フロリダ州オーランドを拠点に、メタル・オペラ・ボーカリスト、ギタリスト、MC、声優など多彩に活躍するアーティスト。アメリカの音楽業界を代表する非営利団体「The Recording Academy」フロリダ支部のナショナル・トラスティーとして、音楽業界を目指す若者向けのメンバーシップ「GRAMMY U」のメンターシップ制度や、若手アーティストを支援するサポートプログラム「MusiCares」にも参加している。日本での英語教師としての経験とロックシンガーとしてのキャリアを活かし、音楽を通じて子どもたちの教育と成長を支援する非営利団体「Rock For Children」と連携したバンドでも活動中。
Instagram:@msmekanismofficial
ロックは子どもに感情の出し方を教える教育の一つ
フロリダ州オーランドを拠点に、メタル・オペラ・ボーカリスト、ギタリスト、MC、声優など、多彩に活躍するアーティスト・Ms. Meka Nism(ミス・メカ・ニズム)さん。かつて日本に3年間移住していた彼女は、京都の幼稚園で英語教師として働きながら、ロック音楽を取り入れた授業をしていた。この経験が、日本の音楽や文化への理解を深め、音楽教育にも精通。音楽を通じて子どもたちの教育と成長を支援するアメリカの非営利団体「Rock For Children」の活動にも取り組み、同団体が制作したアルバム「Solid Rock Revival」は2024年のグラミー賞「Best Children’s Music Album」部門にノミネートされた。Mekaさんに、教育と音楽をつなぐユニークな歩みや、ロックを学びのツールとして活用し、その可能性を広げる活動について話を聞いた。
―なぜ日本に住むことに?
私にとって日本は、本当に特別な場所でした。美しいやアートや音楽、文化にずっと触れてみたかったんです。中でも、音楽は何よりも大切な存在。英語の先生としてビザを取得して日本に来た直後に、ゆかりと出会ってバンド仲間になりました。彼女はベースとボーカル、私はギターとボーカルを担当して、“Origamiガールズ”というバンドを結成したんです。

日本のテレビ番組に出演したOrigamiガールズ(左:ゆかりさん、右:Mekaさん)
― Origamiガールズ、日本人にはとてもキャッチーな名前ですね。
ですよね!当時、私が知っていた日本語と言えば「わさび」「すし」「おりがみ」くらいで(笑)、それでゆかりが「Origami」をバンド名に選びました。それから、京都の幼稚園に採用されて。ディズニーでの仕事経験やシンガーであったこと、あと私の明るい性格が受け入れられたんですよね。そこで英語の歌を作曲して、授業で毎日子どもたちに歌っていたんです。「Lunch Box」という歌を子ども向けに作ったんですけど、メタルのショーでも披露したことがあるんです。食べ物って、誰でも好きじゃないですか。その国の文化を学ぶ一つの方法として、アートや音楽、ダンスって効果的だと思うんです。言葉を覚える入口としては、食べ物に関するワードも特にね。英語でも日本語でも、音楽を通じて言語を学ぶことがいちばん自然なアプローチだと思います。
― 日本での3年間、カルチャーギャップに苦労したことはありますか?
そうですね。日本語は友達から学んだので、ほとんど関西弁で話してました(笑)。国を行き来する中で、みんな文化の違いやルールを学ぼうとしますよね。でも私、ルールを知らずに日本に来たのが逆によかったのかなとも思っていて。よく笑ったり、ハイタッチしたりっていう自分の習慣を日本で出会った友達にやってたんですけど、ジェスチャーや違い、共通点をお互い交換していくうちにその国の文化を学べたと思います。そのおかげで友情が深まったし、理解し合えた気がするんですよね。
― どんな先生でしたか?
私、めっちゃ元気でうるさいタイプなんですけど、それを日本の友達は「良い意味で、ヤバい!」と言ってくれて。ロックのエネルギーを持ちつつ、笑顔と優しさでみんなを安心させて、一緒にクリエイティブな世界に連れていく…そんな存在でいられたと思います。クラスでは「ロックンロール先生」として、子どもたちと歌ったり踊ったりしてました。
― アルバム「Solid Rock Revival」について教えてください。
このアルバムはチャリティのために作られました。きっかけは、フロリダの団体「Norelli Family Foundation」のルーベン・サラス、ディナ・カマイ、ジョー・ノレッリによるアイデアでした。彼が支援するプログラムの中に、アリゾナにあるアリス・クーパーの「Solid Rock Teen Centers」が含まれていて。
― Solid Rock Teen Centersとは。
12歳から20歳までの若者たちに、音楽やダンスのレッスン、放課後の居場所を無料で提供する施設で、今はアリゾナに3拠点あります。ストリートから子どもたちを遠ざけるための場所でもあるんです。アリゾナの一部の都市では、ストリートでの深刻な問題を抱えています。子どもたちがドラッグに走ったり、路上との繋がりを求めるのではなく、音楽を使ってクリエイティブな世界と繋がるようにサポートしています。なので、このアルバムの収益はすべて寄付されます。アリス・クーパーが“Instead of being in a gang, they’re in a band.(ギャングにならず、バンドに入れ)”と言うように、音楽の力で子どもたちを守るプロジェクトです。

Weill Recital Hall(at Carnegie Hall)で開催された、若手パフォーマーによる「New York Global Music Competition Winners Concert」にゲストとして出演
― 幼稚園でのロックンロール先生の経験も、このプロジェクトに反映されていますか?
まさに!私はこのアルバムのバンドメンバーで、ボーカルも担当したのですが「Rock for Children(子ども向けのロック)」というコンセプトがすごく魅力的で、親も安心して子どもに聴かせられる内容になっています。感情を表現するって、子どもにとってすごく大事なことなんですよ。ロック音楽は、怒りや悲しみを恐れずに表現する練習になる。頭を振って、全身で感情を出せる、それも安全な場所で。音楽って、そういう場所を提供できるんですよね。
― 日本のロックとのつながりについて教えてください。
SiM(シム)は大好きなバンドで、札幌で一緒にライブをしたこともあります。今やヨーロッパやアメリカツアーも成功させて、インターナショナルな存在になっていて、本当にすごい。あと、ビジュアル系バンドも昔から好きで、MAZICE MIZER(マリスミゼル)は私にとってゴッドファーザー的存在ですね!そう言えば、ビジュアル系のシーンって、この10年くらいでかなり変わりましたよね?
― ビジュアル系は、世代ごとに音楽スタイルやファッションが変化していますよね。その中で、先輩・後輩の関係性がずっと受け継がれているところが、日本的だなと感じます。
なるほど!そのリスペクトの文化、好きだなぁ。私たちにとってのアリス・クーパーみたいな存在ですね。彼はアメリカ人にとって “ロックのゴッドファーザー”ですから。いや、世界中で。そんな彼と一緒に「Rock For Children」のアルバムに参加できたことは、本当に光栄です。
―ご自身の活動で、日本の音楽文化に影響を受けた部分はありますか?
日本の伝統音楽とも言える演歌って、すごいクールですよね。ビジュアル系にも、少し演歌の影響があるんじゃないかと感じていて。オペラのようにドラマチックで、力強いビブラート(歌唱テクニックの一つ)とか、共通するところがあります。私、ビブラートが大好きなんですよ。日本のビジュアル系バンドのすごいところは、あのドラマチックなビブラートを使って感情を表現するところ。心に響きますね。いつも完璧である必要はなくて、“感情そのもの”が込められていれば、それで良いんです。伝統的な日本の音楽から現代の音楽まで、日本の音楽にはたくさんのインスピレーションをもらっています。

― 教育的視点からロックシンガーとしてのビジョンを教えてください。
今後も「Solid Rock Revival」のようなプロジェクトを通じて、子どもたちが安心してロックできる場を作っていきたいですね。プロデューサーのルーベン・サラス、ディナ・カマイ、ジョー・ノレッリは素晴らしいビジョンを持っているので。私は声優でもあるので、曲中の子どもの声を演じるパートや、ナレーションもできますし、幼稚園の先生でもあるからこそ、子ども向けの楽曲制作におけるアドバイスだってできる。教育者とロックミュージシャンの両面を持っている私だからこそできることを、これからも続けていきたいと思っています。旅はまだまだ続いています。新曲も制作中なので、楽しみにしていてください!
Text: Megumi Hamura