近年、日系企業の進出が盛んになり、観光客数も増加の一途をたどるメキシコ。2017年2月、全日空(ANA)は誰もが待ち望んだメキシコ・日本間の直行便の就航を実現させた。メキシコは中南米への入り口でもあり、日本と世界を繋げる重要拠点としても注目されている。
地球の裏の親日国との距離をより近付けた立役者、日本を代表する航空会社ANAの、メキシコシティ支店を訪ねた。
日墨のあらゆる面での交流がより活発になるよう貢献し、両国の架け橋になりたいと思います。
メキシコシティ支店の沿革を教えてください。
2015年7月、当時営業支店として3名の職員でスタートしました。メキシコ路線の開設に合わせて支店が増強され、2016年12月にオフィスを移転。そして2017年2月、日本・メキシコ間の直行便就航に至りました。
現在は職員も8名に増え、営業だけでなく総務・経理機能やスペイン語のコールセンター、旅行代理店の対応デスクなどが入っています。空港にも空港所という事務所を開設し、16名のスタッフでカウンターのスーパーバイズなどを行っています。実際のチェックイン業務は別会社に委託をしています。
直行便就航後、日本人の動きに変化はありましたか。
2015年7月の支店開設時に赴任してから2年10ヵ月ほどになりますが、直行便就航後、明らかに日本人の観光客が増えました。以前は見かけなかった場所で日本人を見かけるようになったのです。
今メキシコには約1,200の日系企業が進出し、在留邦人は1万1,000人を超えました。直行便のお客様は日本人の割合が高く、日本とメキシコどちらにお住まいの方からもご利用頂いている状況です。とくにメキシコシティの駐在員や日本からの出張者からは、アメリカへの入国をともなう乗り継ぎがないことで、体力的にも精神的にもストレスが減り、便利になったと言われます。日を追うごとにメキシコ人や、韓国・中国などアジア系のお客様も増えています。
直行便就航までの歩み、経緯をお聞かせください。
メキシコと日本の経済関係はこの5年程で急速に発展し、日系企業の進出とともに邦人の数も増えてきました。両国の結びつきが強くなるにしたがい、需要がまだ増えるであろうことを確信しました。もっとも大きな決め手は、メキシコにある日系企業から「日本の航空会社に直行便を飛ばしてほしい」という機運が高まり始めたことです。
これに合わせて支店の開設に踏み切り、2016年1月に正式にメキシコ路線の開設を発表、メキシコの航空当局や空港会社との折衝を開始しました。
しかし、メキシコシティ空港は非常に混雑空港で、離発着の枠がほとんど空いていませんでした。枠を確保するのに約半年を要し、実際に午後着の枠をもらえたのは、2016年11月のことでした。その時点で、既に2月15日の就航を発表していたので大変です。支店や空港所の立ち上げを急ピッチで行い、幸い計画通りの就航へと漕ぎ着けたのです。
直行便就航において、課題はありましたか。
メキシコシティは標高が2,240メートルと高く、酸素が薄くて燃焼効率が悪いため、エンジンが100%のパフォーマンスを発揮できません。日本からの便では多い日は20トンの貨物を積み、客席も全席販売できるのですが、メキシコ発便には重量制限があるため、全席を乗客で埋めることができず、貨物も載せられません。需要のもっとも高い時期にも、座席が一部空いている状態になるため、お客様にはよく「満席だと言われたのに、乗ってみたら席が空いているじゃないか」と言われてしまうことがあります。
直行便をご利用いただけなかった方には、ヒューストン経由便をご案内するなど、直行便以外にも多様な選択肢を提供することで利便性を確保するよう努めています。
また、現在新しいエンジンも開発中です。完成し機体に搭載できるまでにはもう少し時間がかかりそうですが、機内を満席にできる日を心待ちにしています。
ぜひ、我々の飛行機に乗ってメキシコにお越しください。
機内食の導入にも大変な苦労があったと聞きました。
我々は、機内食にはとても力を入れています。日本発便の食事は日本で、メキシコ発便は基本的にメキシコで作っています。通常海外では、日本人のシェフが常駐し空港で機内食を作ることが多いのですが、メキシコではまず、人材確保の面で苦労しました。現在は日系人のシェフが担当して機内食をご用意しています。
もっとも苦労したのは、日本食に欠かせない白いごはんでした。メキシコシティは標高が高いため沸点が低く、家庭でもお米を炊いたりパスタを茹でるのが難しいのです。もちろん食べられないことはないのですが、就航開始後半年経っても、なかなか日本人のお客様に満足してもらえるだけのレベルには達しませんでした。スタッフが月に何回も現場に出向き、圧力釜を使ったり、水の量を加減するなど試行錯誤を重ねました。そして去年の秋口、半年以上かかってようやく白いごはんを安定的に炊けるようになったのです。絶妙なごはんの炊き具合というのは、日本食を食べ続けてきた日本人でなければ理解できないのは仕方のないこと。また、盛り付けにもこだわりを忘れたくありません。そのため、今もなお月に1回はスタッフが現場に足を運び、品質の確認を行っています。
こんなに大変なものなのかと思いましたが、ようやく安定し始めた品質を、今後も維持していきたいと思います。
メニューの考案・決定はどちらでされているのですか。
全世界共通で東京のグループ会社、ANAケータリングサービスで行っています。この会社から、半年に1回日本食のシェフと洋食のシェフに現地に来てもらい作り方を指導してもらうのですが、メキシコにはそれ以上の頻度で来てもらい、作り方や盛り付けの指導と、既存メニューのチェックを受けます。
メニュー変更の頻度はエコノミークラスが1ヵ月ごと、ビジネスクラスは元々のメニュー数が多いため3ヵ月ごとです。機内食は、毎月必ず職員も試食をします。
こちらから出した新しいメニューのアイデアも受け入れられます。
例えば、機内でメキシコ料理を提供したいと考え、メキシコ発便のアラカルトメニューにタコスやチラキレスなどを提案しました。これが、メキシコで食べたどのタコスにも引けを取らないくらい美味しくできたのです。またドリンクも、就航当初はマルガリータを提供しました。
支店長として掲げているミッション、そしてこの先10年の目標を教えてください。
直行便就航当初は、大変ありがたいことにお客様から「ありがとうございます」という言葉をたくさん頂きました。皆様の期待を裏切らないよう、毎日の安定した運航と空港オペレーションを目指していきます。
日本とメキシコの間にはまだまだ高いポテンシャルがあります。今は経済面の交流が注目されていますが、それに限らず文化やスポーツ面でも魅力を探して焦点を当てていけば、より交流も増え、結果的に人が飛行機に乗るようになるでしょう。我々は、日墨のあらゆる面での交流がより活発になるよう貢献し、両国の架け橋になりたいと思います。
また、メキシコはアジアから見たらキューバやグアテマラ、ペルー、ブラジルなどへの乗り継ぎ拠点、つまりラテンアメリカへの入り口です。中南米へ行く皆様にも広く使って頂ける仕組み作りと販売網の確立を行っていきたいと思います。もちろん、中南米のお客様が日本やアジアへいくという逆の動きにも注力していきます。
メキシコの魅力とは何でしょうか。
メキシコは、世界でも有数の親日国です。私はフランスやカナダにも駐在したことがありますが、今回メキシコに赴任して約2年半、引っ越した当初から居心地の良さを感 じました。皆さん親切で、住みやすく仕事もしやすいです。単身赴任をしていますが、レストランやスーパーマーケット、コンビニエンスストアもたくさんあり不便はまったくありません。
メキシコ料理は和食よりも先に世界遺産に登録されているくらい、歴史がありバラエティーに富んでいて、日本人の口にも合います。たとえばモレという料理。カカオをベースにカレーのように何種類ものスパイスを煮込んだもので、ぜひ皆さんにも味わってもらいたいです。
また、遺跡をはじめ世界遺産がアメリカ大陸では最多の34ヵ所もあり、観光資源にも恵まれています。美しいビーチもたくさんあります。私はワインが好きなのですが、メキシコにはアメリカのナパよりも歴史が長いアメリカ大陸最古のワイナリー、カーサ・マデロもあります。とても豊かな文化に恵まれた国なのです。
最後にこれからメキシコに来られる方にメッセージをお願いします。
メキシコは「危ない」というイメージがあるかもしれません。それも事実なのですが、治安の悪い地域や都市はある程度決まっていて、メキシコシティ、バヒオ地区など は日本人もたくさん住んでいます。しっかり情報を収集し最低限の注意をしていれば、メキシコ全体が危険であるとむやみに恐れる必要はありません。
それよりも、メキシコには良い面がたくさんありますので、もっとそちらに目を向けてほしいと思います。ぜひ、我々の飛行機に乗ってメキシコにお越しください。機内でお待ちしております!
メキシコシティ支店支店長 Mexico City Office Vice President & General Manager
大下秀史 HIDESHI OSHIMO
1962年生まれ。幼少時代をエル・サルバドルで過ごす。1986年、上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。1990年に全日本空輸(株)に入社後、空港業務や総務部勤務を経験。2002年、モントリオールにある国際民間航空機関の日本政府代表部に派遣される。2008年にはパリ支店に営業部長として赴任。2015年7月にメキシコシティ営業支店長就任、2016年10月より現職。
※2018年4月インタビュー時点
Interview:Eri Sano
Photo:Cristian Salvatierra
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