ニューヨーク便利帳
編集部
菅原 亜美
ニューヨーク在住歴:1年半
みなさま、明けましておめでとうございます。
編集部の菅原です。
2018年も、ニューヨーク便利帳をよろしくお願い申し上げますm(_ _)m
さてさて、アメリカでは新年よりもクリスマスの方が盛大に祝われますが、初詣や初日の出、おせちにお雑煮…と、日本人にとってはやはりおめでたいものですよね。とくに海外で生活する方にとっては、なんだか日本が懐かしくなる、そんな季節ではないでしょうか。
そこで今回、「ニューヨークで和を感じよう!」と思い立ち、マンハッタンにある琴・三味線教室にお邪魔してきました。
ニューヨークで奏でる和の調べ
今回お邪魔したのは、ヘルズ・キッチンのご自宅で琴と三味線を教えている石榑雅代先生のお教室。
まずはここで少し先生のご紹介を。
石榑先生は5歳の頃から琴に親しみ、邦楽の可能性を広げた音楽家、故・沢井忠夫氏に師事し、1992年に渡米。
ソロリサイタルを開催したり、オーケストラと共演したり、アメリカの大学で教鞭をとったりと、演奏家としても指導者としても多方面で活躍なさっています。さばさばとして明るく、とてもフレンドリーな先生なのですが、なんと映画「さゆり」では、琴奏者として映画音楽にも携わったというすごい方なのです。
今日はそんな先生のお稽古場にお邪魔し、生徒さん達のお稽古を見学させて頂きました。
完全に出来上がっていないところが魅力
まず最初にお見えになった生徒さんは、三味線歴2年の北中さん。
北中さんは日本人のご両親を持ち、アメリカ生まれのアメリカ育ち。そのためか日本のものが好きで、インターネットで偶然石榑先生のお教室を見つけたのが三味線を始めたきっかけだそうです。
生徒さんのなかではお稽古歴が浅いとのことでしたが、先生に頼まれてパーティーなどへ演奏しに行くこともあるのだとか。素晴らしい腕前ですね。
そんな北中さんに三味線の魅力を聞いてみました。
編集:三味線の魅力はなんでしょう?
北中さん:和楽器はなんだか出来上がっていない感じがするところでしょうか。
編集:出来上がっていない感じ?
北中さん:たとえばピアノは、押せば決まった音が出ますよね。
そういうところで、洋楽器は完成している感じがするんですが、三味線は自分で調弦しなければならないし、調弦しても弾いてるうちに少しずつズレてしまうので、小まめに合わせないといけません。
洋楽器と比べて、和楽器は完成しきっていない感じがします。そこが難しいんですが、魅力でもあります。
自らのルーツに触れた三味線
次にお見えになったのは、アメリカ人のお父様と日本人のお母様を持つKenさん。
美しい音色と鮮やかなバチ捌きにまず驚きました。
三味線を構える姿も堂に入っています。これで着物でもお召しになっていたら、まるでどこぞの流派の家元さんのようです。
それもそのはず、Kenさんの三味線歴はもう10年以上とのこと。この日は発表会に向けて、それぞれ異なるパートを弾くアンサンブル曲を練習されていました。メロディーやテンポが複雑で息を合わせるのが難しいそうですが、素人目(素人耳?)にはうっとりするほどの音色でした。
Kenさんに三味線を始めたきっかけを聞いてみました。
編集:三味線を始めたきっかけは何ですか?
Kenさん:日本の祖母が三味線を持っていたんです。それが最初に三味線に興味を持ったきっかけですね。祖母は高齢で直接教えてもらうことはできませんでしたが、祖母が亡くなった後に三味線を引き取り、石榑先生のところで習いはじめました。
編集:10年続けていらっしゃるとのこと。少し失礼な質問なのですが、辞めたいと思ったことはありませんか?
Kenさん:モチベーションは常にUp&Downですよ(笑)上手く弾けない曲があればもう辞めたい!と思うこともあるし、また逆にそういう曲が弾けるようになると、もっと弾きたい!とさらに頑張るきっかけにもなります。
定期的に発表会があるのも、適度な刺激とプレッシャーになっていますね。
お稽古は社会の縮図のようなもの
お二方の三味線のお稽古に続き、お次は鈴木さん(仮名)が琴のお稽古にお見えになりました。
鈴木さんは子どもの頃に琴を習っており、琴歴は10年以上。
大人になってからはしばらく琴から離れていたそうですが、ニューヨークへきて、石榑先生が出していた「中古の琴、売ります」の広告を見つけ、購入することに。そしてそのままお稽古をすることになったのだそうです。
鈴木さんに琴やお稽古について聞いてみました。
編集:続けるのは大変なことですよね。なにか秘訣などはありますか?
鈴木さん:下手なので続けているだけです(笑)まだまだ自分の琴に満足できませんし、上手くなりたくて続けています。
編集:なんだかアスリートみたいなお言葉ですね。お稽古は楽しいですか?
鈴木さん:私にとっては、お稽古は社会の縮図のような気がしています。
たとえば挨拶や礼儀だったり、社会勉強というか。私自身、お稽古を通じて色々なことを教えて貰いました。
また発表会の前には、生徒さん同士で連絡を取り合い、一緒に練習したりします。そういう仲間とのコミュニケーションも楽しいですね。
お稽古は個々のものですが、それぞれの音色が合わさったときに、こんな風になるんだと毎回感動します。
アニメや漫画だけじゃない伝統的な日本文化を伝えたい
お次にお見えになったのは、自らを日本オタクと称するZacさん。
琴の前に座るやいなや弾き始めたのは現代曲を琴用にアレンジした曲だそうで、力強く、それでいて透き通るような綺麗な音色に、聞き惚れてしまいました。
琴といえば「春の海」くらいしか出てこない私(勉強不足ですみません…)、古典的な琴のイメージが覆りました。
意外なことに、最近では洋楽をアレンジしたものや現代曲が主流なのだそうです。
Zacさんにも琴についてお話を聞いてみました。
編集:琴を始めたきっかけはなんでしょうか?
Zacさん:僕は日本オタクです(笑)生け花や演歌、着物など、日本の文化が大好きなんです。
琴の綺麗な音に惹かれて興味を持ち、20歳の誕生日に父が琴をプレゼントしてくれました。当時住んでいたカリフォルニアで琴を習い始め、その後ニューヨークに引っ越し、石榑先生と出会って琴を続けています。
編集:日本文化といっても渋めな部類ですね。
Zacさん:アメリカで日本文化といえば、アニメとか漫画とかポケモンとか…。僕にしてみたら日本にはもっともっと魅力的なものもあるのに、それが十分に広がっていないと思うんです。日本の伝統的な文化をもっと知って欲しいです。
編集:アメリカの方にそんな風に語って頂けるとは、日本人としてとても嬉しいです。Zacさんは他所でも琴を習っていたそうですが、石榑先生のお教室はいかがですか?
Zacさん:石榑先生はタフな先生なんです。僕はよくテンポが違うと指摘されるんですが、なかなか上手くできなくても先生は根気よく教えてくれます。
それと、発表会がたくさんあるのも良いですね。みんなの前で弾く機会があると練習にも張り合いが出ますし、発表会は好きな着物を着れるので嬉しいです。
編集後記
以上、今回は4人の生徒さんのお稽古を拝見させて頂き、どこか懐かしい邦楽の音色にすっかり癒されました。
邦楽といえば、日本でも門戸が狭く敷居も高いと思ってしまいますが、
海を越えたニューヨークの地で、年齢も国籍も異なるさまざまな人たちが日本の文化を広めていることに感動しました。
美しい音色と相まって、取材のかたわら思わずじーんと感じ入ってしまった4時間でした。
この記事を読んでご興味を持たれた方、
見学や体験も対応してくれますので、まずは気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか?
また今回ご協力下さった石榑先生にも、もっとお話を聞かせて頂こうと企画中です。乞うご期待!
ご意見箱フォーム