【米国初上映】柳楽優弥主演・KENTARO監督「ターコイズの空の下で」日本映画祭JAPAN CUTS

北米最大の日本新作映画祭「JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜」がニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催。米国初上映された「ターコイズの空の下で」(英題:Under the Turquoise Sky)のKENTARO監督と主演を務めた俳優の柳楽優弥氏に話を聞いた。

本作はモンゴルの草原を舞台に日本人青年の成長を描いたロードムービー。海外経験が豊富なKENTARO氏は、日本、モンゴル、フランス、オーストラリア、チリの国際色豊かなクルーを連れて初の長編映画に監督として挑んだ。この作品はドイツでワールド開催された第68回マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭ではFIPRESCI「国際映画批評家連盟賞」と最高賞の「才能賞」のダブル受賞。そして柳楽氏へは今回、日本映画界で著しく貢献した監督や俳優の功績を称える「CUT ABOVE賞」がJAPAN CUTSより贈られた。

“撮影がロードムービーみたいでしたね” KENTARO

―ニューヨークでの上映に向けて意気込みは。
KENTARO:ニューヨーカーは厳しい目で見るから、この映画がどういうふうに見られるか興味深いです。

―柳楽さんはCUT ABOVE賞を受賞されました。
柳楽: 3年くらい前にニューヨークへ留学する機会があり、これまでいろんな国に行っていますが特に好きな街で。そのニューヨークでの映画祭で賞をいただけるのは本当に嬉しいです。ありがとうございます。

―ニューヨークの印象は。
KENTARO:何度も来ていますが、安全な街になったなというのと、ディズニーランドっぽくなったなと感じました。ニューヨークは厳しいというイメージがありますね。移民の方々がサバイブしてますから。例えば、道でポイントAからBまで行こうとして斜めに道を渡る人が多い。自分のゴールがはっきりしているのが目に見えていて、ダイナミックな街だなと思います。ヨーロッパとも日本とも全然違う。

「やっぱりニューヨーカーって雰囲気がありますね」(KENTARO氏: 右)「本当ですね。洗練されてる感じ」(柳楽氏: 左)と取材陣に対して話す二人

―モンゴルを映画の舞台にしようと思ったのはなぜですか?
KENTARO: 10年くらい前に友達に誘われてモンゴルに行きました。モンゴルの夏は、猛暑の日本と違って気温が25度でドライなんです。Tシャツで走っても汗をかかない、天国みたいな環境。こんなに美しいところがあるんだ、いつか映像に収めたいなと思っていました。そこで、アムラ・バルジンヤムという役者に出会って話が盛り上がって「ぜひ日本と何かしたい」と。それでこの企画が進みました。アムラとの出会いが大きかったですね。

―全編を通してセリフが少なかったと感じます。
KENTARO:モンゴル人は意外とおしゃべりではないんですよ。それを極端に見せたシーンを作って。意外と“心が通じる”というのを大事にしてるんですよね。いろんな国に行ってますけど、モンゴルほどカルチャーショックが強い国はなかったです。アジア人であっても、全然違う文化なんです。

―自分を意識しないように撮影中は鏡を見るなと監督に言われたとか。
柳楽:監督のオーダーは、今まで経験してきた演出と違うなと感じました。その意図は分からないけど、監督がいろんな国で経験してきた感覚って面白いなと。

―作中は即興演技だったと伺いました。
柳楽:この演出方法、好きなんですよね。決められたアングルで、この台詞はこうして、こういう動きで…という、よく見るシーンの作り上げ方ではなくて、そこに良い意味で遊び心が出るというか。演出に自由な雰囲気を感じると、のびのびできる。でも、そこにはセンスが必要で。

©Turquoise Sky Film Partners, IFI Produc?on, KTRFILMS

―あまり演出を押し付けずに撮影していくうちに自然に任せようと?
KENTARO:そうですね。その場に合わせていったものもありました。

柳楽:簡単に決まらないアングルもフレキシブルに対応するというか。ちょっと雨が降ったりしたら“こっちの方がいいかも”ってアングルを変えたり。

KENTARO:撮影がロードムービーみたいな感じでしたね。

柳楽:ある型の中で自分が表現すると言うより、偶然や奇跡的かもしれないけれどものすごく良いシーンが生まれる可能性がある撮影スタイルかもなと思います。ワクワクするような目標を感じられる現場は、仕事というだけではなく気分も前向きになります。

―音楽にもこだわりが?
KENTARO:音楽もプロデュースしました。昔のアメリカン・カントリー音楽をモンゴル伝統楽器の馬頭琴で録音するなど。あとはモンゴルの大御所作曲家OKIが様々な伝統楽器でアレンジしてくれたオペラの曲や日本のトップベーシスト・プロデューサー日野JINO賢二とモンゴル語でのHIP HOPの曲をゼロから作りました。そしてテーマ曲を作曲・アレンジしてもらったフランスのルル・ゲンスブールは、レジェンドの音楽家セルジュ・ゲンスブールの息子。彼の美しいメロディーにギターとエモーショナルなチェロが作品のコンセプトに特に合っています。

―印象的なシーンは。
KENTARO:トラックが壊れたときにアムラが一人で走って行くシーン。このワイドショットがうまくできて嬉しかったです。絵の中の絵の具みたいな感じで、役者を動かせるのは美しい。あとは、出産シーンですね。インパクトが強いキーとなるシーンなので。

柳楽:ゲル(円型テント)の中での出産は、モンゴルでは伝統的なんですよね。その事実も衝撃的でしたし、監督が他のスタッフを現場に入れないようにして芝居に集中できる環境を作ってくださって。自分にも娘がいて出産に立ち会ったことがあるので、そういった経験が影響していそうです。あとはアムラと馬に乗っているシーンが好きですね。彼は馬を200頭も持っているんです。

©Turquoise Sky Film Partners, IFI Produc?on, KTRFILMS

“タケシとアムラが会ったようなインパクトが
僕にとってKENTAROさんとの出会いに似た感覚” ―柳楽優弥

―この作品はご自身の俳優人生にどういった影響を与えましたか?
柳楽:俳優として自分に何か物足りなさを感じていて、自分の背中を押してくれる決定的な出来事に出会いたいという時期だったんです。まさにそれができたなと。作品の中でタケシとアムラが会ったようなインパクトが、僕にとってはKENTAROさんと出会えたことに似た感覚で。週に3日くらい会って、皇居の周りを散歩するくらい(笑)この出会いが僕の中で一番大きかったです。

―将来、国際的な舞台で活躍したいというお気持ちはありますか?
柳楽:今ではどの国でもディズニーやNetflixが観られますよね。いろんな場面でプロモーションする機会が増えるから、そういう場に行きたい気持ちもありますけど、そこで「いいね」と感じてもらえる俳優になりたいなと。“日本の俳優”という軸をしっかり持って、その上で世界にチャレンジしたいと思います。

KENTARO:まずは日本人、次にアジア人、そして世界にいく。そういうアイデンティティって大事だと思います。

―監督は“モンゴルはメンターのような存在”とお話されています。モンゴルが教えてくれたこととは?
KENTARO:外はあまり関係なくて、中身が大事ということですね。例えば、モンゴル人に香水をプレゼントするとします。日本だったら香水の箱があって、ラッピングがあって、デパートのバッグに入れられて…でもモンゴル人はそうではなくて、大事なのは中に入っている香水だけなんです。もらったとき「なんで開けられてるの?」とか思わないんですよ。それを見たとき「ああ、中身が一番大事なんだな」と。日本のカタチの美学もすごく美しいことですけど、外ではないなというのはレッスンでした。

©Turquoise Sky Film Partners, IFI Produc?on, KTRFILMS

―この作品を通じて世界のオーディエンスに伝えたいメッセージは。
KENTARO:アイデンティティとはどういうものか、自分の宿命を理解するために生きていくのも一つの道である。そういったメッセージが込められています。昔は“合作”と言っても、海外に日本のチームを全員連れて日本のシステムをそのまま使って、現地のやり方を知らないで撮影して現地の人から“ここは違うんじゃないか”と指摘されることもあったんですよ。それを避けたかったので、クルーメンバーも全員モンゴル人で、彼らが納得できる場所で撮って。自分のゴールとしては“モンゴル人かのような”作り方をしたかったんです。

柳楽:現場にいろんな国籍の人がいるんですよね。フランス人、モンゴル人、オーストラリア人に、チリ人。そこでKENTAROさんがリーダーとしてまとめているというのが刺激的でした。

―刺激を受けて、役者としてもスクリーンに影響されましたか?
柳楽:演技に対してはわからないですけど、そういう人と出会えているということが、豊かな瞬間だなと感じました。自分のロードムービーの中に入っている感覚がありました。

©Turquoise Sky Film Partners, IFI Produc?on, KTRFILMS

―海外で挑戦したい人たちの背中を押す作品だと感じています。今、ご自身が挑戦していることは。
柳楽:3年前にアメリカ留学をして以来、一日2時間英語を自習しています。合間で大変ですけど、自分で始めたことをまずはやりたいなと。あと、武道を習っていて、次が黒帯なんです。9月に審査なので、黒帯を取ることと毎日2時間の英語の勉強が今年のテーマです。

KENTARO:彼のすごいところは、一つの何かを徹底的に勉強するその集中力。あと体を使うのが上手いよね。タップダンスとかも見事でしたね。ゼロから習ったわけでしょ?

柳楽:はい。

KENTARO:集中力と、何かを学ぼうというそのエネルギーは役者にすごく合っていると思います。彼こそ役者の大事なものを持ってる。

―監督が柳楽さんに期待したことは。
KENTARO:最初に会ったとき、すごいピュアな人だなと感じました。アニマル的な部分を持ってるから、それを出したいというのはちょっとありました。だからあまり用意とかさせずに“とにかくモンゴルに来て”という感じで。

―アニマル的というのは、野生的ということですか?
KENTARO:はい、動物的な…。

柳楽:それって褒めてます?(笑)遠回しに言うと、頭で考えられないみたいな?(笑)

KENTARO:ほとんどの役者はそれができないから。頭の中だけで演技して。

柳楽:どちらも大事ですよね。

KENTARO:あなたは70%くらいアニマルだけどね(笑)

―柳楽さんにとってKENTARO監督とは。
柳楽:僕には3人くらい親しい友達がいるんですけど、KENTAROさんはそのうちの1人です。友達と呼んで良いのか…それだけ公私共にお世話になっている人は本当に貴重で。

―監督が柳楽さんにとっての人生の先輩として教授したいことは。
KENTARO:中身が大事だということですね。外側を大事にするエンターテイメント業界で、それも忘れないようにしなければいけないけど、役者としての大事なポイントだなって。

柳楽:“文化がない”ってよく言いますよね。

KENTARO:自分の文化のことをよく知るということですね。日本語で“外国かぶれ”とか言いますけど、そうならないようにというのは、文化を守ることだと思います。自分の家族の歴史や国の歴史を大事にしながら一歩ずつ歩んでいくことが大事だと思います。

©Daphne Youree

「ターコイズの空の下で」
Under the Turquoise Sky(米国初公開)
監督:KENTARO
出演:柳楽優弥、アムラ・バルジンヤム、麿赤兒

柳楽優弥
1990年生まれ。2004年、初主演作『誰も知らない』(是枝裕和 監督)で、第57回カンヌ国際映画祭主演男優賞を当時14歳で、 史上最年少・日本人初として受賞し大きな反響を集める。その 後も俳優として活躍を続け、映画、ドラマ、舞台な度で存在感を発揮。本映画祭での上映作品『ターコイズの空の下で』で主演を務め、第13回「CUT ABOVE Award for Outstanding Performance in Film」受賞。

KENTARO
映画監督、プロデューサー。海外で育ち、マルチリンガル俳優として欧米の映画・テレビドラマで活躍。ハリウッドの人気作やヨーロッパのインディペンデント作品に出演する個性派俳優。俳優業と並行して音楽、アート、ファッション等のPV、ドキュメンタリーを監督・プロデュースするなど、様々な映像テクニックやスタイルの実験を試みてきた。『ターコイズの空の下で』が初の長編監督映画となる。

Written by Megumi