【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】Onward U.S.A. LLC / J. Press, Inc CEO & President 村上 潤

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1977年、横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、ニューヨークのファッション工科大学 (F.I.T) 1年間留学。2003年、オンワード樫山に入社し、レディースウェアの商品企画に携わる。2008年より2年間香港に駐在。2010 年にシンガポールの現地法人を立ち上げ、7年間社長を務める。2017年3月より現職。

 

生産、販売、価格をスマートに カスタムスーツブランドを全米展開

オンワードUSA が、2019 年 1 月ウォール街のシェアオフィス「WeWork」で カスタムスーツブランド「KASHIYAMA」の展開を始めた。現在は全米 6 都市、9 店舗に拡大。オーダーメイドスーツが 300ドルから作れるというサービスの仕組みや、今後の展望について話を聞いた

―アメリカでの沿革を教えてください。

1927 年創業のオンワード樫山初の海 外 現 地 法 人 とし て 、 1 9 7 2 年 に ア メリカ 法人が設立されました。1986 年には「J. Press」というアメリカのメンズファッション ブランドを買収し、現在まで展開を続けて います。弊社オリジナルブランドにおい ては、しばらくレディースが中心でしたが、 2018 年より日本全国に店舗を広げるカス タムスーツブランド「KASHIYAMA」のアメリカ展開を始めました。

―カスタムスーツブランドを選んだ 理由は。

カスタムスーツはひとことで言うと、さま ざまな人の体型に合わせる商品。日本と 比べてアメリカのほうが体型の個人差が 大きく、問題を抱えている人が多いです。 多くの人は体型に合っていないスーツを 着ていると思います。アメリカのニーズに 合ったビジネスモデルだと思い、展開を決 めました。

― 「 K A S H I Y A M A 」の 特 徴 を 教 え てください。

オーダーメイドスーツが 300ドルから作 れます。アパレルの多くは直営工場を持っ ていないのですが、弊社は100%自社の直 営工場で生産。サプライチェーンの改革 とシステム化により無駄な工程を削減しま した。それにより、現在オーダーから最短 10日間で商品が届きます。余計なコスト がなくなり、低価格を実現できます。一般 的 に オ ー ダ ー ス ー ツ は 安 く て も 5 万 円 、納 期は2ヵ月ほどかかります。これをもっと「安 く」「速く」するにはどうしたら良いかを考 えて、このイノベイティブなブランドモデル ができました。

村上氏が着用しているのも同ブランドのカスタムスーツ。ネクタイは「J. Press」のもの

―オーダーの仕組みを教えてくだ さい。

ウェブサイトで来店予約を入れていただき、まずは店舗で採寸します。採寸 後、サイズサンプルを着ていただき、それ をベースに寸法確認と補正をし、サイズ を確定いたします。その後、お好みのデ ザ イ ン や 生 地 な ど を 選 ん で い た だ き オ ー ダーをしていただくフローです。オーダー 時に必要な情報が各部署に届き、素材の 手配と生産の準備がスタート。あらゆる 関係者に瞬時に情報が飛び、各所が一 斉 に 動 き 出 す の で す 。 実 際 に 工 場 で ス ー ツを作る期間は4日間。前後のやり取りと 物流でプラス6日間。もっと無駄を省けば 短 縮 で き る の で 、 2 0 2 0 年 中 に は 最 短 7日 間にしたいと考えています。実際に日本 の店舗では物流にかかる時間が少ない ため、最短7日間です。

―WeWorkでの出店を決めた理由は。

今アメリカの小売店で起きている問題 は実店舗の経費負担が厳しく、利益が出 せないという点。ファストファッションブラ ンドも、ものすごい勢いで店を閉めていま す。シェアオフィスを利用すれば路面店 を出すよりも家賃が圧倒的に低く、出店時 に一番経費がかかる設備投資もほとんど 必要ない。あとは路面店だと10 年など 長期の物件契約が必要ですが、ここは最 低 1 ヶ月からの契約。WeWork はニュー ヨ ー ク 市 内 に 6 5 店 舗 ほ ど あ る の で 、気 軽に場所を移せるのも良いですね。そ し て フ ィッ テ ィ ン グ に は 1 名 に つ き 約 1 時 間 か か る た め 、当 店 は 完 全 予 約 制 で す。その点では、路面店がある必要はあり ま せ ん 。 2 0 1 8 年 の 1 1 月 に ミッド タ ウ ン に あるオフィス併設のショールーム兼店舗を 作り、2019 年1月にウォールストリートの WeWork で出店。現在ニューヨークに 2 店 舗、ボストン、フィラデルフィア、ワシントンD C 、シ ャ ー ロ ッ ト 、ダ ラ ス に 各 1 店 舗 、計 8 店 舗をWeWorkに展開しています。現在は なるべく広いエリアでどのような反応があ るかを探っている段階なので、簡単に出店 できるという点でそのようにしています。

ウォールストリートにあるWeWork 内の店舗

―実店舗を作る予定はありますか。

2 0 2 0 年 に 、北 米 初 の 路 面 店 を 出 す こ と を計画しています。今、店舗を持たずに オンラインだけで運営するファッションブ ランドに勢いがありますが、オンラインで 成功したブランドは現在、実店舗を作り 始めています。やはりお客様のタッチポ イントがオンラインだけでは、かなり制限 が あ る の で す 。 我 々も 、 W e W o r k の 空 中 店舗のみではなかなか認知度を上げら れ ま せ ん 。 で す か ら 、少 な く と も 1 店 舗 は 実店舗を出すことで認知度を上げ、もっ と開かれたブランドにしていきたいです。 出店には資金がかかりますが、広告塔と しての役割は絶大です。また、来年 4 月 から2 回目のオーダー以降全てオンライ ンでできるようになります。しかし、まず1 回は採寸のためお店に来ていただかな いといけないため、より多くの場所に店を 置いておく必要があると考えています。

―現在の生産拠点は。

「 K A S H I Y A M A 」は 、現 在 は 1 0 0 % 中 国 の直営工場で生産。2019 年冬からは日 本製の商品展開も始まります。このブラ ンドは、1 着ごとに工場からお客さまの ご自宅に直送しています。真空パックの ように特殊なパッキングシステム、「パック ランナー」で届くのですが、繊維中の水分 を抜いて封入してあるので、開封してハ ンガーで吊るしておけば徐々に繊維が空 気中の水分を取り入れて、約一時間で型 くずれのないスーツに回復します。

―購入者からの評価はいかがですか。

リピート率が高く、多くの方に気に入っ ていただいていると感じます。アパレルの ノウハウが蓄積された会社なので、すごく クオリティが高いんですよ。「安かろう、悪 かろう」ではなくて、良いものを低価格で 提供するノウハウがあるのです。競合他 社で安いスーツを売っているところもあり ますが、正直クオリティは低い。私たちは 普 通 に 買 っ た ら 5 0 0 ド ル す る ス ー ツ を 3 0 0 ドルで売るというコンセプトです。本当に余計なコストを抜いたらそうなります。

―具体的にクオリティーとは。

生地の質と、縫製の技術力の高さです。 私が今日着ているスーツはイタリア製の 生地で、当店での販売価格は800ドルで すが、普通に買ったら倍くらいすると思い ます。弊社は他にもたくさんブランドを 持っているため、生地の調達力があります。 そして直営工場のため、生産技術の指導 も行き届いています。

―自身の経歴を教えてください。

大 学 卒 業 後 、ニ ュ ー ヨ ー ク の F . I . T (Fashion Institute of Technology)に1 年 間留学し、ファッションを学びました。帰 国後オンワード樫山に入社し、レディース の商品企画を5 年間経験。その後 2008年に香港に赴任し、2 年間駐在。2010 年にシンガポールで会社を立ち上げるこ と に な り 、現 地 法 人 社 長 を 7 年 間 務 め ま し た。そして 2017 年 1 月にニューヨークに 赴任。シンガポールで社長を任されたと き は 、ま だ 3 2 歳 だ っ た こ と も あ り 、 1 か ら 会社を作るのは本当に大変でした。今思うと何ともないことだったのですが、当時は本当に何も分からなかったので。

―従業員に伝えていることは。

接客に関しては、お客様がコンフォタ ブルであることが何よりも重要だと伝え ています。お客様の性格に合わせた接 客を大切にしています。お客様によって は、変にスーツの知識を語ったり、過剰に アドバイスしたりすると、萎縮して意見を 言いづらくなります。そのため、仕立て屋 によくいるような熟練の職人というよりも、 経験は少なくても、柔軟性のある元気なス タ ッ フ を 積 極 的 に 雇 っ て い ま す 。 当 店 の 採寸は一番近いサイズサンプルを着て いただき、そこから調整をしていくやり方。 1からの採寸ではないので、ベテランでな いといけないことはありません。フレンドリーな店作りを通じて、敷居が高いイメージの カスタムスーツを誰でも気軽に作れるもの にしたいという思いがあります。

―今後の展望を教えてください。

店舗数拡大に加えて、商品展開も広げ ていきたいです。最近、カジュアルで軽 い「モダンテーラー」というスーツを開発 し販売が始まりました。Tシャツやスニー カーに合うスーツで、洗濯機で洗える。 ジーンズよりも楽な履き心地で、私もよく 着 て い ま す 。 ま た 2 0 2 0 年 か ら 、レ デ ィ ー スのカスタムスーツの展開も始まります。 長期的な目標としては、アメリカでオン ワードUSAを飛躍的に発展させたいで すね。日系のアパレル企業がアメリカで 利益を出すのは非常に厳しく、どこも苦戦 をしています。アメリカという世界最大の マーケットで、日本の自動車や電化製品な どは成功しているのにアパレルはできて いない。ですから、買収などではなく日本 のアパレル企業として、オンワードUSAを 成功に導きたいと強く思っています。

 

 

Interviewer: Miho Kanai
Photographer: Masaki Hori

2019 年 9 月24日取材

ニューヨーク便利帳®︎vol.28本誌掲載