【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】Daikin Applied Latin America, LLC President 岡山 聡

President
岡山 聡
(おかやま・さとし)
 2002年にダイキン工業入社。日本国内の空調サービス本部を経て、カリフォルニアやダラスなどに赴任後、14年にミネソタのアフターマーケットにおけるソリューション企画に従事。19年からラテンアメリカのサービス改善と強化のためメキシコ駐在。23年5月にダイキン・アプライド・ラテンアメリカの社長に着任。24年7月からラテンアメリカ事業統括として現職。

Daikin Applied Latin America, LLC
Blvd. Manuel Ávila Camacho No. 138, Piso 2
Col. Lomas de Chapultepec
Del. Miguel Hidalgo, 11000, Cd. de México

Tel +52 (55) 5046-6300

 

空気の新たな価値を生み出し、
メキシコでナンバーワンを目指す

ラテンアメリカの統括としてメキシコに拠点を設けてから11年目を迎えたダイキン。事業領域の拡大に伴い、サンルイスポトシに新たな生産工場を建設するだけでなく、地域社会やさまざまなステークホルダーとの協創を推進している。ゼロから基盤を築き上げた道のりと事業の成長を紐解く。

 

ー メキシコの事業内容については。

1997年にメキシコなどのラテンアメリカにおいて、アメリカや日本から空調機器の輸出ビジネスを開始しました。2006年にマッケイUS社の買収を契機に、保有していたメキシコ現地販売会社を母体としてメキシコ事業に本格参入。続いて、13年には同じくメキシコにラテンアメリカの統括拠点を設立し、事業拡大に向けた取り組みに着手しました。17年に空調設備のエンジニアリングを専門とするサエグ社を、19年には空調設備会社のシブサ社を買収することで、業務用空調機器の設置における施工とメンテナンス事業の強化に至りました。空調機器の販路拡大だけでなく、取り付け工事からメンテナンスを含めたアフターサービスまで、空調機器のトータルソリューションを提供することに尽力しています。ダイキン・アプライド・ラテンアメリカは、メキシコシティーにラテンアメリカ地域を統括する本社を構えており、ダイキン・エアコンディショニング・メキシコはメキシコ全土に5つの支店を配置し、空調機器の販売およびサービスを提供しています。空調機器の生産拠点であるダイキン・マニュファクチャリング・メキシコは、現地の日系工場のなかでは最大規模です。そしてソリューション事業の設計・施工・メンテナンスを行うシブサ社は15支店を運営しています。また、ダイキンのコア技術であるヒートポンプとインバーターを備えた高効率な空調機器の普及を促進するため、アドボカシー活動にも注力しています。この技術は、空気熱を取り込み効率的に熱エネルギーに転換させ、モーターの回転数を制御しエネルギーの浪費を抑えることで、省エネルギー効果に寄与します。地球環境に配慮したダイキンの空調機器を推進するために、法整備に向けて直接的な働きかけを行っています。さらに、ダイキンのブランド認知度を高めるために、メキシコのモンテレイ工科大学と産学連携の強化や、サンルイスポトシにあるサッカークラブのアトレティコ・デ・サン・ルイスとの協力による広報活動も展開しています。

 

ー サンルイスポトシの新工場については。

2011年に設立したダイキン・マニュファクチャリング・メキシコに、投資金額約3億ドルを投資し大幅に拡張。33万平米の一大生産拠点を建設しました。サンルイスポトシ州では、2番目に大きい規模です。24年4月に稼働を開始してから、現在は現地従業員を約2,500名雇用しており、26年には4,000名の雇用を目指しています。事業としては、主にアメリカ市場向けの高効率なルームエアコンや業務用の空調機器の生産です。これらの製品の一部は今までアジアなどから輸入していたので、メキシコに生産拠点を移すことによ り、輸送コストやアメリカへ供給するリードタイムが大幅に削減できます。ダイキンは地産地消型のモノづくりを推進しているため、貿易摩擦などによりグローバルな供給チェーンが断絶されるリスクを減らし、安定したサプライチェーンの構築が見込めます。

 

ー 環境問題については。

空調機器はエネルギー消費量が大きいため、電力消費に伴う化石燃料の燃焼による二酸化炭素(CO2)排出の増加が温室効果ガス濃度の上昇を引き起こすなど、環境への影響を考えるとさまざまな課題を抱えています。暮らしの快適性を保ちながら環境にやさしい空調業界の未来を実現するため、ダイキンは持続可能な社会を目指して積極的にCSR 活動に取り組んでいます。そのうちの1つに、2017年にラテンアメリカで創立したKONWAKAI(懇話会)があります。政府、業界団体、環境団体、大学、NGOなどの有識者が集まり、環境問題や各地域における技術的な課題の解決などを目指すために意見交換と協力を促進することを目的としています。空調業界をリードする会社として、これからも課題解決に向けて尽力していきます。

 

ー 地元大学との協業については。

空気に関する新たなビジネスモデルの創出や人材育成の観点から、スタートアップ育成で定評のあるモンテレイ工科大学と、2022年に戦略的パートナーシップを締結しました。そして、起業家支援とダイキンのさらなるビジネスの活性化を目的としたラテンアメリカ対象のプログラム「エアテック・チャレンジ(Airtech Challenge)」を開催しています。プログラム参加者は、ダイキンの専門知識とリソースを活用し、エネルギー効率や環境保護に寄与するプロジェクト案を提出し競い合います。トップ3の受賞者には、ダイキンとのビジネスの機会が提供される他、日本に招待され本社や工場を訪問できます。23年は参加社数が前年比3 倍の 228 社となり、エアテック・チャレンジに関連した記事がメディアを通して掲載され、メキシコの著名新聞エレ・フィナンシエロやフォーブスに取り上げられるなど、大きな成功を収めました。このプログラムを通して、革新的なアイデアを支援するだけでなく、メディア露出が増えることでダイキンの知名度を高めることを目指しています。また、優秀な人材を確保することも重要な狙いです。さらに同大学のモンテレイキャンパス内に、大学教授や研究所だけでなくスタートアップ なども在 籍するイノベーションラボが新たに建設され、そのなかにダイキン・ラテンアメリカ・オープン・イノベーション・ラボが25年1月に開設される予定です。産学連携で空気に関する事業の新たな価値を生み出していきます。

 

2023年エアテック・チャレンジの表彰式。 白熱のバトルが繰り広げられた(提供写真)

 

ー 地元サッカークラブと連携した背景とその取り組みは。

2022年の社内調査によると、メキシコでのダイキンのブランド認知度は18%と、世界で最も低い地域の一つとされています。特に、生産工場があるサンルイスポトシでは、ブランド認知度が低いことで現地の人材確保が課題でした。そこで、現地で圧倒的な人気を誇るサッカーを活用し、地元サッカークラブでリーガMX(1部)に所属するアトレティコ・デ・サン・ルイスと連携することで、ブランド認知度の向上と地域貢献の施策を両立させる取り組みを始めました。サッカークラブのスポンサーとして、選手のユニフォームやスタジアムのフィールド看板の広告出稿だけでなく、スタジアム内のプレスルームにダイキンのルームエアコンを設置。「ダイキン・プレス・ルーム」と命名し、毎試合後の記者会見で使用しています。さらに、空気の価値を提供する会社として、温度・湿度・酸素濃度などが選手の体に与える関係性を分析するなど共同で研究開発も行う予定です。このような取り組みの成果として、生産工場の現地採用では「サッカークラブのスポンサーがきっかけで当社を知り働きたいと思った」という声が急増。加えて営業の接点として、生産工場の見学後にサッカー観戦をしダイキン・プレス・ルームを案内することで、顧客との交流の場としても活用しています。また、インナーブランディングの一環として、従業員にホームゲームの試合を無料招待しています。試合の観戦を通じて従業員にマイチームという意識が芽生え、会社に対する帰属意識の向上につながっています。

アトレティコ・デ・サン・ルイスとのスポンサーシップ 契約調印式の様子(提供写真)

ー 自身の経歴については。

2002年にダイキン工業に入社し、日本国内の空調サービス本部を経て、07年にアメリカでVRV 空調システムのアフターマーケット支援に携わりました。カリフォルニアやダラスなどに赴任した後、ミネソタでアフターマーケットのソリューション企画を担当。アメリカの更新業務における省エネや機械のアップグレードの提案などを行いました。19年からはラテンアメリカのサービス改善と強化のためメキシコに駐在し、地域に分散していた部品在庫を指定の拠点で管理する体制の確立の他、修理サービスや保守の見直しを実施してきました。23年5月にはダイキン・アプライド・ラテンアメリカの社長に着任し、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン以外の地域を管轄しています。また、24年7月からはラテンアメリカ全域を統括する責務を担っています。これまでの仕事を振り返ると、主にアフターマーケットを専門としたキャリアが 一番長いですね。

 

ー 今後の展望や目標は。

ラテンアメリカの空調市場は、成長の余地が非常に大きいと考えています。6億人を超える人口にもかかわらず、空調の普及率は先進諸国に比べて依然として低いため、ビジネスを拡大するチャンスがあります。また、省エネや環境保護にも貢献できると考えています。具体的には、インバーターやヒートポンプ技術を用いた製品、および空調機器システムの設計・施工を通じて、個別のニーズに応じた省エネソリューションを提供することです。さらに、R32冷媒の普及推進など、ダイキンの技術と知識を活用し、各地域での導入を促進します。また、お客様に対して「速さ・確かさ・親切さ」というきめ細かいサービスを提供することで、サービス品質の向上を図ります。そのためには、人材育成や社内教育に力を入れていくことが重要です。最終的には、空調を含む総合的な空気のソリューションを提供し、ラテンアメリカでトップと評価される企業を目指して、これから邁進していきます。

 

 

Interviewer: Akiko Takeuchi
2024年7月22日取材

▼本誌掲載
メキシコ便利帳 Vol.9