【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】明治コーポレーション President 高瀬慎一

President
高瀬慎一(たかせ・しんいち)
Meiji Corporation
150 Pierce Rd, Suite 550, Itasca, IL 60143

三重大学人文学部社会科学科卒業。1994年に明治電機工業入社。豊田支店、東京支店勤務を経て2009年12月に仙台事務所(現 東日本営業部)設立を主導。同地で東日本大震災を体験し、震災後は復興ボランティアとして活動。約14年にわたり東日本エリアの自動車関連業界を中心に営業に従事した後、23年5月に明治コーポレーション社長としてアメリカ赴任。妻と小学校5年生の息子とともにシカゴ在住。

製品・技術・ノウハウを結集して付加価値の高いソリューションを提供

1920年、名古屋を拠点にモーターの販売や修理から始まった明治電機工業。「日本のものづくりを強くする」という使命を掲げ87年に北米進出、現地法人である明治コーポレーションを設立した。商社機能とエンジニアリング機能を兼ね備え、大きな変化の渦中にある自動車業界をサポートし続けている。

 

貴社の事業概要は。

 私たちは、北米で主に日系製造業のものづくりのお手伝いをしている会社です。製造ラインを維持・管理するための保守パーツを供給する商社としての機能、さらに製造ラインの生産性や品質を向上させるためのエンジニアリング機能を兼ね備えており、この2つが事業の大きな柱になっています。この他、日本から北米へ輸出する生産設備や検査設備の現地立ち上げのお手伝いもしています。お客様は主に自動車業界が中心です。

 2023年5月にシカゴに赴任してきた高瀬氏。「シカゴでの生活は非常に充実しています。冬は寒いですが雪はあまり降らず、仙台と少し似ている気がします」

ー長きにわたる事業継続の秘訣とは。

 日本でもアメリカでも「現地現物」を大切にしており、そこが私たちの強みでもあります。お客様に何かお困りごとや問題があったときには、真摯に向き合い、できる限り現場に近いところに飛び込んでいって、一緒に考えながら解決策を見出していくのが弊社の姿勢です。ときには幅広いネットワークを活用して製品を調達し、お客様のニーズに合わせたシステムをつくり上げ、ときには独自のものづくり機能を発揮して自社製品を開発するなど、製品・技術・ノウハウを結集して付加価値の高いソリューションを提供してきました。これらは経営理念「信頼すべては人から始まるお客様と共に 従業員と共に 社会と共に」に通じることであり、お客様から信頼を得るためには、現場に行くことが非常に重要だと実感しています。
 明治電機工業および明治コーポレーションは、このような長年の取り組みによって信頼を積み重ねてきた結果、企業として成長し、歴史とともに存在感のある地位を確立することができたのだと思っています。

 

自動車産業以外への拡大ビジョンは。

 決して自動車産業だけをターゲットにしているわけではなく、食品や産業機械など、業種は違えどものづくりにおけるお困りごとは共通するため、より幅広いお客様にソリューションを提案していきたいですし、実際にそうしている部分もあります。
 例えば昨今の人材不足のなか、今まで人が担当していた作業を自動化して生産ができる仕組みをつくることは、どの業界にも共通するニーズです。AGV(無人搬送車)やAMR(ロボット搬送)を活用した物流改善、画像処理技術を駆使した目視検査の自動化、品質・生産管理を確実に行うための情報システム構築などは、私たちが力を入れている分野であり、これらのニーズを満たすことができます。また、最近はカーボンニュートラルが叫ばれていますが、製造・生産にかかるエネルギーコストをいかに抑えて環境負荷を下げるかという課題も、ものづくりという大きな括りではどの業種にも共通しており、私たちがお手伝いできることです。さらに、今後はお客様のニーズが「モノ売り」から「コト売り」に変化している状況を的確に捉えて、提供するソリューションを進化させていく必要があると考えています。

 

ーAI革命による今後の変化は。

 まずは社内業務の効率化です。現状は、仕事量が増えるとどうしても人に負荷をかけなければならず、人材コストも増えるのが大きな課題です。しかし、ルーティン化した仕事であればその多くはAIができるようになり、そういったところで業務効率および生産性を向上させ、お客様にご満足いただける価値の高いサービスを提供していけると思います。 対外的な面でも、積極的にAIを活用して生産性や品質を向上させることができると思います。ロボットや画像処理などの技術を組み合わせてAIが自ら考え、最適な答えを導き出すという時代が、今後3年ないし5年のうちにやって来るでしょう。
 また、私たちのようにサービスを提供する側からすれば、ビジネスの成長はいかに商談を獲得するかによりますので、効率的に商談を獲得するためにAIを使うこともあるかもしれません。

 

ーテスラのように、AIにより商談ができないことも。

 そこを選択するのは消費者であり、サプライヤーがそこまでコントロールするのは困難です。テスラのやり方は1つの正解であると思う一方で、トヨタをはじめとした自動車メーカーのディーラー戦略も100年続いており、おそらくこれが絶えることもないでしょう。二極化して選択の幅が広がるだけで、どちらかに一気に変わるとは想像していません。

 

ー日米の顧客の割合は。

 日系が約7割、米系が約3割となっており、米系を増やすかと聞かれたらそれはもどかしいところです。元々、北米進出の背景には「日本のものづくりを強くする」という目標がありました。1985年のプラザ合意によって日系企業は日本からの輸出がままならなくなり、現地生産に切り替えたという流れがあります。私たちもそれに伴い北米に進出したため、日系企業をサポートするという軸足は変えるべきではないと考えます。私たちが得意とする北米の自動車市場を掘り下げていくことが、今すべきことだと思っています。
 自動車業界は今、100年に一度の大転換期を迎えています。この波に乗り遅れた場合の打撃は大きい反面、業界の構図がどうなっているのかは1年後でさえ誰にも分からないという、面白くもあり大変な時代だといえます。うかうかしていると中韓に台頭するEVメーカーが北米にやって来て、アメリカのビッグ3ですら足元を救われるということもあり得るかもしれません。

 

ー尊敬する偉人は。

 ビジネスにおいては松下幸之助です。日本を代表する経営者ですし、長きにわたり経営に携わったからこそ生まれた「やってみなはれ」「任せて任さず」などの数多くの名言は、経営において不変的な真理を多く学べます。
 また、松下幸之助が創立した「松下政経塾」の初代塾頭、上甲晃さんが立ち上げた「青年塾」で1年間研修をしたという、私自身のちょっとしたご縁もあります。当時、将来の幹部候補を育てる目的で会社から毎年3人ずつ同塾に派遣される研修制度があり、私は30歳のときに参加し、9期生として入塾しました。日本全国に5クラスあり、毎年100人ほどの塾生が集まります。年齢・業界・業種がまったく異なる人たちが同期として1年間一緒に学び、日本各地に行って歴史を学んだり、人脈を広げたりしました。青年塾で得たもの、刺激になったことが自分にとって非常にプラスになりましたね。

 

ー仕事へのモチベーションは。

 入社してからずっと営業畑を歩んできましたので、お客様に「ありがとう」と言っていただけることがいちばんのご褒美であり、モチベーションの源泉になっています。
 また、オンとオフの切り替えも大切にしており、オフの時間は好きなことをして過ごすようにしています。お酒を飲むのも好きですし、ゴルフ、水泳、野球、マラソンなどのスポーツも好きです。マラソンに関しては、仙台に駐在していたころに毎年ハーフマラソンに出ていました。また、30年近くバックカントリーも含めたスノーボードとキャンプを続けており、長期の休みにはコロラド州のデンバーまで行くこともあります。

 

ーこれまで最も印象的だった出来事は。

 先程の「青年塾」での経験も特別でしたが、やはり2011年3月11日に仙台で体験した東日本大震災です。あの震災は特別な出来事で、人生観が変わりました。内陸だったので津波の被害こそありませんでしたが、電気や水道などのライフラインが1週間以上も止まり、非常に厳しい状況でした。元々、仙台に行ったきっかけは、神奈川のお客様が工場ごと仙台に拠点を移転することになったからでした。営業担当の私も現地に駐在してお客様のサポートを継続することになったのですが、当時は仙台に弊社の拠点がなかったため現地で事務所を立ち上げる必要があり、それを実施したのが2009年12月。新しい事務所を一から立ち上げるに当たっては大変な苦労が伴いましたし、それに加えて震災を経験したものですから、そこで肝が据わったというか、多少のことでは動じなくなったのではないかと思います。

 

ートップとしてのミッションとは。

 何よりもお客様との信頼関係の構築を大切にしています。明治電機工業と同様に「Mission for smile “みんなに笑顔を届けよう”」をスローガンに掲げて、お困りごとを気軽に相談していただける存在を目指しながら、お客様、仕入先、従業員、すべてのステークホルダーを笑顔にすることが私のミッションです。ご相談いただいた課題に対して解決策を提案し、お客様に「ありがとう」と言っていただけるサイクルを増やす。そうやってビジネスを拡大していければいいですね。

緑に囲まれたイリノイ州の本社(写真提供)

ーアメリカでビジネスを成功させるうえで大切だと思うことは。

 広大なアメリカにおいて何よりも重要視されるのはスピードと正確性だと思います。お客様をよく理解することで営業の質も業務の質も向上し、お客様の信頼が厚くなりビジネスが成功するのではないかと思います。

Editor:Miho Kanai
Photographer:Jun Nagano
2023年11月22日取材

▼本誌掲載
オハイオ・インディアナ・ケンタッキー便利帳 Vol.18