タイガーの復活優勝を支えられたことは全従業員の誇りです
タイガー・ウッズの米ツアー復活優勝は、全従業員の誇り―。
同社が生産する「ツアーB XS」は、タイガーが高く評価したうえで使用契約を結んだボールだ。世界最大のゴルフ市場・米国で経営の前線に立つ内藤章仁氏に、契約にまつわるエピソードや高品質商品が生み出される背景、今後の目標を伺った。
ブリヂストンゴルフの沿革を教えてください。
同社は日本法人であるブリヂストンスポーツの子会社で、米国アトランタを拠点としています。「ブリヂストンスポーツUSA」として1989年に法人設立し、1991年にゴルフボールの製造を始めました。当初のブランド名はブリヂストンの名を冠さないもので、2001年に「プリセプト・エムシー・レディ」というボールがヒット。現在のブランド名「ブリヂストンゴルフ」は2005年から展開しており、その際に社名もブランド名に合わせました。2010年から2014年まではゴルフボールの売上金額シェアで米国市場2位につけました。2012年にはツアーウレタンボールの製造を始めました。これはコントロール性能に長けた高機能ボールで製造難度が高く、ツアー選手が使うものです。米国で製造するものは基本的に現地向けですが、一部は欧州や日本にも輸出しています。米国進出の際にアトランタを選んだのは、マスターズトーナメントの開かれる聖地オーガスタが近く、日本人コミュニティーの発達した西海岸をあえて避けることで、現地化を目指したいと考えたからです。日本ではゴルフのほかテニスやスイミングといったスクール事業も展開しておりますが、私たち米国法人はゴルフ用品の製造販売に特化しています。
グループ全体におけるゴルフ事業の歴史をお聞かせください。
ゴルフボールの製造販売には80年以上の歴史があります。(株)ブリヂストンタイヤの創業は1931年で、ゴルフボールの本格製造開始は1935年です。その後、ゴルフがまだメジャースポーツではない中で投資を続けました。これについては創業者の石橋正二郎に先見の明と、事業に対する熱い思いがあったからだと思います。また、ボールの中の層にはゴムが使用されるため、タイヤメーカーとしてのDNAがありました。1972年、ゴルフクラブ事業推進のためスポルディング社と契約、ブリヂストンスポルディング株式会社設立の後、1977年に、ブリヂストンスポーツ株式会社に社名を変更。「最高の品質で社会に貢献する」という使命のもと、スポーツ用品事業への歴史が始まりました。国内事業に一層力を入れ、1989年の米国子会社設立につながっていきます。
最も自信のある商品を教えてください。
ゴルフボールの「ツアーB」シリーズと「e」シリーズです。「ツアーB」は、タイガー・ウッズをはじめプロが使う本格的なものや、その技術を応用した中上級者向けがラインナップです。「e」は飛距離アップや直進性改善が特長となっています。
プロが品質の高さを認めてくれたことは自信につながりました
高品質なボールが生み出される背景とは。
ゴルファー30万人分のスイングから得られたデータを開発に生かしています。これはボールフィッテングという、1人ひとりのゴルファーに合うボール選びをお手伝いする活動で蓄積したものです。弊社のスタッフがフィールドへ出向き、お客様にスピン量やスイング軌道を計測機器で数値化し、他社と弊社のボールを打ち比べてもらいます。こういったサービスは他社にもありますが、弊社は2007年から続けています。他社が追い付けない量のデータを持っている点で、品質では負けない自信があります。マッド・サイエンティストと称されるブライソン・デシャンボーは、主要メーカーのボールを塩水に浮かべる比較実験をしたそうです。その結果、私たちのボールの重心位置が精巧だったことから、ボール使用契約の話をいただきました。プロが品質の高さを認めてくれたことは自信につながりました。
タイガー・ウッズ選手とのボール使用契約にまつわるエピソードを聞かせてください。
タイガー自身から、各社のボールを比較したうえで弊社の製品を気に入ったとコンタクトがありました。評価していただいたのは、スピン性能とタフなコンディションに強い性能です。プロとの契約においては、メーカー側が「ぜひ使ってください」とアプローチするのが一般的で、彼のようなビッグプレーヤーから話をいただくことはほとんどありません。そのようなボールを製造販売していることや昨年米ツアーでの復活優勝を支えられたことは、従業員全員が誇りに感じています。彼がカタログの表紙を飾ることも私たちの誇りになっています。昨年12月には弊社のあるコビントンまで、CM制作のためプライベートジェットで来ていただきました。私が撮影所に入ったとき彼はコーヒーを飲んでいて、「ハロー」と気さくに声を掛けてくれたのには驚きました。反響としては、タイガーが使用する「ツアーB XS」の売り上げがぐんと伸び、問い合わせやウェブサイトへのアクセスは爆発的に増えました。日本においても、「ブリヂストンと言えばタイガー」と少しずつ認知していただけるようになり、プラスの効果ばかりでです。
内藤様の経歴と携わった業務を教えてください。
大学新卒で入ったのは旅行会社でした。海外に出て働く気持ちが強まり2年半働いた後に、ブリヂストンスポーツの海外販売企画部に中途入社しました。最初に担当したのが、海外取り引き先からの受注管理です。各国からの注文を予測し、生産部門につなぐことが主な仕事です。次に海外営業を経験した後、米国生産企画を担当することになりました。米国には当時から年に2回出張で来ており、将来はここで働きたいと考えていました。その後、国内市場の企画販売を担当。ここでは、中期経営計画策定や予算実績管理など現在の仕事の礎となる部門横断的な経験を積ませていただきました。米国には2017年12月、事業全体に携わった経験を生かしてほしいとの使命を受け、赴任しました。現在の仕事は、日本本社と現地経営陣の間に入って方針戦略などの調整や、経営計画の策定などが主となっています。
今までの仕事で感動した出来事は。
企画販売所属時代の2014年に中期経営計画策定の指揮を、当時の役員が任せてくれたことです。異動直後で知識も経験も未熟でしたが、信頼してもらえたことがうれしかったです。開発や企画、販売などで優先事項が異なり、利害が一致しないことも多いのですが、ブランド拡大に向け、全体の整合性がとれるよう議論を重ねました。結果としてこの年は、日本市場のゴルフボールの売上数シェアで1位に返り咲くことができました。信頼されて与えられた仕事で結果が出て、しかもそれが個人の力ではなくチームで成し遂げたことなので、喜びは大きかったです。
仕事で困難に直面したとき、どう対応しますか。
何かトラブルが起きたとき、原因としては人が関わっていることが多いので、まずはなぜ困難なのか考えて、次にその当事者との対話を心掛けています。一人で考えて思うように進まず、話し合いでも解決しない場合は、上司や同僚らの意見を聞きます。というのも上司から昔、上の役職者はその解決策を持っているかもしれないし、違う部門と連携して解決する策が見つかるかもしれないと教わったからです。そういうことがあって、困ったときは人と話すことを大切にしています。
今後の目標を聞かせてください。
ゴルフを通じてブリヂストンというブランドを多くの方に知っていただき、グループの価値を高めていくことです。そのためには、これからも「ツアーB」など高品質なボールや、お客様が満足できるサービスを提供し続けます。米国は、2,400万人の競技人口を抱える世界最大のゴルフ市場です。これは日本の約3倍に相当し、用品市場規模は約60億ドル、ゴルフ場数は1万5,000以上とされています。弊社がブリヂストングループのなかで担う役割は重要で、売り上げなどの数字だけが目標ではありません。グループ全体でみると、売り上げの約8割はタイヤ事業によるものです。ブリヂストンとう名前に対し、真っ先にタイヤを思い浮かべる方はまだまだ多いです。ゴルフはさまざまな年代や職業の方に愛されているスポーツで、幅広いユーザーとの接点があります。だからこそ私たちは、ブリヂストンブランドの良さを感じてもらえるよう努力していきます。
企業理念は「スポーツを通じて世の人びとを健康で幸せにし、夢を与える」こと
日系メーカーが米国で成功する秘訣は何だと思いますか。
チャレンジャーの立場なのでおこがましく、秘訣と呼べるものはありませんが、「スポーツを通じて世の人びとを健康で幸せにし、夢を与える」という企業理念を大切にしています。それに見合う商品とサービスを提供、継続、改善していくことでブランド認知や顧客満足が高まり、成功につながると考えています。
米国でおすすめのゴルフ場を教えてください。
ゴルフの腕はまだまだ至りませんが、好きなコースは弊社の近くにあるオークスで、ここにはよく通います。なぜかというと、グリーンが広くラフにもあまり入らず、優しいコースだからです。ゴルフを始めることにハードルを感じている方もいるかと思いますが、米国はプレー料金が安く、こういったコースなら気軽に楽しめます。自然の中で体を動かすのはいいですよ。より多くの方にゴルフの良さを味わっていただきたいです。
ゴルフファンにメッセージをどうぞ。
(株)ブリヂストンは2024年までオリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーになっています。ゴルフ競技は前回2016年大会で正式種目に復活していますので、私たちはこの競技がさらに盛り上がるよう尽力していきます。ゴルフシーズンは夏に向けて本格化します。みなさんもぜひ弊社のボールを使って、ゴルフの楽しさを感じていただけるとうれしいです。
Bridgestone Golf, Inc.
Vice President of Business Planning and Operations
内藤章仁
Akihito Naito
2003年に立教大学を卒業後、旅行会社エイチ・アイ・エスを経て2005年にブリヂストンスポーツ入社。海外やゴルフボール事業を担当し2017年12月、米国子会社ブリヂストンゴルフに赴任。経営企画担当副社長として、日本本社と現地経営陣の調整や経営計画策定などに携わる。1980年栃木県出身。
Interviewer: Mika Nomoto
Photographer: Jonathan Wade
Editor: Shota Haga
※2019年3月7日取材
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