【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】Kobayashi Healthcare International, Inc. President & CEO 豊田賀一

Kobayashi Healthcare International, Inc.

245 Kraft Dr, Suite 100, Dalton, GA 30722

Tel (800) 432-8629

大阪府出身。関西学院大学法学部卒業後、小林製薬(株)入社。国内で営業経験を積み、会社の留学制度を利用しワシントンDCに10ヵ月間語学研修。「ブルーレット」や「サワデー」のブランドマネジャー、芳香消臭剤カテゴリのマーケティングマネジャーを経て、2006年から12年にロンドン赴任。帰任後、国際事業部欧米戦略部部長を経て、15年7月から現職。

「あったらいいな」の商品をアメリカでも日常的に

「サワデー」「熱さまシート」「ブレスケア」など、「あったらいいな」と思う商品を次々とヒットさせてきた小林製薬。医薬品からユニークな生活雑貨品まで幅広く展開する百年企業が今、海外でも成長している。

ー貴社の歩みを教えてください。

日本本社は2017年に創立から100期を迎えました。もともとは薬品卸から始まり、のちに家庭用医薬品に参入。現会長の小林一雅が日用雑貨品に目をつけ、芳香洗浄剤「ブルーレット」を発売したことをきっかけにユニークな商品が出始めました。これが今の弊社の基盤になっています。日用雑貨品から今度は、衛生雑貨品やスキンケア製品などにも広がっています。

ーアメリカに進出し、ジョージア州に拠点を構えた経緯は。

これからは世界に出て行こうということで 1998 年、アメリカと中国に進出しました。日本で販売している商品の需要調査を実施し、アメリカ展開における最初の商品に選ばれたのが「熱さまシート」(額用冷却シート)です。アメリカでの商品名は「ビークール(Be KOOOL)」。当時はフィラデルフィアに小さな事務所を構え、社員は 2 人。その後、弊社のコアビジネスの 1 つであるカイロ事業も展開しようと 2002 年、治療用カイロ「キュラヒート(Cura-Heat)」を発売しましたが、売り上げが伸びずに苦戦しました。そこで、現地の基盤を手に入れるために 06年、「ホットハンズ(HOTHANDS)」という商品を持っていたヒートマックス社を買収しました。その会社がジョージア州にあったため、拠点を移すことになったのです。

ーアメリカでの主な任務は。

私が赴任した理由の 1 つに、アメリカ法人をもっと「小林化」させていくという使命があります。販売事業に加え、現地で弊社らしい新製品を開発できる環境を整えるため、2016 年に本格的に組織をつくり、研究・開発に乗り出しました。より弊社らしいやり方で事業を進めていくために、リーダーシップを取ってくれる日本からの駐在員も増やしました。アメリカ法人をステップアップさせるため、組織の体制を整えていくことも私の任務です。赴任当初は 1 人のスタッフがいろいろな業務を担っていましたが、必要に応じて人事部や SCM 部門、お客様相談室などをつくって少しずつ体制を整えてきました。

ー企業努力として欠かさないことは。

弊社のコーポレートスローガンは「あったらいいなをカタチにする」。この言葉通り、あったらいいなと思うものを形にし、消費者の生活を豊かにすることが、弊社のフィロソフィーです。そのために、お客様がどんなものを欲しがっているかという、お客様を知る努力は欠かしません。また、日本では月に 1 回、全社員が新製品のアイデアを提案するという活動を何十年も続けています。年に 1 回、優秀なアイデアは表彰され、それを提案した社員らは社長や役員との食事会に招待されます。「熱さまシート」も、一般社員のアイデアがきっかけとなり開発・販売につながった商品は多くあります。

ーマーケティングで工夫していることは。

「小さな池の大きな魚」。例えば、かぜ薬はマーケットが大きく魅力的ですが、今から参戦しても勝てない。それは、大きな「池」にすでにたくさんの釣り人がいるからです。しかし、「熱さまシート」は同様の商品が世の中にないですよね。冷却シートのマーケットはかぜ薬のそれより小さいですが、この小さい「池」にいち早く目をつけたら、ここで大きな魚を勝ち取れるチャンスがあるのです。加えて、生活習慣の違いから日本と同じ販売方法では上手くいかないため、コンセプトや訴求ポイントをアメリカの文化に
合わせて変える必要があります。カイロの場合、日本では冬の通勤の場面で需要が多くありますが、アメリカではハンティングやスポーツ観戦のときの需要が高いです。日本では主にドラッグストアで販売していますが、アメリカでは、例えばウォルマートのハンティングセクションに置かれています。今後はアメリカでも、雪かきや子どものサッカーの試合観戦など、日常的に使っていただけるようになりたいと思っています。

ーアメリカの事業で伸ばしたい分野は。

アメリカ法人はカイロ事業が売り上げの 70%以上を占めており、今後もさらに伸ばすつもりです。同時に、ヘルスケア事業も強化していきます。「ビークール」もまだまだ知らない人が多いため、ポテンシャルがあります。「スチームセラピー」(蒸気温熱ピロー)や「ブレスケア」(口中清涼食品)など、ニッチなヘルスケア製品を育て、2025 年には売り上げを今の倍にしたいですね。

ー社員とのコミュニケーション方法は。

会社が大きくなるにつれ社員との距離が遠くなり、私が本当に言いたいことや会社の方向性など、社員に十分伝わっていないのではという心配があり、「ラウンドテーブル」という取り組みを 2019 年に始めました。一度に 6 人前後のスタッフを集め、今期の経営方針と理念を説明します。その後、各自の意見や要望を直接聞く場を設けています。これは、同じ取り組みを実践している日系企業を参考にして始めたことです。会社を選ぶとき、人の気持ちはお金だけでない部分もあります。ハートの部分でできることもやっていこうと。アメリカでは、同じ企業で何十年も働く人は多くありません。仕事を教えても辞めていくのはつらいことですが、最近、一旦辞めた社員が戻ってくるということがありました。それを見ていると、やろうとしていることは間違っていないのではと思います。

ーアメリカで働くうえでの課題や対策は。

言葉の壁や物事の捉え方の違いから、コミュニケーションに苦労することがあります。特にアメリカ人スタッフには、いつまでに何をやるのかと丁寧かつ具体的に説明し、それを根気よく繰り返す必要があります。これから会社の文化をつくっていくんだという気持ちで、人材育成は永遠に取り組まなければならないことです。

ートップとして心掛けていることは。

自分が正しいと思うことを追求することです。そうすれば最終的には何とかなると思いますし、もし間違っていてもダメージはそこまで深くない。あとは、素直な心、謙虚な姿勢、感謝の気持ちが大切です。事実を素直に受け止め、謙虚に人の話を聞く。そして、今の自分があるのは周りのおかげだという感謝の気持ちを忘れないように気をつけています。

ーこれまでの経験で印象に残っていることは。

ヨーロッパの社長時代、3、4 年目に黒字にできたにもかかわらず、さまざまな要因が重なり5 年目にまた赤字を出してしまったことです。為替の損もありましたが、それは言い訳に過ぎません。結果的に現小林製薬会長にすごく怒られました。彼は厳しいことで有名ですが、温かみがあり、私のキャリアのなかで大きな存在となっています。

ー日系企業がアメリカで成功するためには。

南部にいるせいか、アメリカは保守的でビジネスの新規展開がしづらいと感じます。そのため、最初にどうやって入っていくかが重要です。カイロ事業は、もともとあった現地法人を買収し拡大できた成功例と言えます。また、会社のやり方を押し付けず、駐在員と現地社員がお互いを尊重しながら仕事ができる環境づくりも大切です。新しく赴任された方は、その土地や仕事を好きになって、興味を持つと良いでしょう。

 

Interviewer: Mika Nomoto
Photographer: Jonathan Wade
Editor: Miho Kanai

2020年3月14日取材