【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】Wakka USA, Inc. CEO 伊藤 聡

Wakka USA, Inc.
1019 Central Park Ave Scarsdale, NY 10583
Tel (914) 200-9120

北海道札幌市出身。消防士、石油関連会社の営業を経て29歳のときに「人生最大のチャレンジ」として創業間もない同社の事業に携わり貿易実務を経験。2013年に北海道札幌市にて株式会社ワッカ・ジャパンの立ち上げを行い、貿易実務、仕入先開拓、資金繰りなど、事業全般を担当。18年、ザ・ライス・ファクトリーを運営するワッカUSAのCEOに就任。趣味は料理、キャンプ。

味と品質にこだわった、
本当においしいお米をアメリカでも

アメリカで唯一、現地で精米した日本産米を販売する米専門店のザ・ライス・ファクトリー。
ハワイ、ニューヨーク、カリフォルニアに拠点を構え、オンライン販売やレストランへの卸を通して全米に日本産米を届けている。着実に事業を拡大する背景には、確かな味と品質へのこだわりがある。

ー 設立の経緯は。

弊グループの創業者・出口友洋が海外でもおいしい日本のお米を届けたいと、2009年に香港で設立しました。彼が服飾コンサルタントとして香港に駐在していたとき、おいしい日本のお米が手に入らなかったのです。現地で販売している日本産のお米のパッケージを見ると、精米年月日が半年とか1年前とか古かった。そのことがずっと頭に残っていたそうで、帰任命令をきっかけに、もともと起業願望もあった出口が日本からお米を輸入し、現地で精米する会社を香港で立ち上げたのがスタートです。その後11年にシンガポール、13年に台北、15年にハワイへ進出しました。17年には、お米を売る者が自ら米づくりの勉強と生産をする供給基地として、長野県の伊那市に農業生産法人ザ・ライス・ファームを立ち上げました。それまで海外ではオンライン販売と卸し販売のみでしたが、19年にアメリカ初となる日本産米の精米販売店舗であるザ・ライス・ファクトリーをニューヨークに開店し、最近はカリフォルニアにも拠点を開設しました。

ー 日本産米の需要の変化は。

輸出の数字を見れば顕著ですが、寿司を筆頭に日本食レストランの数が増えているので、お米もだんだんと一般的になりつつあるように思います。2020年に新型コロナのパンデミックによりロックダウンが起こりましたよね。そのときに軒並みレストランとの取引がなくなってしまったので、そこからリテール販売のほうにシフトしたのですが、リテール販売を通して弊社のお米を知ってくださった方がレストランをオープンする際に問い合わせをしてくださる、といったケースが多々あります。

渡米前は実際に農作業も体験したという伊藤氏。「アメリカでは、本当においしい食べ物が お客様に選ばれます」と語る

 

ー 一般家庭への浸透は。

ハワイに進出したときもそうでしたが、最初は日本のお米に慣れ親しんだ日本人のお客様が90%以上でした。その日本人のお客様が現地のアメリカ人のお客様を紹介してくださったり、口コミで広がっていったりという経路で、現在お客様の半数ほどは日本人以外の方です。そういった意味では一般家庭でも少しずつ需要が高まってきている実感はあります。オンライン販売も伸びており、今まで誰もやっていなかったビジネスだという点が強みになっているのだと思います。

ー 来店客からの反応は。

ニューヨークの店に足を運んでくださったお客様からは、「こんなお店があったんだ」「いつもオンラインで注文しており、いつか来たいと思っていた」といった反応をいただいています。店内では試食も行っており、例えば新商品のふりかけをお米と一緒に試食していただくなど、実店舗ならではのサービスが喜ばれています。また、品種ごとに味の指標はあれど、農作物は年によって出来が違うためその辺りの説明が直接できるのも実店舗販売のメリットだと思います。品種の違いを分かってくれるお客様もだんだんと増えてきています。円安で日本に旅行に行く方が増え、日本で食べたお米がおいしかったので、その味を求めて私たちのところにたどり着いたという新しいお客様も少なくありません。

ー 西海岸に拠点を構えた理由は。

カリフォルニアはより多くの日系人が住み、かつ多くの日本食レストランがあるエリアだからです。まずはそこに拠点を構えることによって、より多くのお客様に日本産米をお届けすることができます。さらに、より効率の良い販売体制を整えたかったからです。オンライン販売において、ニューヨークの拠点から西海岸に発送するとコストも時間もかかっていましたが、それをカリフォルニアから発送することでお客様のコストを押さえ、お届けまでの時間も短縮できます。ただし、西海岸の伸び代は大きい一方で、こちらはカリフォルニア米の産地でもありますから、競争はニューヨークよりも激しいものと予測します。

ー 人気商品は。

常にトップに入るのは北海道のブランド「ゆめぴりか」です。その他にも有機米や、天日干しのお米も人気です。天日干しのお米は比較的高価にもかかわらず想定以上に反響があり、完売後も再入荷のリクエストをたくさんいただきました。少し珍しいお米では、自社農場で生産している玄米専用の「カミアカリ」や、コシヒカリの突然変異で日本のお米コンクールで何度も受賞している「いのちの壱」というブランドも、高級品ではありますが人気です。2025年には、日本の米品評会で金賞を受賞した宇都宮大学開発の新ブランド「ゆうだい21」という品種を、英語圏でも分かりやすい名前に変えて取り扱います。日本の新しいブランドでも、日本法人が調達部隊として動き、アメリカでもスピーディーに流通させることが可能です。

ー 日本産米の普及活動については。

以前、ニューヨークの日系幼稚園で子どもたちを相手にお米について学ぶクラスを開催しました。また、近隣の小学校からの依頼で、イベント用におにぎりを提供したこともあります。そのイベントでは、いろいろなメニューが並ぶなかでおにぎりが一番早く完売するほど人気を博し、非日系の子どもたちもリピートするほどでした。子どもは素直なので、おいしければ食べてくれますし、おいしくなければ食べてくれませんよね。そんな彼らが何個も食べてくれるのはうれしいですし、おにぎりにはまだまだポテンシャルがあるなと実感しました。また近い将来、より多くの人がお米に関する知識を得られるよう、エデュケーションムービーを制作したいと考えています 。 例えば、お米とパスタを同じ量食べたときに体内でどういう違いがあるか、腹持ちや血糖値の上昇、脂肪の蓄積などの観点からもお米はメリットが多いということを広く伝え、お米の魅力をもっと発信していきたいです。

慣行栽培のお米でも、なるべく減農薬や特別栽培米など農薬を抑えたお米を扱うようにしているという

ー 主要な課題は。

直近の課題としては日本での米価の高騰があります。2024年12月現在、米価は前年比の1.5倍ほどに上がっています。この課題に対して私たちができることは、再生産可能な価格で農家からお米を調達し、なるべく中間業者を入れずに消費者までお届けすることです。実際に、調達から輸出、輸入、精米、販売まですべて自社で賄っており、中間業者を挟まずマージンが発生しないため、より適正な価格で消費者に供給できているのではないかなと思います。

ー 供給安定と品質保持については。

供給の安定を保つために、複数の産地から調達するようにしています。農作物はどうしても品質の良い年とそうでない年があり、後者の場合でも産地が偏っているとそこからしか調達できませんが、複数の産地を確保することでリスク分散が可能になります。また、品質保持のためには保管方法を徹底する必要があります。なかでも玄米の段階でどう保管するかが非常に重要で、私たちのお米に関しては生産農家ではもちろん、輸送中も冷蔵コンテナを使用して運んでいます。アメリカに到着してからも冷蔵保管しており、温度と湿度をしっかりコントロールすることによって品質を保持しています。さらに、注文をいただいてから発送直前に精米することもポイントです。お米は精米してから劣化が急激に進むので、発送直前に精米することでより鮮度の高いお米が提供できます。

ー 商品の選定については。

お米に関しては「これを食べてもらいたい」「こういうお米をアメリカで売ったらおもしろいのでは」など、基本的には私たちの好みで選んでいます。お米以外の食品は、無添加であることが前提です。無添加の食品は保存料が入っていないため賞味期限が短く、他社は廃棄を避けるためにこうした商品の取り扱いを避ける傾向にあります。しかし私たちはそこにあまりこだわらず、日本の味をアメリカでも楽しんでいただくことを優先して商品を選んでいます。食品に限らずお米に関連する商品なら幅広く取り扱っています。

ー 日本産米の輸出の予測は。

現状でも少しずつ増えています。世界では人口増加とともに食料需要が増えており、先進国ではよりおいしいものが求められています。そのなかで日本のお米も「本当においしい食べ物」として選ばれているので、輸出も増えていくのではないでしょうか。

 

ー 次に進出したい地域・国は。

ワッカグループとして既にイギリスでの会社立ち上げに着手しており、2025年中には現地での輸入・販売をスタートできる見通しです。ロンドンは比較的日本人が多いものの日本のお米はあまり流通しておらず、消費者の選択肢が少ないそうです。そういう地域のお客様に日本のお米をお届けできたらいいです ね 。 また、近い将来ニュージーランドへの進出も視野に入れており、少しずつビジネスのエリアを拡大していきます。

 

 

 

 

 

Interviewer: Miho Kanai
Photographer: Masaki Hori
2024年12月27日取材

シカゴ・デトロイト便利帳®︎vol.22本誌掲載