1963年に京都で創業し、金型の設計・製造販売から始まった第一精工は、現在では年間で約40億個の電子部品・精密機構部品、約2億個の自動車部品などを世界各地で製造し、その先端技術が評価され大きな飛躍をみせている。
2000年にはアメリカに工場進出を実現し、自動車関連事業の現地法人としてTouchstone Precision, Inc.を設立。自動車精密部品、センサー、コネクターをはじめ、見えない部分に使われる大切な機能を支えるのが、同社が誇る精密技術だ。
創業から一貫して「ものづくり」へのあくなき挑戦を続ける背景を伺いに、アラバマ州オーバーンを訪ねた。
自動運転による自動車の電子化が加速することで、センサーを得意とする我が社のビジネスチャンスがより増えることが考えられます。
Touchstone Precision, Inc. 設立の背景と業務内容を教えてください。
第一精工は超精密金型製造に始まり、その日本の技術と設備をもってアメリカ市場に挑戦しようと、Touchstone Precision, Inc.を設立しました。Touchstoneとは「試金石」という意味です。
法人設立は2000年ですが、工場を建てオペレーションがスタートしたのは2002年で、今年で16年目となります。
アラバマ州オーバーンにアメリカ国内唯一の生産拠点を置き、100%自動車関連事業として、射出成形、インサート形成、コネクターの組み立て、それらに必要な金属部品のスタンピングの3つをメインに製造しています。
オーバーンの地を選んだ理由は何でしょう。
自動車関連では、ビッグ3があるミシガン州のノバイに、2015年より自動車部品関連の営業を統括するデトロイトオフィスを置いています。
自動車メーカーも現調化が進められ、トヨタ、マツダ、ホンダ、メルセデス、ヒュンダイ、キアの工場がアメリカ南東部に集中し生産拠点の南下現象がみられ、アラバマ州も今後より活性化していくでしょう。
バーミングハムにはミシガン州立大学、オーバーンにはオーバーン大学もあるため優秀な人材も確保でき、温暖な気候で自然災害が少ないのも立地決定の理由に挙げられます。
また、テクノロジーパークとして州が企業誘致をしていたため、設備投資に対して優遇税制もありました。
御社の事業の内容とその比重、そして伸びている市場を教えてください。
第一精工の事業展開は、大きく3つのセグメントで構成されています。
2017年の統計では全体の57.3%を占めるのがコネクターおよびエレクトロニクス機構部品などの電気・電子部品事業、続く自動車部品事業は全体の37.2%を占め、残りの5.5%を占めるのが半導体封止金型・生産設備といった設備事業となっています。
すべての事業が伸長をみせておりますが、昨年度(2017年度)は半導体市場が活況であったため設備事業は前年度比で約1.77倍と大きく売上の割合を伸ばしています。また電気・ 電子部品、自動車部品も売上額を順調に伸ばしています。
海外展開の流れとオペレーションを教えてください。
第一精工の海外展開の第一歩はシンガポールでした。生産拠点はおもに東南アジア、東アジアが多く、マレーシア、中国と工場を開き、その後アメリカ進出に目を向けたというのが大まかな流れです。
当社グループのなかで伸びているものに、電気・電子部品のアイペックスというコネクター事業があります。ここでは高速伝送、電波障害を防止するEMIに対応し、狭ピッチで小型化された製品を作っています。最小のピッチは端子の極間が、0.25ミリとなります。
このアイペックス事業は、北米ではテキサス州オースティンとカリフォルニア州サンノゼに拠点があり、営業と技術サポートをしていますが、この電気・電子部品事業と自動車部品事業のUS両営業チームの融合を計り、北米事業を更に伸ばす取り組みを始めました。
このアイペックス製品が自動車の液晶パネルなどにも使われ、自動車業界へのビジネス拡大チャンスも増え、顧客のニーズが高まってきています。
米国法人に勤務するスタッフの数と、日本からの駐在スタッフの数は。
第一精工全体では、日本に2,000名、海外に4,000名、全体で6,000名規模となっています。米国法人では総勢136名が営業、生産業務に従事しています。日本からの駐在スタッフはTouchstone Precision, Inc.に11名、デトロイトオフィス、オースティンオフィス、サンノゼオフィスに各2名がおり、計17名です。事業拡大に比例して駐在スタッフが増えることはなく、その分現地での雇用数を増やす予定です。
近年、御社は工場の拡張を果たされましたが、その背景を教えてください。
北米マーケットは順調な売上の上昇をみせ、2015年には従来の工場スペースを2.5倍に拡張させましたが、2023年には不足することが予想され、事業拡張に向け、更なる拡大を検討中です。
自動車の自動運転に向け、電子化が加速しており、そこにはたくさんのセンサーが必要とされてきます。
当社は樹脂と金属の複合品、センサーを得意とするため、我々のビジネスチャンスがより拡大することが考えられます。
日米文化の違いを理解し尊重することが、アメリカでオペレーションする際の日系企業の課題だと思っています。
成功の背景に、ターニングポイントとなった開発製品はありますか。
1997∼8年頃、大手自動車部品メーカーから耳にした、ある問題点がありました。
車のエンジンの中ではカム軸が回転し、その角度によりエンジンの点火、排気を調整しています。そのタイミングを正確に捉えることで、燃費や排ガス量の抑制に効果的に働き、環境にも配慮した車づくりが可能となります。
その部品に使用される樹脂が高分子&エラストマー入りの樹脂であったため成形性が難しく、バリ(樹脂が金型から洩れ出る)発生に苦労されていました。
当社の技術は精密金型で1,000分の1ミリ以下の精度を誇るため、試行錯誤の末、量産化に成功致しました。この成功事例により、そのお客様のシリーズの8割方のお仕事を頂いたことは大きな転機となりました。
また近年では、LEDライト化が進むヘッドライトに使われる高熱対応のコネクタを開発し、優れた接続信頼性を提供し、多くのお客様に受け入れられています。
ヒット商品を生む秘訣をどのように考えますか。
お客様の必要とするものが何かを掴み、そのニーズにマッチした製品の開発をスピーディーに行うことです。
当社グループにおいて生産設備の設計・製作を行っており、部品の製造、部品間のマッチングまで自社内で完結可能であり、高品質な製品が納品できることが強みです。
また当グループは超精密部品メーカーとして設計から量産までの一貫生産体制を確立してきました。
顧客の現調化が加速している現状で、超精密金型を含めた生産設備を当グループ内で製作し、ワールドワイドで量産を行うことができるため、顧客ニーズにマッチした高い品質の製品を納入することができ、顧客に安心感と信頼感を提供しています。
日系企業の海外拠点では現地化が進められていると聞きますが、御社の人事はいかがでしょう。
お客様と接する窓口の責任者は既に現地化しております。
また、現在エンジニアリングチームは5名の日本人+ローカル社員1名で構成されていますが、ローカル社員は現地のテクニシャンを指導できるレベルまで技術習得が進んでいます。今後、更にローカルエンジニアリング社員を増員する予定です。マネジメントにおいても更なるローカライズを進めていく予定です。
なお、当社Touchstoneのローカル社員は女性が6割を占めており、スーパーバイザー以上の管理監督職でも女性が活躍しております。
実力を正当に評価することで、モチベーションを社員に持ってもらうのは大切なことですね。
アラバマ生活をどのように楽しまれていますか。
オーバーンは当社の日本の生産拠点のある福岡県とほぼ同じ緯度にあり、気温も年間を通じて同じくらいで、快適な生活ができています。
また、車で2時間ほど北上するとジョージア州の州都アトランタがあり、質の高い日本食のチョイスもたくさんあります。
アトランタの都会とオーバーンののどかな自然の両方を満喫できるのはいいですね。
また、毎週土曜日に当社で2時間の英会話教室を開き、ネイティブスピーカーの講師に教えて頂いています。教え方が上手でユーモアのある先生は人気があり、家族皆で参加されることが多いです。
新たにアメリカに来られる企業、駐在の方にアドバイスをお願いします。
日米文化の違いを理解し尊重することが、アメリカでオペレーションする際に日系企業に課せられた課題だと思っております。
「日本の常識は世界の非常識」という言葉があるように、日本のやり方が必ずしもアメリカで受け入れられるとは限りません。「一を聞いて十を知れ」 という日本文化は通じない、休暇や残業に対する考え方の違いなどは顕著な例です。
アメリカの慣習に驚かされることもあると思いますが、柔軟に対応し、そこにその会社や日本の強みを付け加えることで、会社独自のカルチャーが育まれてくると思います。
Executive Vice President 伯川 勝徳
1984年、第一精工(株)技術課金型設計部門に入社し、生産設備設計製作工場・量産工場の工場運営を経験。2004年に電子部品事業の副事業部長、2007年に自動車部品事業の事業部長、2015年1月に執行役員自動車部品事業本部電装部品事業部長に就任。同年7月より自動車部品事業拡大を目的に、北米Touchstone Precision, Inc.へ赴任し副社長を兼任し、現在に至る。
※2018年3月インタビュー時点
Interview : Takayuki Kawajiri
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