TOTO USA, Inc.
1155 Southern Rd, Morrow, GA 30260
福岡県出身。九州大学工学部・応用化学科卒業。1988 年 TOTO 株式会社入社後、衛生陶器の新素材の研究や商品開発などを担当。2000年、衛陶生産本部へ異動し「セフィオンテクト」の開発に携わる。10 年、TOTO ベトナム副社長兼製造部部長に就任。品質管理のため日本のみならず世界中の鉱山を訪問調査するとともに海外拠点の製造管理を行ってきた。21 年から現職。3 人の子をもつ父であり、好きなスポーツ チームは 福 岡ソフトバンクホークス 。
品質を担保しながら、
お客様に信頼されるメーカーでありたい
世界の市場で打ち勝つためには、完璧な品質と機能が求められる。
TOTO が着実に売り上げと知名度を伸ばしている背景には、決して手を抜かず、細部まで妥協しないという強い姿勢が見える。
ー 社長就任までの経緯は。
2020 年 6 月にアトランタに赴任しました。最初は製造現場を管理しながら副社長を 1 年務め、21 年 4 月に社長に就任。以前にもタイに4年、ベトナムに5年半おり、そこでも同じように便器製造の現場をずっと指導してきた経緯があります。私は技術職で入社したので、本来はコテコテの「 技術屋」なんです。 ですからTOTO 製品の技術についての説明や工場見学が大好きですね。
ー 事業概要は。
東洋陶器株式会社という名で1917年に創業しました。当時は筆記体のようなロゴで大鷲のマークが付いていましたが、昭和44年ごろ、現在目にしている「TOTO」に変わりました。衛生陶器や水栓金具などの製品を中心に製造・販売しており、アメリカでは衛生陶器とウォシュレットを中心に商品を展開。売上構成比でいうと、半分弱が衛生陶器、ちょうど三分の一くらいがウォシュレット、残りは水栓金具関係になります。
技術や付加価値機能は当然たくさんありますが、
とにかく壊れないこと、耐久性が強みです。
ー 競合他社との差別化については。
TOTOは常に品質で差別化を図っています。そこのこだわりは過去からずっと大切にしているもので、どこにも負けない品質を生み出す自負があります。技術や付加価値機能は当然たくさんありますが、とにかく壊れないこと、耐久性が強みです。自分たちが品質基準というものをつくってきた世代なので、そこは確実に守りたいと思っています。さまざまな機能を生み出し、商品に搭載して品質を保つとどうしても値段が高くなってしまいますが、良いもので勝負するという姿勢を続けています。例えば今、アメリカ市場の温水洗浄便座では中国製や韓国製の安価なブランドが参入してきています。ある程度の脅威だとは思いますが、結局最後に選択するのはお客様。品質を担保しながら、お客様に信頼されるメーカーでありたいと思っています。
「ネオレスト」シリーズ。自動で「きれい除菌水」をふきかけて、黒ずみや輪じみのもとになる「菌」を除菌
ー技術的な特徴については。
便器は単なる陶器だと思われるかもしれませんが、技術は実にたくさんあります。まず、水の流れ方と節水については長年研究をしてきました。アメリカは環境保持にとても厳しく、カリフォルニア州など水が少ない地域では使用する水の規制もあります。そういう環境で節水便器から事業を始め、80年代終わりに最初に販売した製品は1回の水量が6リットル(1.6ガロン)のものでした。過去をさかのぼれば12リットルや18リットルという製品もありましたが、技術改良の際にどれだけ節水するかだけではなく、きちんと流れるかどうかという基準もクリアしながら4.8リットル、さらに3.8リットル(1ガロン)まで減量。この節水技術が便器にすべて凝縮されています。
また便器のなかの構造も他社製品と全く違います。便器の表面はうわぐすりでコーティングされ、ガラス層をつくっていますが、特殊なガラスを使い表面を超平滑(ツルツル)にすることにより、少ない水でも汚物やトイレットペーパーが表面に引っかかったまま残らなくなります。これが「セフィオンテクト」という技術です。他社も節水量では追随してきていますが、水の量を減らすだけで洗浄力の違いは明白です。
ー アメリカでTOTO製品を体験できる施設などは。
ラグジュアリーな高級ホテルには便器を多数採用いただいており、今はウォシュレットも高級ホテルやレジデンスをターゲットに採用が増え始めています。ウォシュレットの導入数はハワイが圧倒的に多いですね。やはり実際に使っていただかないと商品の良さを伝えにくいので、体験機会をいかに増やしていくかということに長年取り組んできました。なかでもホテルでの採用は1つのチャンスだと思っています。例えば当初はスイートルーム1カ所だけであった採用を全てのスイートルームに導入していただく、といった体験機会のきっかけを増やしていくことが重要です。今ではアメリカ国内で全室ウォシュレットを採用するホテルも増えてきています。
ー アメリカでの認知度および普及率の変化は。
我々のアメリカにおけるターゲットは中流層のお客様です。最近の調査では「アメリカ人が温水洗浄便座を知っているかどうか」について実に約7割が「知っている」と答えました。以前はこのように多くはなかったため、この結果には驚きました。またそのうちの約3割は「買いたい」と答えています。COVID-19の感染拡大により、一時期全米の量販店からトイレットペーパーが消えたことがありました。当時、既に温水洗浄便座(ウォシュレット)の認知は広がっており、洗浄便座でトイレットペーパーの使用を削減し、この危機を回避できるかも、といった報道が出るなどして温水洗浄便座の存在がさらに多くのお客様に知られることとなりました。
一方で、普及率はまだまだこれからです。日本で40年前に登場し、普及してきたころの販売数字のカーブにちょうどアメリカの数字も重なってきました。アメリカでの普及率がまだまだ数値として表せない段階でこれだけのビジネスになり、日本同様の成長カーブを描ければ、まさに日本のように伸びていく可能性があります。一度普及したら次は10年ほどのスパンで取り替え需要となり、成長していきます。アメリカ市場のウォシュレットはまだまだ規模こそ小さいですが、大きなビジネスチャンスがあるという手応えを感じています。
ー Eコマースでの販売も好調。
アメリカ進出後、小売店の前にまず卸業者や既存の水道商品関連の販売網を地道に増やしてきました。2017年ごろからは一般のお客様が多く出入りしているコストコ(Costco)など小売店にもウォシュレットを置いてもらい、販路を少しずつ拡大し、売上もしっかりついてきました。そして今度はEコマースです。アマゾンなども販路として確立し、いつでもお客様がウォシュレットを探せる環境をつくりました。COVID-19のパンデミックでさらに認知度が上がったとき(需要がさらに高まったとき)にすぐに手を伸ばして買える場をきちんと用意できていたことが結果につながっているのだと思います。
「『きちんとした商品を提供していれば、いずれお客様に分かっていただけるよね』というのが今の会長の言葉です。
そういう気持ちは常に持っていますね」と話す石川氏
ー 将来的な製品の方向性は。
我々が推し進めているのは、便器とウォシュレットが完全に一体形になった「ネオレスト」というシリーズです。なかでも「ネオレストNX」は最上位のフラッグシップモデルで、美しい曲線を持つ他には例を見ないデザインです。便座(ウォシュレット)が一体形かつコンパクトになっていくことはTOTOならではの開発力です。もちろん、他社の便器にも取り付けられるウォシュレット(便座のみの部分)が単体で売れるのもありがたいですが、全ての技術が収れんされているTOTOらしい一体形便器を成長させていくことには、今後も力を注ぎたいと思います。
衛生陶器の素材は将来他のものにとって変わらないのですか?とよく聞かれますが、「絶対に変わらない」と答えています。もともとヨーロッパでスタートした衛生陶器ですけれど、もう何百年も変わっていません。陶器の素材である土は自然からくるもので、永久的に変わりません。金属であれば腐食し、プラスチックは劣化します。陶器だからこそ便器が造れると思っています。家やマンションを壊したときに便器だけ残っていると言われるくらい長持ちするものなんですね。もちろん土ですから環境にもやさしいのです。
ー 「TOTOWILL2030」でも環境を重視している。
「TOTOWILL2030」はTOTOの新しい共通価値創造戦略であり、2050年にカーボンニュートラルで持続可能な社会を実現できるよう、貢献することを目指し「『きちんとした商品を提供していれば、いずれお客様に分かっていただけるよね』というのが今の会長の言葉です。そういう気持ちは常に持っていますね」と話す石川氏ています。快適で清潔なだけでなく、節水やリサイクルが可能な環境にやさしい商品、TOTOではこれを「サステナブルプロダクツ」と呼んでおり、これを全世界に増やしていくことで、社会に貢献し続ける企業でありたいと考えています。
ー アメリカ進出を目指す企業にアドバイスできることは。
個人的には、アジアに進出するのとアメリカに進出するのではだいぶ違うと思っています。アジアだったら「日本」となると「日本企業だから良い製品なのでは」となりますが、アメリカではそうはならない。まず本当に良いものなのかどうか自分たちで確認しないと、良いと判断しない。アメリカで真剣にビジネスをやろうとするならば、きちんとした技術と品質の裏付け、そして確固とした経営理念を持ってこの市場に挑むことが成功への鍵だと思います。
アトランタ・テネシー・アラバマ・テキサス便利帳 Vol.18本誌掲載
Photographer : Mariko Kajikawa
Editor : Miho Kanai
2022 年 3 月 3 日取材
※ウォシュレットはTOTO株式会社の登録商標
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