【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】株式会社ミスミ President / 執行役員 蘆田 暢之

MISUMI USA, INC.
1475 E. Woodfield Rd, Suite 1300 Schaumburg, IL 60173

慶應義塾大学卒業。ノースウェスタン大学大学院(Kellogg)留学を経て、日系大手メーカーで営業、マーケティング、経営企画職を歴任。2007年、株式会社ミスミグループ本社入社。08年、ミスミタイランド代表取締役社長としてタイに駐在し、ミスミインド現地法人の前身となるインド駐在員事務所の立ち上げ、駿河タイランド工場長を歴任。12年、ミスミUSA代表取締役社長としてシカゴへ駐在。18年、ミスミメキシコ立ち上げ総責任者。

顧客視点でのQ(高品質)、C(低価格)、T(確実短納期)モデル対応。
それがミスミの「時間戦略」

1963年、金型部品を扱う商社としてスタートしたミスミグループは現在製造業も手がける。
そして「製造業の裏方」としてグローバルにビジネスを展開。その事業戦略は、同じ製造業者
としてのノウハウやアイデアを生かし、お客様目線の課題解決を徹底的に追求したからこそ
生まれたものだった。アメリカ市場における今後の展開について聞いた。

ー 会社の沿革は。

ミスミグループは1963年に田口弘が創業し、金型部品を扱う商社としてスタートしました。その後、2005年に駿河精機と経営統合し、商社機能と製造業とを併せ持ちます。取り引き先の業界は幅広く、自動車・EV・電気・電子・医療・食品・半導体・航空・3Dプリンター・自動倉庫・建設関連など製造を必要とするあらゆる企業様とお付き合いさせていただいています。グローバルに展開し現在では全世界に62の営業拠点、18の配送センター、22の生産拠点を構えており、海外売上比率も50%を超え日本国内に迫る勢いで成長を続けています。

ー アメリカ法人の歩みについては。

ミスミUSAは1988年に現地法人として設立。当時はアメリカの商材を現地メーカーから購入し日本のお客様へ輸出する拠点としてスタートしました。2001年に新経営体制となり、アメリカを含む海外拠点でも日本と同じ事業を現地のお客様へ展開するという経営方針を打ち出し、アメリカ国内へ向けたビジネス展開にも注力し現在に至ります。現地法人設立後の業績は毎年2桁以上成長を継続しています。

ー 事業内容は。

大きく分けて「FA事業」「金型部品事業」「VONA事業」の3つの事業を展開しています。まず、FAはFactoryAutomationの略で、主に工場の生産ラインの自動設備に使用される部品を製造・販売する事業です。FA部品や、部品を組み合わせたユニットなどを提供しています。例えば近年、製造工程で人に代わりロボットや搬送設備が多く採用されています。搬送・溶接・組み立て・梱包などの作業を行う自動設備の需要は高く、その設備の部品となる製品を企画・製造・販売しています。次に、金型部品事業は、金型そのものを造っているのではなく、金型を構成するのに必要な部品の製造・販売をしています。例えばプラスチックとなる樹脂を金型に流し、それが固まり型から抜く際に押し出す部品であるエジェクタピン、車のボディーを圧縮形成する際に用いられる鉄やアルミが対象のプレス金型用部品などです。金型には耐摩耗性や耐久性、精度の高さが求められます。そして3つ目のVONA事業(Variation&One-stopbyNewAlliance)は、業界最高水準のB2B向けEC基盤を活用しミスミブランド以外の他社メーカ様の商品を含め販売する事業です。分かりやすく例えるなら、B2B版アマゾンでしょうか。アマゾンでは商品の種類やブランドを超えてB2C商品を1カ所で購入することができますよね。私たちもB2Bのお客様向けに、製造現場で必要とされるメカニカル部品・エレ部品・工具・消耗品まであらゆるものを自社のプラットフォームを通して「ワンストップ」で調達できるよう2010年に事業を開始。高品質・低価格・確実短納期を実現させました。現在では3,000社を超えるメーカー様、3,000万点を超える商品を扱っています。弊社が取り扱う製品は、最終製品の製造工程で使用される設備や部品なので、皆様の目に直接触れる機会は製造現場の方々を除いてあまりありません。そのため事業内容を理解していただくのは難しいところですが、「製造業を裏方としてサポートする事業」とご理解いただければと思います。

ー貴社が掲げる「スピード出荷可能、納期遵守率99.9%」を実現させる仕組みとは。

これは正にミスミの事業コンセプトである「ミスミQCTモデル」です。QCTはQuality(高品質)、Cost(低価格)、Time(確実短納期)に由来します。高品質な製品を扱うのは絶対条件。それらをいかに安く提供できるかに価値があると思っています。また、確実短納期というのは、お客様が欲しいときに、欲しい分だけ、欲しいタイミングで確実にお届けするという意味です。北米には自社在庫拠点が4カ所(オハイオ、LA、シカゴ、メキシコ・ケレタロ市)、自社製造拠点が6カ所ありますので、ご希望の場合は部品1つからでも在庫品は即日発送します。1週間後に欲しい場合は1週間後に確実にお届けします。お客様のご要望や納期指定日に確実にお届けするこのQCTモデルは、事業の根幹であり、全社員が意識している非常に重要な事業コンセプトです。

 

2020年稼働:自動倉庫外観(オハイオ州ディトン)

ーそのコンセプトを実現するための具体的な取り組みとは。

先にも申し上げた、お客様の希望納品日を確実に守り、迅速に対応する「時間戦略」の現場適用だと思います。迅速な対応はお客様への提供価値であり、高く評価していただいております。例えば、お客様からの見積もり依頼は多品種・小ロットの複雑なものでも20分以内に回答。受注書が届いたらその瞬間に処理を開始。製造現場では生産指示書にある期日に必ず製造します。物流拠点でも、製造現場から納期通りに他拠点から届いた商品と合わせて指定された納期に確実に届ける仕組みを構築しています。お見積りから受注・製造・出荷までの対応処理はすべてデータ化して常時モニタリングしています。万一、納期遅れが発生した場合は早急に策を検討し、多少自社コストがかかってもすぐに対応します。この迅速さがお客様に対する我々の「付加価値」であり、「確実短納期」の実現はリピートにもつながります。アメリカ拠点においても、日本と同等かそれ以上のサービスを提供することが今後も必須だと考えています。

ー 日本とアメリカの市場における違いとは。

製造における違いはいろいろあります。1つ挙げるなら、アメリカでは日本で取り扱いのない製品・規格・サービスが求められる点です。日本やアジアでは規格、求められるサービスレベルが比較的近いのですが、アメリカではジャンボジェット機の製造を行う企業も、日本より大きいサイズの車を製造する企業もあります。それらを造るために必要な自動設備も大型のものになります。自ずと製造ラインを支える自動機のサイズも大きくなり、より大きく、耐荷重に耐えられる製品、ロットが求められるのです。日本と同等のサイズや品質、製品でカバーしきれないため、必要とされる製品のバリエーション、数量も増えます。アメリカの現地企業が求める製品、つまり現地のお客様のニーズに合ったものを開発しなければアメリカでは受け入れてもらえません。そこが日本や他アジア拠点との違いだと言えます。

ー 自身のキャリアや携わったプロジェクト例は。

前職は日系大手メーカーで営業、マーケティング、経営企画を統括していました。ミスミに入社し、タイでは工場長(兼)社長を務めると同時に、インド現地法人の前身であるインド駐在員事務所を立ち上げ、市場参入に向けたフィジビリティスタディーを実施しました。また、2017年ミスミメキシコの事業計画をゼロから策定し、立ち上げの総責任者も経験させてもらいました。アメリカを含め今まで数々の失敗を経験し痛い思いもしましたが、優秀な幹部・社員に恵まれ数々の貴重な経験をさせていただいたことにはとても感謝しています。

 

ー 日系企業がアメリカで成功する秘訣とは。

私の経験から言えるのは、日本流で押し切るのではなく、日米には違いがたくさんあることを前提に取り組むことが大切です。それには現地顧客や従業員の声をきちんと聞き妥協なく協議したうえで、重要な要素は事業運営に反映させること。同時に現地の幹部に会社の事業コンセプトをよく理解してもらい、現地顧客に受け入れられる事業モデルを共に構築することだと思います。現地のやり方やニーズをいちばん把握しているのは現地従業員です。アメリカの企業と取り引きする際に鍵となる彼らが主体的に事業を回せる仕組み作りをすることが、アメリカでビジネスを円滑に進める秘訣だと考えます。また、日本には製品の質の高さや時間を守るという強みがあり、アメリカはIT、先端技術の先進国です。そうした現地の強みと融合させていくことが大切ではないでしょうか。

 

2020年移転:ミスミUSA本社新社屋(イリノイ州シャンバーグ)

ー ミスミUSAの今後の展望は。

今ミスミのアメリカ事業の従業員は1,200名、売上はグループ全体の10%強の400億円強ですが、今後も確実に伸びる市場であると見ています。アメリカにおける製造業は既に成熟しているとはいえ、人件費の高い北米におけるFA需要はIT化も加速し今後もますます高まります。我々の製品やサービスを提供できていない企業様はまだまだ存在し、そうした将来のお客様と今後の事業領域の広がりを考えると飛躍的に成長するポテンシャルがあります。狙うべきは向こう5年北米地域で1,000憶円を超える売り上げの実現です。物流面では2020年は北米における第4物流拠点としてオハイオ自社工場敷地内に最新鋭の自動倉庫を設立し、30万点の在庫キャパシティを確保しました。19年度にはメキシコの生産・物流キャパもこれまでの5倍へと拡張させました。今後も成長の布石として製造・物流・IT・EC基盤強化に向けた積極的な大型投資を継続していきます。その先は、3,000億円の売上を北米で実現できないと北米で事業をしている意味がないと思っています。また、今後の差別化要素として「確実短納期」に合わせITを駆使したエンジニア向けソリューション基盤の提供を計画しています。我々の製品を購入するお客様はエンジニアです。その方々にお使いいただけるソリューションをEC基盤を使って提供することで、お客様の設計シーンをより簡潔にするとともに、商品選定がより簡単にできるようなプラットフォームを構築するなど、IT技術とミスミの強みであるQCTモデルを融合させた事業サービスで、お客様のお役に立つことを目指して参ります。

 

アトランタ・テネシー・アラバマ・テキサス便利帳 Vol.18本誌掲載

Photographer : Amy Bissonette
Editor : Miho Kanai
※「シカゴ・デトロイト便利帳 Vol.16」でのインタビューを、
再編集して掲載。 2019 年 1 月 10 日取材(2022 年 3 月 28 日編集 )