アメリカの退職年金制度


【執筆】
永野・森田米国公認会計士事務所
米国公認会計士/日下 武

 
アメリカの退職年金制度には公的年金のソーシャルセキュリティーがあるが、それを補うものとして私的年金に加入する場合が多い。
私的年金には大きく分けて、個人年金であるIRA(Individual Retirement Plan)と企業年金であるQualified Planがある。

私的退職年金プラン

IRA(個人年金)

IRAはもともと企業年金制度に加入できない自営業者や中小企業社員のためのプランで、銀行や証券会社などの金融機関の窓口、もしくはウェブサイトで開設できる。
IRAの代表的なものには、Traditional IRA、Roth IRAがある。

拠出金額

拠出できる金額は、勤労所得かその年の限度額までと制限されている。
勤労所得とは、給料、個人事業所得などのことで、利息や配当などは含まない。
2017年の限度額は、Traditional IRAとRoth IRAを合わせて5,500ドルであるが、50歳以上は6,500ドルまで拠出が可能。
ただし、Roth IRAには拠出金額制限がある。

拠出期間

拠出期間は、その年の1月1日から個人税務申告の提出期限と同じ4月15日(土日と重なる場合は延長される)までである。

Traditional IRA

Traditional IRAでは拠出金額を所得から控除することが認められており、拠出している間の税額を減らすことができる。つまり、納税を先延ばしにして拠出することが可能で、Traditional IRAの最大の特徴といえる。この仕組みのことをTax Deferred(納税の先延ばし)という。
ただし引き出し時に課税されるため、その時点での所得税率が高くなると予想される場合はデメリットになる可能性もある。

拠出は最高限度額まで可能であり、拠出資金とその運用から得られる利益の両方を非課税で運用できる。
前述のとおり、Tax Deferred(納税の先延ばし)が認められているが、その条件としてQualified Plan(後述)に加入していないことが挙げられる。
非加入者の場合、所得金額に関係なく、その年の最高限度額(2017年は5,500ドル、50歳以上6,500ドル)の控除が認められる。
一方、加入者の場合は、所得に応じて段階的に控除可能な額が減少する。2017年は、夫婦合算で9万9,000ドルから拠出金控除の減額が始まり、11万9,000ドルで控除の恩恵がなくなる。

引き出しは59.5歳以降に可能となるが、引き出し開始を先延ばしてさらに積み立てることもできる。その場合でも70.5歳までには引き出しを開始しなければならない。
59.5歳になる前に年金を引き出す場合は、通常の課税にくわえて10%の罰金が課せられるため注意すべきである。
ただし、初めて家を購入する場合や、医療費、学費を支払うために早期に引き出す場合は、罰金が免除される場合がある。

Roth IRA

Roth IRAはTraditional IRAとは異なり、拠出時に納税する一方、引き出し時は非課税とされる。

Traditional IRAは所得金額に対して拠出制限はない(拠出金控除にはある)が、Roth IRAは所得や個人確定申告のステータスにより、拠出できる金額が制限される。
2017年は、夫婦合算で申告する場合、所得が18万6,000ドル未満までなら最高限度額の5,500 ドルを拠出できるが、18万6,000ドル~19万6,000ドル未満まで段階的に拠出金額が減額され、19万6,000ドル以上になると拠出資格を失うことになる。

引き出し開始の年齢制限はないため、子どもや孫への積み立てとして良い手段にもなる。しかし退職前に引き出す場合は、課税対象となる場合があるので注意が必要。

Qualified Plan(企業年金)

Qualified Planとは、アメリカの多くの企業が従業員に対して提供する給付金制度で、今では非常に一般的なものとなった。

Qualified Planには、企業から従業員への給付水準を定めた確定給付型と、拠出水準を定めた確定拠出型とがある。
前者は日本の一般的な企業年金と同様、勤続年数などに基づき、退職時に受け取る給付額があらかじめ決定されているプランである。
一方後者のプランは、企業の年間拠出額が決定されており、加入者(従業員)自身が投資先を選んで運用する。
さらに確定拠出型のなかには、加入者自身が投資先を選択する加入者信用指示型と、加入者が任命した投資会社などが投資先を決定する受託者信用型に分けることができる。

下記ではアメリカで代表的な401(k)について説明する。

401(k)

401(k)は前述の確定拠出型の企業年金プランである。
401(k)の人気の理由は、加入者の裁量で投資先を自由に選択できる点である。ただし加入者自身が投資リスクを負うため、運用次第で収益が増減し、将来受け取る給付額の責任を自らが負わなければならない。

拠出金は税引き前の所得から差し引かれるため、拠出時には非課税となる。当該口座の資金は加入者が運用益を受託するなど、金額が引き出された時点で初めて加入者の所得として課税される。

また401(k)では、ロールオーバーと呼ばれる口座の移し替えが認められている。加入者が会社を退職した場合、次の雇用先の401(k)プランやIRAに移行できるため、継続して投資することが可能である。

加入者にとっては投資選択や移し替えなどの柔軟性があること、そして企業にとっては年間拠出額と投資リスクが小さくコスト管理しやすいことが、401(k)が多く選ばれる理由といえる。