“危険な都市”のイメージはもう古い? メキシコシティーは文化・食・都市体験が豊かな場所だった

ニューヨークから直行便でアクセスでき、週末や連休を利用した海外旅行先として人気を集めるメキシコ。カリブ海のリゾート地を思い浮かべる人も多いが、近年は豊かな歴史と文化、美食を楽しめるメキシコシティーにも注目が集まっている。アメリカ在住者にとっては、日本から訪れるよりもぐっと身近なデスティネーションだ。

“危険な都市”というイメージを持たれがちなメキシコシティーだが、実際に街を歩くとその印象は大きく変わる。歴史地区にはアステカ文明の遺跡が残り、世界有数の博物館や美術館には多くの来館者が集まる。一方で、ルチャリブレや民族舞踊といった大衆文化も人々の日常に根付き、伝統と現代が自然に共存しているのがこの街の魅力だ。

今回、HISとメキシコシティー観光局による観光プロモーション施策の一環として行われたツアーにて現地を取材した。数日間の滞在を通して見えた、“危険な都市”という先入観を覆す、今のメキシコシティーを紹介しよう。

① 「歩ける巨大都市」という意外性

実際にメキシコシティーを訪れてまず感じたのは、想像以上に整備された近代都市だということ。高層ビルが立ち並び、幹線道路は広く整備されている。年季の入ったバスも見かけるが、街全体としては“混沌とした危険都市”という先入観は間違っていたようだ。

特に市内中心部を南北に貫くレフォルマ通り(Paseo de la Reforma)は、メキシコシティーを象徴する大通りの1つだ。高層ビルやホテルが並ぶ一方、春には「南米の桜」とも呼ばれる紫色のハカランダが咲き、市民や観光客が思い思いに散策を楽しんでいる。アンヘルのモニュメント周辺も夜遅くまで一定の人通りがあり、若者や観光客の姿が目立つ。もちろん海外の大都市として防犯意識は欠かせないが、少なくとも中心部では「夜は歩けない街」という印象ではなさそうだ。

 

鮮やかな紫色のハカランダが咲く春のレフォルマ通り

メキシコ独立の象徴である独立記念塔(Monumento a la Independencia)。夜間はライトアップされる

独立記念塔
Av. P.º de la Reforma s/n, Juárez, Cuauhtémoc, 06600 Ciudad de México, CDMX, Mexico

 

また、市内ではバス交通が非常に発達している。一般的な路線バスに加え、観光バスのような赤い2階建てバスが街中を頻繁に走っているが、これは市民の日常的な移動手段として使われているもの。Uberの利用も広く浸透しており、観光客にとっても比較的移動しやすい都市環境が整っている。ただし、地下鉄については現地でも安全面を理由に利用を避ける人が一定数いるようで、移動手段によって街の印象は大きく変わりそうだ。

観光バスのように見えるが、市民の一般的な移動手段である2階建てバス

 

さらに印象的だったのが、街に深く根付いた“屋台文化”。朝から歩道には多くの屋台が並び、通勤途中の人々がタコスやパン、フルーツ、ジュースなどを買い求めている。朝食も昼食も軽食も屋台で済ませるのは、ごく日常的な光景らしい。巨大都市でありながら、生活の距離感が非常に近いこともまた、この街の魅力だろう。

街なかに多く見られる朝食の屋台

 

 ② 古代文明と現代都市が共存する街

メキシコシティーでは、高層ビルや交通量の多い大通りから少し移動すると、そこには数百年前、あるいは数千年前の文明の痕跡が残っており、古代文明と現代都市が共存している。

  • 国立人類学博物館(National Museum of Anthropology)

その象徴的な存在である、チャプルテペック公園内の国立人類学博物館を訪れた。施設全体は約8ヘクタールに及び、収蔵品は約60万点ともいわれるメキシコ最大級の文化施設で、アステカ、マヤ、オルメカなど古代文明を包括的に展示している。1964年開館の建物は近代的なデザインで、中庭に設置された巨大な柱状の噴水もアイコニックな存在として知られている。

メキシコの歴史を「国家単位」で展示する国立人類学博物館。主にメキシコの建築家 Pedro Ramírez Vázquez によって設計された

中庭にある噴水。「大きな傘(El Paraguas)」と呼ばれている

 

館内はとにかく広い!実際に2時間ほど滞在したものの、やや急ぎ足で1階部分を7〜8割ほど見て回るのが精一杯だった。他にも予定があったため2階はスケジュールに組み込まれていなかったが、現地の人に「むしろ2階の方が面白い」と言われ、少し悔しさが残った。

特に有名なのは、アステカ文明の「太陽の石(アステカカレンダー)」や、オルメカ文明の巨石人頭像、アステカ帝国の首都・テノチティトランの巨大模型など。石像や石碑など石製の展示物が非常に多いのが特徴的。また、壁画や装飾には現代メキシコにも通じる鮮やかな色使い見られ、「メキシコらしさ」は古代から続いているのだと実感させられる。さらに、死後の世界や生と死の循環を重視する思想が繰り返し登場し、現在の「死者の日」に代表される死生観とのつながりも感じられた。

暦記号などが彫り込まれている「太陽の石」。中央の顔は太陽神で、時間や神話、世界や宇宙を象徴しているとされる

 

人や動物を象った石像が多数

 

赤い色は当時の塗料が残っているのだという

 

アステカ帝国の首都・テノチティトランの巨大模型。もともとは「テスココ湖」に浮かぶ島の上に築かれた都市だったといい、現在のメキシコシティーにあたる

 

館内のレストラン「Sala Gastronómica」では、チラキレス、エンチラーダ、タマレス、ケサディーヤなど伝統的なメキシコ料理も楽しめる。テラス席も多く、晴れた日には断然外がおすすめ。昼間からテキーラを一杯、なんていうのもメキシコらしい楽しみ方だろう。

鑑賞後はここで休憩。モダンな造りの広い店内

オアハカスタイルのエンフリホラーダ。チョコレートが使われているが、甘みではなく香りとコクを加えている

 

国立人類学博物館
Av. P.º de la Reforma s/n, Polanco, Bosque de Chapultepec I Secc, Miguel Hidalgo, 11560 Ciudad de México, CDMX, Mexico
https://www.mna.inah.gob.mx/

 

  • テンプロマヨール(Templo Mayor)

メキシコシティー中心部のソカロに移動すると、そこにはアステカ帝国時代の大神殿遺跡「テンプロマヨール」が残されている。現在も発掘作業が続くこの遺跡は、スペイン植民地時代の大聖堂やモダンなショッピングストリートのすぐ隣に位置しており、「こんな街なかに遺跡があるのか」と驚かされる。1ブロック先にはホテルやレストラン、小売店が並び、現代都市と古代文明が地続きで存在している様子は、なかなか新鮮に感じた。

にぎわう通りのすぐ側に忽然と現れる遺跡

 

テンプロマヨール
Seminario 8, Centro Histórico de la Cdad. de México, Centro, Cuauhtémoc, 06060 Ciudad de México, CDMX, Mexico
https://www.inah.gob.mx/zonas/zona-arqueologica-templo-mayor

 

昼夜を問わず観光客が多く、メキシコシティー観光の中心地として賑わっているソカロ周辺だが、安全性は日本とは異なる点を忘れてはならない。スリや置き引きなどへの警戒は欠かさず、夜間や人気の少ない通りは避け、基本的な防犯意識を持って行動することが重要だ。

「広場」を意味するソカロ。屋外コンサートなどのイベントも開かれる

露店が集まるソカロ周辺の通り

 

  • チャプルテペック公園(Bosque de Chapultepec)

国立人類学博物館があるチャプルテペック公園は、ニューヨークのセントラルパークの約2倍の広さを持つ巨大都市公園として知られる。園内には池や遊歩道、美術館、動物園などが点在し、まさに市民の憩いの場といった場所。ボートを楽しむ家族連れやカップル、木陰でくつろぐ人々の姿も多く、巨大都市の真ん中とは思えないほどゆったりとした空気が流れている。メキシコ特有の植物も多く見られ、園内に「『ドン・キホーテ』の噴水」やトーテムポールなどユニークなモニュメントも点在する。ただ、あまりに広いため、散策の際は地図アプリが必須だ。

チャプルテペック公園のエントランス。メキシコらしいカラフルなゲートが迎えてくれる

湖の前に設置された「CDMX」モニュメント。カンクンなどにもあり、都市の略称をかたどったフォトスポットとして人気

ここでしか見られない植物も

スペイン文学『ドン・キホーテ』を題材にした噴水モニュメント。周囲を囲むベンチには、物語の場面が刻まれている

 

チャプルテペック公園
Miguel Hidalgo, Mexico City, Mexico

 

③ 旅に欠かせない楽しみといえば、食

日本人の口にも合うとよく言われているメキシコ料理だが、数日間滞在してみて、メキシコ料理は基本的にトルティーヤを軸に成り立っていることがよく分かる。タコス、ケサディーヤ、エンチラーダ、タマレスなど、名前は違えど使われている食材はかなり共通している。ただ、その限られた食材の組み合わせやソース、調理方法によって、異なる料理になる点が面白い。味は繊細というよりも、ストレートで素朴。もちろん高級レストランも存在するが、全体として、良い意味で“B級グルメ感”という印象が強かった。今回の滞在中に訪れた店を紹介しよう。

 

  • El Fogoncito

1968年創業の老舗メキシコ料理レストラン。現在は国内に複数店舗を展開しており、メキシコシティー発祥の「タコス・アル・パストール文化」を広めた店の1つとして知られている。看板メニューは、豚肉を回転焼きにしたアル・パストールと、「グリンガ」と呼ばれるチーズ入りトルティーヤ。店内はカジュアルながらも清潔感があり、家族連れや友人同士でにぎわう「地元の人が普通に通うレストラン」という雰囲気だった。「ローカル感は欲しいけれど屋台は少し不安」という旅行者にはちょうど良いバランスかもしれない。

熱々のモルカヘテ(石の器)で提供される、モルカヘテ・アラチェラ(Molcajete Arrachera)。牛肉やアボカド、チーズ、サボテン、玉ねぎをトルティーヤに包み、サルサや絞ったライムをかけていただく

ミゲル・イダルゴ地区の店舗。窓が開放されている2階席がおすすめ

 

El Fogoncito
Leibnitz 54, Anzures, Miguel Hidalgo, 11590 Ciudad de México, CDMX, Mexico
※この他複数店舗あり
http://www.fogoncito.com/

 

  • Casa de los Azulejos

食事そのもの以上に「空間を味わう」レストランとして印象的だったのが、ここ。18世紀に建てられたバロック様式の邸宅を利用した歴史的建築で、現在は百貨店兼レストランチェーン「Sanborns」の旗艦店として営業する、セントロ地区のアイコニックなレストランだ。店名は「青い家」を意味し、そのなの通り外壁にも館内にも青いタイルがふんだんに使われ、吹き抜けの空間や2階席の装飾はまるで美術館のような雰囲気だ。館内にはメキシコ壁画運動を代表する画家ホセ・クレメンテ・オロスコによる壁画も残されている。伝統衣装を着たスタッフがジュースカートを押して回る様子も、この店の名物。正直なところ味はそこそこだったが、それでも一度は訪れる価値がある空間だった。

建物の外観にも内装にも使われている、青いタイルが目印

吹き抜けのメインフロア。レストランとは思えない豪華な造り

店特製のエンチラーダ。自家製のレッドソースにたっぷりのチーズが乗って食べ応えたっぷり

 

Casa de los Azulejos
Av Francisco I. Madero 4, Centro Histórico de la Cdad. de México, Centro, Cuauhtémoc, 06500 Ciudad de México, CDMX, Mexico
https://www.sanborns.com.mx/

 

  • El Moro

歩き疲れたら、甘いものが欲しくなる。大通りに現れる老舗チュロス店「El Moro(エルモロ)」の店内はオープンキッチン形式になっており、目の前でチュロスを揚げる様子を見ることができる。揚げたては外がカリッと香ばしく、中はふんわりともっちりの中間的な食感。シナモンシュガーのやさしい甘さも相まって、つい手が止まらなくなる。濃厚なホットチョコレートも定番で、カカオの風味を味わいながら、メキシコがチョコレート発祥文化圏の1つであることを思い出す。ロサンゼルスにも進出しており、現地でも行列店として人気を博している。

ベテランスタッフが手際良くチュロスを作る様子を眺めるのも楽しい

大通りに面した店舗

El Moro
Eje Central Lázaro Cárdenas 42, Centro Histórico de la Cdad. de México, Centro, Cuauhtémoc, 06000 Ciudad de México, CDMX, Mexico
http://elmoro.mx/

 

なお、街なかにあふれる屋台の存在も気になるが、メキシコ初心者にとっては、注文方法や衛生面も含めて少しハードルが高いのが実際のところ。次に訪れる際はぜひトライしてみたい。

 

④熱狂と情熱を肌で感じる

単なる大衆文化にとどまらず、観光の目玉になり得るエンターテインメントも多い。訪れて損はないスポットを紹介する。

 

  • ルチャリブレ

メキシコといえばプロレス。そう言われるほど、「ルチャリブレ」は国民的な娯楽として定着している。ルチャリブレとは、メキシコ式プロレスのこと。主な会場は、メキシコシティー中心部にある「アレナ・メヒコ」。世界最古級のプロレス団体「CMLL」が本拠地として興行を行う、まさに聖地と呼べる場所である。

試合は1対1だけでなく、2対2、3対3などさまざまな形式があり、空中技を多用したスピード感のある展開が特徴。正義のテクニコ(ヒーロー)と反則も辞さないルード(ヒール)に分かれ、観客はそれぞれに大声援を送り、会場全体が一体となって盛り上がる。試合が白熱すると観客は足を踏み鳴らし、会場全体に轟音が響き渡る。

そして、ルチャリブレの代名詞と言えばマスク。覆面レスラーは市民の憧れであり、会場周辺ではカラフルなマスクやグッズを売る屋台がずらりと並ぶ。家族連れ、友人同士、カップル、一人客、観光客まで幅広い層が訪れており、お気に入りのレスラー目当ての「推し活女子」の姿も見られた。

会場では巨大サイズのメキシコビールを片手に観戦する人も多く、試合が盛り上がるたびに歓声とブーイングが飛び交う。プロレスに詳しくない人でも十分に楽しめる、メキシコで一番エキサイティングなイベントと言っても過言ではないだろう。

さらに興味深いのは、日本人選手も現地で活躍していることだ。ベテランのOKUMURA選手をはじめ、Shoma Kato選手、Yutani選手らが参戦し、現地レスラーと激しい試合を繰り広げていた。リング上ではヒール役を担いながらも、試合後には観客から温かい声援を受ける姿も印象的だった。

熱気ムンムンのアレナ・メヒコ

約2時間の間に、5〜6試合が行われる

CMLLでも異色の存在感を放つ日本人選手。(左から)Yutani選手、Shoma Kato選手、OKUMURA選手。長年にわたる日墨間の文化交流とスポーツ振興の功績が認められ、外務大臣賞を受賞したOKUMURA選手の背中に刺激を受け、若手2人もさらなる飛躍を期す

 

アレナ・メヒコ
Dr. Lavista 189, Doctores, Cuauhtémoc, 06720 Ciudad de México, CDMX, Mexico
https://cmll.com/

 

  • 民族舞踊団「Ballet Folklórico de México de Amalia Hernández」

一方で、より芸術としてメキシコ文化を体感できるのが、「Ballet Folklórico de México de Amalia Hernández」のステージだ。1952年に創設された民族舞踊団で、メキシコ各州に伝わる伝統舞踊や音楽を、舞台芸術として再構成している。

公演が行われるのは、歴史地区にある壮麗な劇場「ベジャス・アルテス宮殿」。建築そのものも見応えがあり、特別な夜を過ごす場所としてふさわしい空間だ。

ステージでは、大人数のダンサーたちが一糸乱れぬ動きで踊り続け、民族衣装の鮮やかさと相まって圧倒的な迫力を生み出す。地域ごとに異なるパフォーマンスが次々と展開され、情熱的な音楽とダンスに終始目を奪われる。ラストにはダンサーが客席に降り、観客も一緒に参加する場面もあった。

ソカロに隣接するベジャス・アルテス宮殿

伝統衣装を身に纏い、しなやかな動きで観客を魅了する女性ダンサーたち

 

ベジャス・アルテス宮殿/Ballet Folklórico de México de Amalia Hernández
Av. Juárez S/N, Centro Histórico de la Cdad. de México, Centro, Cuauhtémoc, 06050 Ciudad de México, CDMX, Mexico
https://balletfolkloricodemexico.com.mx/

 

【番外編】


ドロレス・オルメド美術館(Museo Dolores Olmedo)

メキシコシティー中心部から車で1時間程度。ソチミルコ地区に位置する、歴史ある邸宅を活用した美術館。実業家ドロレス・オルメドの個人コレクションをもとに設立され、ディエゴ・リベラやフリーダ・カーロの作品を中心に展示している。特に、ディエゴ・リベラ作品については最大級のコレクションを持つ所蔵先の1つとして知られ、メキシコ美術を語る上でも重要な施設という位置付けだ。

広大な敷地には手入れの行き届いた庭園が広がる。動物好きだったオルメドの意向を受け、園内では孔雀や犬が歩き回り、その光景は訪れる者に癒しを与えてくれる。

メキシコシティー中心部やや距離はあるが、美術鑑賞とともにのどかな雰囲気を楽しみたい人はぜひ訪れてほしい。

なお、長期改修のため一時閉館していたが、2026年5月30日に再開した。

門をくぐると庭園が広がる

 

ドロレス・オルメド美術館
Av Mexico 5843, La Noria, Xochimilco, 16030 Ciudad de México, CDMX, Mexico
https://museodoloresolmedo.org.mx/

 

まとめ

まもなくFIFAワールドカップの開催都市の1つとして、メキシコシティーは改めて世界的な注目を集めることになる。また、ニューヨークをはじめとするアメリカ主要都市からのアクセスの良さも、今後の観光需要を後押しする要素だ。次の旅行先リストに、メキシコシティーを追加してみてはどうだろう。