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President: 石田 武 (Takeshi Ishida)
1993年にソニー株式会社入社。海外駐在歴が長く1995年からのアメリカ・マイアミを皮切りに、1997年にはチリ・サンチャゴへ赴任。2002年に帰国し本社オーディオ事業部での勤務を経た後、2005年に再び海外へ。アメリカのサンディエゴ、アトランタ、サンフランシスコに計11年駐在した後、2016年からスペイン・バルセロナでイベリア半島のビジネスを統括。2018年11月にソニーメキシコに赴任し現職。
ソニー製品はメキシコでも知られた日本ブランド。国内販売を担うソニーメキシコ(Sony Comericio de México, S.A. de C.V.)社長の石田武氏に、高付加価値化が進む商品トレンドや独自技術、事業が伸びている背景などを聞いた。
─ソニーメキシコの沿革を教えてください。
ソニーがメキシコでの商売を始めたのは1979年です。当時は現地法人ではなく代理店を利用して、日本で生産した商品を市場に提供する形でした。ソニーメキシコの設立は1994年で、これによりメキシコ国内での直接販売が始まりました。今年2019年は、メキシコでの商売開始から40年と法人設立から25年となり、2つの節目に当たります。ソニーブランドはメキシコでも、社の先輩方のおかげで広く認知され、確立しています。このことは、私が赴任してきた2018年11月当時、一番の驚きでした。
─事業内容と伸びている事業を教えてください。
事業は、テレビやビデオ、オーディオ、カメラといった家電の販売が主なものです。基本的に全ての事業を伸ばしていますが、好調な部分は家電カテゴリ内で変化しています。例えば音響機器はこれまで、大型のオーディオコンポーネントなどが売れていましたが、今ではヘッドフォンなど小型の物が好まれています。カメラならコンパクトデジタルカメラからデジタル一眼レフカメラへ、テレビなら30〜40インチ台から55インチ以上などの大型が伸びています。
─御社の商品には、高付加価値化が進んでいる印象を受けます。
テレビの大型化は昨2018年のサッカーW杯を皮切りに進みました。なかでも伸び率が高いのは65インチ以上。テレビは今、大型、4K、ネットワークの3つが軸となって市場が盛り上がっています。音響機器では、Bluetoothヘッドフォンが世界的に伸びており、ノイズキャンセリングなどの機能を兼ね備えた高付加価値なタイプが売れています。カメラはフルフレームが好調です。フルフレームとは、カメラ性能を左右するセンサーサイズが最も大きいタイプのことで、弊社ではα7シリーズやα9がこれに該当します。センサーサイズが若干小さいAPS-Cの6000シリーズも、α7などと同様に好調です。高付加価値商品が伸びているのは事実としてその通りですが、弊社はベーシックな商品も含めて全て取りそろえていますよ。
─デジタル一眼レフカメラは昔と比べ、より身近な存在になりましたね。
家族写真や旅行写真を、良いカメラで撮りたいという需要は根強くあります。我々メーカーは過去、スマートフォンの登場によってカメラ市場が縮小することを懸念していました。確かにコンパクトデジタルカメラのベーシックモデルなどは市場が縮小しましたが、その一方で高付加価値商品への需要はまだまだあり、今はスマートフォンとうまく共存している状態と言えます。現在は写真を転送するためのWi-Fiの付いているものが多いですね。もし機会があればぜひ、α7やα9を使ってみてください。写真を見た瞬間に良さが分かります。撮影がうまくなったような気分にもなるので、きっと買いたくなりますよ。
─御社のカメラのアピールポイントを教えてください。
それは、人間の瞳にピンポイントでピントを合わせるアイ・オート・フォーカスです。この技術を使えばスピード感のある動きのなかでも、ピンぼけすることがありません。2019年からは動物の目にも対応するようになりました。これは本当にすごい技術で、私自身も「この機能は自分も試さないといけない」とカメラを買い替えました。ソニーでの仕事は20年以上になりますが、今は特にお客さんに説明しがいのある商品が多くあります。弊社のアンバサダーを務めているプロカメラマンも、この機能によって撮影が一層楽しくなったと言ってくれました。彼は、モデルの自然な動きのなかで写真を撮れるようになり、仕事の幅も広がったそうです。プロがこのような感想をくれたことは、私たちにとって大変励みになりました。
─このような機能があるとは驚きました。御社の製品はメキシコのどこで購入できますか。
ありがとうございます。ソニー製品はエル・パラシオ・デ・イエロポランコやリベルプールなどのデパートや、ベストバイ、ソニーストアなどで販売しています。
─商品はメキシコ向けに製造しているのですか。
メキシコ向けだけに特化した製造はしていません。ただし、メキシコの国民性や市場に合う物を販売するようにしています。例えば音響機器なら、当地では低音がパワフルなものが好まれるので、それに合う商品を持ってきています。もちろんテレビなどは、現地のテレビ局などが配信しているネットコンテンツなどを視聴できるようにしたうえで、販売しています。
─メキシコでの事業が伸びている理由を教えてください。
1つ目は1億人規模という人口の多さです。国土がアメリカに接しているため、新しいものへの関心も強くあります。2つ目は、流通形態の幅広さです。メキシコは他の中南米の国と違って、デパートや家電専門店などの小売りのほか、エレクトラコペルなど特有の販路があります。流通業者によって客層も違いますので、それぞれの特性を踏まえて商品を出せば、必然的に伸びていくのが、今の状態です。
─店によって推す商品を変えているということですか。
そうです。店側が在庫を抱えることは避けたいので、我々は業者側と話し合って商品を選別し、そのうえで販売する戦略をとっています。今一番力を入れているのが、販売員やプロモーターのトレーニングです。店頭での販売は我々の基本ですし、お客さんにはどのような商品か理解したうえで買ってもらいたいですから。
─メキシコ特有の大変さはありますか。
交通渋滞がつらいです。我々の商売は店を回って情報を吸い上げることが大切なのですが、外で渋滞にはまってしまい、行こうとしていた店を回れなくなることがしばしばあります。行きたい店があっても治安に懸念のあるエリアだと、そこに出向くことすらできず、市場の把握ができません。
─困難にはいつもどう対応していますか。
社員には、困難や壁にぶち当たったときは「Back to Basic with Change」だと伝えています。意味としては、基本に戻ったうえで、どのような変化やアクションが必要か考えようということです。例えば今まで売れていた商品が売れなくなったら、まずは店頭に出向いてその理由を考える必要があります。他社が何か仕掛けたのか、消費者のニーズが変わったのか、自分たちのできていないことは何かなど。僕が、皆が使う「Back to Basic」という言葉に「with Change」を加えているのは、物事は変化がなければ必ずダメになると考えているからです。
─そう考えるようになったきっかけはありますか。
リーマンショック後の厳しい環境を経験したことがきっかけでした。当時は流通企業が倒産するなどパニック状態。私たちは最初は、あらゆることをしようと焦りましたが、結局はそれを止めて、自分たちの原点である店頭活動にしっかり取り組みました。このような流れのなかから、そう考えるようになりました。
─海外駐在歴が長いですね。メキシコでの仕事は、他国と比較したうえでいかがですか。
ソニーでは20年以上が海外勤務になります。入社3年目でアメリカのマイアミに赴任し、5年目で今度はチリに5年駐在。一度日本の本社に戻った後、今度はアメリカのサンディエゴ、アトランタ、サンフランシスコに計11年駐在しました。メキシコに来る前はスペインに2年いました。メキシコは国としてのユニークさや人口密度の高さのほか、人々の情熱も感じる楽しいマーケットです。従業員もまじめですね。料理はおいしいですし、日本食も食べられるので不満はありません。スペイン語は、チリとスペインに駐在していたので多少は話せます。
─メキシコではどのような仕事を意識していますか。
団結力を高めてチームで仕事することです。これはメキシコだからという訳ではなく、私自身この会社で一貫して意識しています。例えば店頭は担当者だけに任せるのではなく、マーケティングもセールスも経理も1人1人が、何ができるか考えることが大切です。現在は社風をそのように作り上げようとしている過程で、成果は徐々に出ていると感じています。
─メキシコに進出する日本企業にアドバイスをお願いします。
こちらでの仕事は基本的には、いかにメキシコ人社員を盛り上げていくかだと思います。メキシコにはメキシコに合った商売の仕方があります。日本やアメリカ、もしくは自分の得意な型に当てはめて仕事をしようとしても、うまくいきません。焦らずに、まずはメキシコ人社員の特性を感じて理解しながら、それに合わせてフォーメーションを考えるのが一番良いと思います。
Interviewer: Hisashi Abe
Photographer: Critsian Salvatierra (SONY Alpha Partner), Photos taken by SONY α9
Editor: Shota Haga
2019年7月17日取材
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