100 Tice Blvd, Woodcliff Lake, NJ 07677
TEL: (201) 692-1100
Chairman & CEO: アイヴァン・チャン (Ivan Cheung)デューク大学卒業。ハーバード大学ビシネススクールにてMBA取得。ブーズ・アレン・ハミルトン社にてニューヨークとサンフランシスコでコンサルタントとして活躍後、2005年エーザイ東京本社に入社。現エーザイ常務執行役、ニューロロジー・ビジネス・グループプレジデント、アメリカス・リージョン・プレジデントを務める。
アルツハイマー病進行抑制治療薬 世界初の創出へ情熱を注ぐ
日本では2025年時点の予測で、65歳以上の5人に1人が発症するといわれるアルツハイマー病。
エーザイは1日でも早い進行抑制治療薬の開発に力を注いでいる。
エーザイでアメリカス・リージョン・プレジデントを務めるアイヴァン・チャン氏が医療の進歩に一層の貢献を誓う。
─会社の沿革をお聞かせください。
エーザイは1941年に内藤豊次により 設立され、当時では珍しいバイオテックベ ンチャー企業の先駆けとして始動しまし た。当時日本の大手製薬会社のほとんど は主に製品輸入と販売を行っていたよう ですが、弊社は当初から自社独自の製品 研究開発にフォーカスし、自社科学者に よる開発で数多くの製品を生み出してき ました。私たちが研究開発で取り組んで いる分野は非常に難解で、高リスクだとよ く言われますが、創業時からの考えや開 発に取り組む姿勢は今も変わりません。 人々の生活を大きく改善し新生面を切り 開くことに情熱をもち1987年アメリカに進 出。海外からの製薬会社は新製品リリー スのタイミングに合わせて進出するケース がほとんどでしたが、弊社の場合はマサ セーチューセッツ州アンドーバーにラボを 設立することが最初の目的でした。さま ざまなアイデアをアメリカにいる科学者た ちと一緒に形にしたかったのです。その後、エーザイが開発したアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト®」の発売を 数年後に控えた段階で、1995年にニュー ジャージー州に米国本社を設立しました。
─日米の運営体制について教えてください。
本社が所在する日本には全世界のエーザイグループを合わせたうち、約半数であ る5,000人近くの社員がおり、筑波研究所 や神戸のカン研究所などを運営していま す。米国法人もそのオペレーション体制 をモデルとし、アメリカには約1,300人の社員が在籍しています。マサセーチュー セッツ州ケンブリッジにH3 Biomedicineと G2D2(Eisai Center for Genetics Guided Dementia Discovery)というリサーチラボ を、ペンシルベニア州に抗体薬物複合体 などにフォーカスした主にがん研究の施設を所有。バイオ医薬工場も併設してい ます。他にもボルチモア州に抗がん剤製薬工場、ノースカロライナ州にはサプライ・ チェーン・オフィスがあります。日米で共通していることは、バイオテックベンチャー精神と大手製薬企業の2つの側面を兼ね備えているところです。
─貴社の理念ヒューマン・ヘルス・ケアについて教えてください。
我々は従業員に就業時間の少なくとも 1%を患者様と共に過ごすよう推奨してい ます。誰もが病気から解放されたい。例 えば患者様にとっては、1人でトイレに行け るようになったり、子どもの結婚式に参加で きたりするようになることが夢なのです。患 者様の目線で物を考え、寄り添うことで気付いたことや感じたことを生かし、患者様 に希望を示せるようにチャレンジすることが 私たちの「ヒューマン・ヘルス・ケア」です。
─日米の製薬業界の違いは。
日米では、まず根本的に医療保険の仕組みが異なります。日本には世界最高水準の国民健康保険制度がありますが、アメリカは勤務先の団体保険や個人保険への加入が一般的です。また、65歳以上はメディケアの対象となります。そのため民間の医療保険会社やPBM (Pharmacy Benefit Manager)がとても 大きな力を持ちます。このように保険の 仕組みが異なるため新製品をどのように 販売するかも日米では異なります。ただ し、製薬業界は製品が世界共通であると いう点では他業界とは異なるのではない でしょうか。国によって製品が変わるとい うことはなく、同じ製品に対してアメリカは FDA(アメリカ食品医薬品局)が、日本は 厚生労働省が認可します。
─アメリカの製薬業界における最 新動向を教えてください。
よく話題に上がるのは第四次産業革命 です。製薬業界は新しいデジタルテクノ ロジーの採用が比較的遅いと言われて います。しかしそれらは研究開発に多大 なインパクトを与えます。AI、ビッグデー タ、ブロックチェーンなどの新しいテクノロ ジーはすでに生活の一部であり、今後製 薬業界においてもこれらを活用していく ことが肝要となるでしょう。また、今後は 医師からの診断結果の提供や、患者様と のコミュニケーションの在り方もニーズに合わせて、例えばアプリなどで行うというように変わってくるでしょう。
─貴社の最新ニュースをお聞かせください。
エーザイの事業活動は「がん領域」と 「神経領域」の2大戦略領域に分かれます。まず、がん領域の分野では、肝細胞がんにおいて2018年夏に「レンビマ®」 (進行性または切除不能な肝細胞がんの成人患者に対する一次治療薬)という G2D2ラボの外観 (Eisai Inc.提供) 患者様 に 希 望 を 示 せ る よ う に チ ャ レ ン ジ す る こ と が 我 々 の 企 業 理 念 「 ヒ ュ ー マ ン・ヘ ル ス・ケ ア 」 で す 37 新薬が10年ぶりに創出されました。これ までは肝臓がんは予後が思わしくなかったので、これは大きな希望となるでしょう。 そして2019年末までには「レンビマ®」が この領域において主力製品となることを 期待しています。さらに、「レンビマ®」と 米メルク社の「キイトルーダ®」(抗PD-1 抗体)との併用により画期的な効果を得られるよう両社の科学者が日々研究に打 ち込んでいます。そして、神経領域の分 野では、バイオジェン社と共同開発してい る早期アルツハイマー病治療の新薬候補 「BAN2401」について、第III相試験(治 験の最終段階)を開始しました。いち早く アルツハイマー病進行抑制治療薬を生 み出すことが我々のミッションなのです。
─新設移転したG2D2ラボの特徴は。
間もなく本格稼働を迎えるG2D2ラボ は駅から近く、多くの科学者は旧アンドー バー研究所からの移動となります。従来 ラボは、機能毎に各セクションで仕切られ ていますがG2D2ラボは1つのスペース でつながっており、オフィスとも隣接して います。また、日本語で名付けられた会 議室や電話ボックスをイメージしたプライ ベート作業スペース、黒板代わりのハイテ クノロジーボードなどさまざまな工夫を施 しています。ケンブリッジという土地柄、 周辺にはバイオテクノロジーの研究所、 ハーバード大学やマサチューセッツ工科 大学など優秀な大学もあり活気で満ちて います。この環境から多くの素晴らしい コラボレーションが生まれることを期待し ています。さらにG2D2ラボがユニークな のは、インキュベーションスペースを用意 していることです。スタートアップ企業に 研究スペースを提供し、オープンイノベー ションを加速させたいと考えています。
─これまでの経歴について教えてください。
大学ではエンジニアリングと経済を学 び、その後ビジネススクールに行きまし た。そこで学んだことが今の問題解決能 力につながっていると思います。以前は 別会社で戦略コンサルタントとして大手 グローバル企業とも多く取り引きする機 会がありました。その後、2005年にエーザイに入社。がん領域の分野で新技術の採用や「レンビマ®」の許可申請、米メルク社との提携に携わりました。そして アルツハイマー病の研究がうまく進んで いたなかで、バイオジェン社との共同研 究を成功させるために神経領域の部署 に異動。また、人事や経理、「チョコラ BB®」などの一般用医療品事業を担当し ていたこともあります。そして2016年に アメリカに赴任。アメリカの製薬業界は 巨大かつ人材も豊富。設備も整っている この地でビジネス展開できることは素晴 らしいチャンスだと感じています。
─日系企業がアメリカで成功する秘訣とは。
第一に優秀な人材確保ですね。彼らはグローバルなスケールで物事を捉え、世の中で今何が起きているのかに敏感で、 自分たちの仕事が世界にどのような影響を与えるかを熟知しています。どんなに優れた製品があろうと、仕事熱心なチームなくして成功はありません。有能な人材を集め、彼らが高いモチベーションを維持して働ける環境作りなど工夫することが非常に大切です。2つ目に、市場を把握すること。ヘルスケア業界においても日々新たな革新が生まれますし、アメリカの市場の動きは大変早く競争も激しいです。そして 最後に、必要とあらばパートナーシップを結ぶこと。まず自分たちが最高の結果を出すことは当然ですが、企業に限らず学術機関など、互いの力をより高め合えるような戦略的パートナーシップの締結はプラ スの相乗効果につながると思います。
─最後に、今後の展望について。
我々は「EWAY2025」という中期目標を 掲げています。2016年4月にスタートしたこの中期経営計画は、患者様に貢献したいという「ヒューマン・ヘルス・ケア」の理念がもとになっています。その目標のうち最重要項目の1つが、先にも申し上げた、神経領域において世界で初めてアルツハイマー病の疾患修飾剤を生み出すこと。これまで欧米の多くの大手製 薬会社が試みるも大変難しいものでした が、弊社はアルツハイマー病治療薬の研究において世界最先端にあり成功することが責務なのです。また、がん領域においてこれからは免疫治療の時代です。 現在、アメリカで「レンビマ®」はすでにいくつかの適応が承認されています。さらに、米メルク社との共同研究による成果をいち早く上げ、人々の生活をより豊かなものにするべく邁進します。
Interviewer: Madoka Sugaya
Photographer: Mariko Suzuki
Editor: Mika Nomoto
2019年6月13日取材
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