ニューヨーク便利帳
編集部
上田 絢子
ニューヨーク在住歴:8年
こんにちは、編集部の上田です。
日本を離れてこそ、畳の間、茶の湯、着物といった日本の伝統美が恋しくなりませんか?
そう感じているのは私たち日本人だけでなく、日本文化を心から慕う生粋のニューヨーカー、スティーブン・グローバスさんも同じだったようです。
日本贔屓なグローバスさんが作り上げた本格的な和室、茶室、「グローバス和室」は、フラットアイアン地区のマディソンアベニュー沿いという、マンハッタンの一等地にあるというから驚きです。まさに「都会のオアシス」と言うべき静寂がそこにはあります。
その日本間にお邪魔し、ご本人にお話を伺いました。
畳のある和室での生活を再現
マンハッタンで生まれ育ったグローバスさんは、ベンチャーキャピタリストとしてカラープラズマTVの内蔵部品の開発に関わり、パナソニックにそれを売却したため、仕事を通じて日本の生活を体験しました。
「7年半の間、日本とアメリカを行ったり来たりする生活のなか、日本では新宿に畳の間のある家を借り、住んでいました。ニューヨークに戻ってから畳のある和室が恋しくなり、自宅の持ちビルの2フロアを和室に改造することを決めました。
何より、畳の多様性が好きです。寝る、食べる、くつろぐ、踊るとさまざまな機会に順応できる部屋づくりが可能です。そして畳の香り、柔らかさ、静寂がとくにいいんです。」
新「和」空間
慈善事業家であるグローバスさんは「RYOKAN(旅館)」と「CHASHITSU(茶室)」を、シンポジウムやイベント、そしてニューヨークを訪れた日本人アーティストの滞在先として提供しています。
茶室は「憩翠庵(けいすいあん)」といい、茶道体験や茶会が定期的に行われ、京都の陶芸家が開催する茶会や着物の展示など、さまざまな催しがあります。さらにグローバスさんはビヨンドトゥモローという東日本大震災の震災孤児や被災児童に対しての支援プログラムへの協力活動も精力的に行っています。
ニューヨークで日本間を完成させる
実際にどのようにしてこの完璧な日本空間を作り上げていったのか、聞いてみました。
「この空間を見回し見たら、すべてが日本の美で囲まれているでしょう。
まず、ニューヨークを拠点にする日本人インテリアデザイナー、Miya Shojiの花房氏にこれらの和室のデザインを頼みました。
畳は日本製の特注のものを海外配送して手に入れました。い草の加工や畳を作る技術はアメリカにはありませんから。ふすまと障子も日本から持って来れないかと思いましたが、配送中に湿度の違いから湾曲して破損してしまうことが分かり、アメリカで作ることとなりました。」
茶室の脇に作られた台所はなかでも自由なアイデアが生かされた空間。
京都の水屋箪笥を上下左右に備え、箪笥に穴を開けてシンクを作り、冷蔵庫にも竹細工でカバーするなど、和空間の全体のバランスを崩さないように工夫しつつ、現代の利器を加えました。
細部にもこだわりを散りばめて
「日本へは年に4度は訪れています。家具や生活用具として箪笥、着物、座布団、茶碗、お盆、箸、酒器といったものを京都や浅草などに買いに行きます。日本で買い物をするのは大好きで、それらは私の趣味のようなもの。とくに日本製のテキスタイルは世界で最も優れていると思います。純粋な和風のものを買うのはどんどん大変になってきています。日本の家づくりが欧米化しモダンになってきて、座椅子やこたつなどの和風家具は年々少なくなって来ていますので。」
茶器も揃っていて、そこにはトンボ柄が目につきました。
「トンボは私の最も好きなマークです。それは武士のシンボル。緑のトンボの小皿は銀座のギャラリー、一保堂で買いました。」
ポップアップ茶室がブルックリン植物園に登場
「ブルックリン植物園内にある日本庭園で、畳の間をある茶室を特設し、そこで世界中からニューヨークを訪れたさまざまな人に茶の湯体験を行ってもらっています。マンハッタンの茶室、憩翠庵は一般公開しておらず、予約制です。
一方、ブルックリン植物園は常にオープンしていたため、私は茶道を広めるためにもこの催しのスポンサーとして協力しました。Miya Shojiの花房氏に依頼し作ってもらった畳をステージのように配置した台座があり、そこで茶を立てる姿が披露されています。
日本文化への関心が日々高まっているニューヨークの今を知って欲しいという思いのもと、その文化交流を応援していきたいと思っています。ニューヨークで茶の湯がどのように捉えられているかをその目で見てぜひ体験して欲しいと思っています。」
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