がスタックしてしまったのですが、周りの車から皆出て来て長時間坂道を押してくれ、大変助かりました。自然が多いので、アウトドアも楽しんでみたいです。

藤田COO:他のエリアに比べ日本人の数が少ないので、おのずと地域との接触が多くなってきます。ニューヨークにも1時間で行けるアクセスの良さ、気候の穏やかさからも、住みやすい場所だと思います。

葛目CFO:人がとても優しく、近所の方にもとてもよくしてもらっています。イースターやハロウィン、ポットラックなどパーティーによく招待してくれます。また、夜が早くて健康的な生活ができます。

写真左から藤田COO、木田CEO、葛目CFO

CBC Americas Corp. President & CEO 木田 勝紀
1966年生まれ。1988年、中外貿易株式会社(現CBC株式会社)に入社。約7年間、東京合成樹脂で勤務後、シンガポールに赴任。2003年からはヨーロッパへ赴き、主にImage & Information Technologyを担当。2013年にはCBC Europe GroupのCEOに就任。2017年4月より現職。

Interview : Takayuki Kawajiri