あらゆるものが繋がる時代。デジタル革新の共創パートナーを目指しています。
富士通の北米通信拠点であるFujitsu Network Communications, Inc。最先端の光伝送技術を引っ提げアメリカ市場を開拓し、北米の通信事業を席巻した。IT戦国時代を経てデジタル革命の渦中にある今。あらゆるものが想像を絶するスピードで瞬時に繋がるこの時代に「繋げる」技術をどう生かすのか。リチャードソンの本社で、北米通信にキャリアを捧げる前CEOの木滑氏に話を伺った。
アメリカ進出の歴史と当時の通信業界の背景を教えてください。
富士通のアメリカ進出は1976年、カリフォルニアに情報と通信の販売拠点として、Fujitsu America, Inc.(FAI)を設立したことに始まります。1970年代は、来るべきコンピューター時代に立ち向かい、通信では光の伝送システムが研究所レベルから実用化の段階に入った時代です。さまざまなものの自由化が進み「ビッグベル」と呼ばれていたのがAT&T。全米の地域電話と長距離・国際電話、製造、研究開発とすべての部門を持つ巨大企業でした。それが独占禁止法に抵触しているという圧力が生じ、1974年にAT&Tが外部調達を開始したのは通信業界の大きな転機でした。1981年、AT&Tがボストン-DC-リッチモンドを光で結ぶ大プロジェクトの公開入札を発表。富士通はNTT通信研究所と培った最新の技術をもって応札したのです。AT&Tからも高評価を受け落札寸前まで傾きましたが、競合のロビー活動により公聴会で国益に反するという意見が集中し、最終的に落札されたのは国内ベンダーでした。技術的インパクトは大きかったはずですが、政治的な背景により敗北。これは、Fortune誌にも「Japan runs into American Inc. 」と特集されたほど衝撃的な出来事でした。
ドミノ倒しのように国内需要を席巻し、2000年代初めには全米一の光通信ベンダーになりました。
アメリカの通信業界の大きなドラマですね。
1981年は私が入社した年です。このなりゆきを見ていて憤慨したと同時に非常に興味を持ち、志望して1982年に北米通信営業に配属されました。その後、応札に負けたのが功を奏したかのように、MCIという電話会社に我々が採用され、以後常に全米初の最新光システムを納入し、北米通信ビジネスの基礎を築きました。
1984年、自由化の圧力は巨大なAT&Tを地域電話会社と各部門に分割させるに至り、駐在していた私も提案依頼書の対応に追われました。幸いにして、提案が受け入れられ各地域電話会社への個別参入に成功。その後、富士通が次世代技術のベンダー選定で採用され、競争優位を確立することができました。既存装置の置換に消極的だった他社を後目に開発した新機能を、各社が次々に採用。ドミノ倒しのように国内需要を席巻し、2000年代初めには全米一の光通信ベンダーになりました。この歴史のなかで1990年に通信部門としてFAIから分離したのが、Fujitsu Network Communications, Inc.(FNC)です。同時にテキサス出身の実業家ロス・ペローから100エーカーの土地を購入し、この本社を設立しました。
テキサスはビジネスの拠点としていかがですか。
1980年代初め、現地製造を強く主張していたMCIが既存ベンダーをほとんど呼び込み、このエリアは「テレコムコリドー」と呼ばれるようになりました。半導体の会社、テキサス・インストゥルメンツが開校したテキサス大学ダラス校(UTD)からも優秀なエンジニアが輩出され、活況を呈しました。テキサスはレベルが高いですよ。土地や物価が安くて住環境も良く、人も実直で礼儀正しく日本人に似ています。
光通信の近年の動向と日米の違いは。
アナログからデジタルへ移行したのが1970年代から1980年代後半。その間、光の高速化はどんどん進み、2000年前後に一気に需要が高まりましたが、過剰投資で2000年代後半はキャリアやベンダーの合従連衡が進みました。しかしその後も、モバイルやブロードバンドの需要は急速に伸びていて、それを支える光の需要は堅調です。昨年は日本に先行して5Gが出現しましたね。大容量で遅延が少なく、多数のデバイスを繋げられる。それを支えるのは光なので、光伝送システムは今後も世界中で需要があると思います。
新たな挑戦という点では、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの4社をまとめる呼称)やマイクロソフトといったOTT(Over the Top)の台頭があります。彼らは巨大なブラックボックス的データセンターを持ち、光システムも独自に構築し、今や海底まで手がけようとしている。これはNTTの回線を皆が借りている日本との大きな違いです。
アメリカでのビジネスにおける課題は何ですか。
GAFAは世界を変えました。ネットワーク上に自社のコンテンツやアプリケーションを流し、収集したデータを使い新しい価値に変えたのです。ネットワークはただの手段になりました。これを受けどの通信会社もコンテンツ会社の買収やモバイルへの投資を行い、自社ネットワークに付加価値を付けようとしています。しかし、あれだけの情報収集力とAIなどの最新技術を用いたビジネスモデルには敵いません。この状況を打開する次の一手が必要です。
もうひとつはAT&TやVerizonにどんな解決策を提供し、共栄できるかという課題です。歴史ある大企業には稼動資産が重くのしかかり、通信業界はメンテナンス費用が大きい。古ければ古いほど、遅滞が起きたら適正なサービスが提供できなくなるため、難しい課題です。
ネットワークモダナイゼーション。旧資産をいかに新しいテクノロジーで現代化するかです。
その状況の打開策、また時代に即した技術やサービスとは。
我々が行っているのはネットワークモダナイゼーション。既存の旧資産をテクノロジーでいかに現代化するかです。また、新しいものを取り入れる際は、常に最先端の技術を取り入れること。さらにすべての分野において、良いパートナーとのエコシステム作りが進められています。今、AT&Tがイニシアティブをとり、Open ROADMというオープンソフトを使ったソフトウエア・ディファインディング・ネットワークを開発中です。ハードウエアをコモディティ化し、他社の装置が混在しても繋がることを目指すプロジェクトです。
さらに、5Gにも必要な光の技術をさらに磨きます。通信というのは人、コンピューター、IoTなどと繋がっており、デバイスやアプリケーションが適合していても、状況に合う通信方法がなければ最適化はできません。業種に特化したネットワークを提供するシステムが求められ、それが企業の競争力をも左右します。
どのような業界とパートナーシップを結んでいますか。
例えば今モバイルもオープン化が進むなか、韓国のとあるメーカーとパートナーシップを組み、「富士通がついているなら安心」とお客様に言ってもらえています。今、どの業界も自らの実業をITでバーチャルに写像し、データを分析してアルゴリズムを見つけたり、AIを入れたり、IoTからデータを持ってきたりして、新価値を提供することが求められています。富士通は通信だけでなくITでもさまざまな業界との価値の共創を目指しています。もっとオープンになることも大切でしょう。
地域貢献や、ニーズに応える方法とは。
まず積極的に共同開発などを行うことです。また、アメリカにあるユニバーサルサービス制度という法律は人びとに満遍なく電話を引くことを定めているものの、それは音声のみでデータには適用しません。つまり、高速の光やブロードバンドの回線が届かない地域もあるのです。我々は新しいサービスとしてそれらの地域の通信状況を改善しています。そのことで、隣町に比べ土地代が6%上がったとか、大病院の移転が決まったという事例も。病院は患者のデータを扱うためセキュリティーが厳しく、光でネットワークを引くことは大きなアドバンテージになり、経済効果も上がります。
ネットワーク技術がさらに発達するとどんな未来になるでしょうか。そこでFNCが目指すものとは。
一言で言うと「あらゆるものが繋がる時代」がきます。コンピューターネットワーク、センサーIoT、人の動き、GPSを含め地図情報など、データを瞬時に情勢判断、意思決定して行動する時代が既に来ています。そのために従来の考え方を脱し、新たな価値の発見と創出が求められています。2020年には500億のデバイスがIoT化され50億人が繋がり、2025年にはアメリカのフィンテックの市場規模が4兆ドルに。2030年にはS&P500社の75%が入れ替わり、2035年には汎用量子コンピューターが製品化されると言われています。とてつもない時代が来ますね。富士通の戦略は、AIが果たす役割に注目し、人びとの生活に意味のある洞察を生み出す最先端技術の開発に力を注ぐことです。繋げる技術を強みに、最適な価値をタイムリーに提供する。信頼されるデジタル革新の共創パートナーを目指しています。
アメリカは多様性に富み、フェアで自由な活動を許容する国です。富士通がここで成功できたのも、そんな風土があったからです。ところが近年、自国第一主義の下に社会が分断され始めている。すべてが繋がり、グローバルな価値の提供が求められる世界で、共通の価値観を探り持続可能な未来をリードできるアメリカであってほしいと強く思います。
日本人の比率と、現地スタッフへの教育方法を教えてください。
ピーク時には、デバイスも含めた開発要員を中心に50~60名いましたが、今は約1,500名中約20名です。弊社には日本の技術に惚れ込み、日本のビジネスのやり方やお客様との信頼感を心地良く思って長く勤める人が多く、勤続20~30年は当たり前です。
富士通には「Fujitsu Way」という理念・指針があり、グローバルに共通教育を実施し、富士通理念、企業指針、行動指針・規範が書かれたカードを全社員が携帯しています。また、毎年発行している「Fujitsu Technology and Service Vision」、コンプライアンス、ハラスメント、知的財産保護については導入時のみならず定期的に学習します。
座右の銘は。
「楽は心の本体」。儒学者、佐藤一斎の「言志四録」にある、王陽明の言葉です。人生には貧富や貴賎の別はあれど、いずれにも苦楽はある。心の本体である「楽」とは、外からの苦辛を受け止めながらも、自然体で心安らかに、何にも影響されない超然とした状態を指します。この心の有り様を私は目指していて好きな言葉です。
テキサスに赴任するビジネスマンにメッセージをお願いします。
自宅と会社の往復に終始せず、積極的に外に出てテキサスを体感してください。私も休日は最高の環境でゴルフを楽しみ、時に自宅に人を招いて日本酒パーティーを開き、手料理を振る舞っています。とにかく、難しく考えずエンジョイしてください!
Fujitsu America, Inc. President & CEO
木滑幹人 Mikito Kiname
1981年、富士通入社。1984-1989年、ニューヨーク、サンノゼ、リチャードソンにあるFujitsu America, Inc(FAI)の通信部門に、1992-1998年にはリチャードソンのFujitsu Network Communications, Inc.(FNC)に赴任。2016年、3度目のアメリカ駐在でFNCのCEOに就任。2018年10月よりFAIのPresident&CEO。富士通理事。
Interviewer: Hisashi Abe
Photographer: Reed J. Kenny
Editor: Eri Sano
2019年2月21日取材
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