【メキシコで活躍する日本企業インタビュー】NEC de México S.A. de C.V. President 前谷 謙二郎

President

前谷 謙二郎(Kenjiro Maetani)

慶應義塾大学法学部を1994年に卒業し、NECに入社。海外関連事業に従事し、2018年4月からNECメキシコの社長を務める。

 

─NECメキシコの沿革や事業を教えてください。

NECメキシコは1968年設立で、通信ネットワークの構築を中心に事業を展開し、2018年に50周年を迎えました。会社が設立された1968年は、メキシコオリンピックが開催された年に当たります。 私たちはその際、通信衛星を使ってオリンピックを世界に配信するシステムの導入に携わりました。工場生産は2000年代に止め、それ以降は通信インフラ構築でのサービス提供に力を入れています。大手通信事業者が主な顧客で、そこへのシステム導入が事業の大きな割合を占めています。近年は、生体認証技術やPOSレジシステムの提供にも力を入れています。今年は次の50年への第一歩として、色々と始めるつもりです。

 

─1968年の進出は日系企業として早い印象です。

当時のメキシコは国づくりが積極的に進められていた段階で、社会のインフラ整備が必要とされていました。私たちは通信インフラを強みとしておりますので、 そこに対する需要とマッチしたのだと思います。これはNECとして2番目の海外法人設立に当たります。なお1968年はブラジルでも法人を設立しております。

──生体認証技術は世界トップ級の評価を受けていますね。

生体認証技術は、人間の身体または行動的特徴を用いて個人認証する仕組みのことで、デジタル社会における安全と安心を確保する鍵となっております。弊社が所有する技術は、映像や画像から人を判別する顔認証や、瞳孔の周りのドーナツ状の部分から人を判別する虹彩(こうさい)認証 、犯罪捜査や出入国審査で活用されている指紋・掌紋認証、指静脈認 証、声認証、耳音響認証の6つ。なかでも顔認証、虹彩認証、指紋認証の3つは、 米国国立標準技術研究所(NIST)が実施したベンチマークテストで1位の評価を受けました。セキュリティーを強化するという観点では、1つの生体認証技術だけでなく、複数を組み合わせることが効果的。今後は、こういった技術提供が主流になると思います。ここ最近は、欧米や中国勢との競争が激しくなっておりますが、それでも弊社には長年の研究開発で培った優位性があると自負しております。

 

 

─メキシコでの導入実績を教えてください。

具体的な機関名などは言えませんが、メキシコの複数の政府機関向けに我々の生体認証ソリューションを導入しております。世界のボーダレス化に伴い、人の移動が活発化するなかで、Boarder Control (出入国管理)などでもさらに今後これらの需要は増えていくものと考えております。公的機関にはこのように、私たちの技術が色々な用途で使われています。 民間企業への実績も、これに負けぬよう伸ばしていくつもりです。

 

─安全への貢献度が高いですね。

小さな都市単位で考えれば、私たちが貢献できる余地はさらにあると思います。2018年世界の危険な都市ランキング(Citizens’CouncilforPublicSecurity発表)では 、上位10位にメキシコの5都市が入りました。メキシコは企業の進出が 盛んにも関わらず、犯罪が多い実態があります。そういった観点からも、住民や駐在員は安全に高い関心を持っています。例えば、市街に設置したカメラと生体認証を組み合わせて、犯罪を抑止する「都市監視」のシステム。すでに中南米いくつかの都市では、都市監視に私たちのシステムが採用され、犯罪減少などの効果につなげています。メキシコでも市街カメラ設置の動きはあるので、弊社も何かできないかと考えています。

─店舗経営支援のPOSレジシステム事業については。

POSは現在、メキシコ大手コンビニチェーンで使っていただいております。ほかの小売店への納入も機会をうかがいつつ、さらに伸ばしたいと考えています。

 

─メキシコでのビジネスの厳しさはいかがですか。

私たち日系企業は製品やサービスの質で評価を受け、最後まで仕事をしっかり行う点で信頼されていますが、一方で、コストが高いと指摘されています。我々の主要取引先である通信事業者は、世界屈指の富豪が率いており、交渉時の姿勢には厳しいものがあります。

 

─社内マネジメントについては。

メキシコ人は、計画を立てて何かすることが苦手なようです。これは聞いた話なのですが、日本人にある程度の計画性が備わっているのは、四季の存在が背景となったというものです。田植えや稲刈りなど農作業を季節通りに行うことへの、祖先の代からの意識が、国民性の下地になったと。一方でメキシコは年中同じような気候なので、農作業への切迫感が薄かったとか。ただ、メキシコにいる以上はこの文化を尊重したうえで、マネジメントに当たる必要があります。従業員をいかに褒めるかということも大切です。メキシコ人は、人前で何か指摘すると傷つきやすい。人前で怒るのは一番良くありませんね。

 

─メキシコ人の魅力や日本人とのギャップを教えてください。

魅力としては、しっかり最後まで仕事をやり抜いてくれる人が多いことです。ギャップとしては、受けたサービスに対して、お金をそれなりに支払うという感覚が薄い点です。買う物に対しては当然お金を出すのですが、サービスでの目に見えない細やかさなどを、付加価値として考えられない印象を受けます。物を食べる回数が多いことも、感じたギャップの1つです。 例えば、従業員が朝出社したらまず何か食べて、次は11時にまた何か口にして、さらに2 時から今度はランチタイムに入るんです。文化を尊重しつつ、色々な取り組みを通じ効率性を上げていければ、さらに多くの事ができるのではと考えてます。

「生体認証をさらに伸ばしたい」と熱く語る前谷謙二郎氏

─スペイン語は慣れましたか。

スペイン語はかなり重要です。英語では得られる情報が限られてしまいますが、スペイン語なら相手がたくさん話してくれます。社外で人と会うならなおのこと。私は週に1度、家庭教師のレッスンを受けています。言葉はこれからも、頑張らないといけません。

 

─社長として今後の方針を聞かせてください。

生体認証については、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の創出に力を入れたいです。例えばホテルが顔認証を利用して、宿泊客の到着時に「◯◯様いらっしゃいませ」などと何かしらの形で表示できるとすると、特別感を提供できるうえ、リピート率にも影響しますよね。経営者を対象とした調査では多くの方が、今後重視する項目としてカスタマーエクスペリエンスを挙げたそうです。
POSについては、メキシコのコンビニを日本のように、さまざまなサービスをワンストップで完結させられる場所に進化させたいです。日本のコンビニをイメージしていただくと分かりやすいのですが、日本ではチケットや公共料金の支払いなど、さまざまなことがコンビニでできますよね。メキシコのコンビニではいつも、レジに長い列ができています。まずはそういった部分の改善から、お手伝いしていければと思っています。 長期的な視点では、どうしたら現地企業と真のビジネスパートナーになれるかを考えています。物を単に売買するということにとどまらず、販売後も収益を継続的に上げられるリカーニングのようなビジネスモデルを構築できたらいいなと思います。

 

─メキシコ進出する企業にアドバイスを。

例えば、立ち上げ時に人材派遣企業 や外部のエージェントを使う際は、費用などの諸条件をしっかり示しておくことが大事です。後から追加費用を請求されることもあるので、それを防ぐためにも最初が肝心です。あとはやはり、スペイン語ですね。メキシコはアメリカに経済的に依存している部分が大きいですが、現地の企業と仕事をするなら欠かせません。日本企業がメキシコに貢献できることはまだまだあります。ここは人と気候が良いうえに、 食べ物も美味しい「アミーゴの国」。会社のパーティーがあればみんなで夜遅くま で踊り、最後は笑顔。来たら絶対に楽しめますよ。

 

Interviewer: Hisashi Abe
Photographer: Cristian Salvatierra
Editor: Shota Haga

2019年4月11日取材