【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】Asahi Kasei America, Inc. President 有馬大地

Asahi Kasei America, Inc.

800 3rd Ave, 30th Fl, New York, NY 10022

TEL: (212) 371-9900

1982 年に一橋大学商学部卒業。旭化成工 業に入社し、延岡支社、経営管理部、経営計画 管理部経営企画室に従事。2006 年に旭化 成ケミカルズの合成ゴム事業部事業部付企画 グループ長、2009 年に合成ゴム営業部長、 2011 年に旭化成の経営管理部長、2016 年 に執行役員経理部長、2017 年に上席執行 役員経理部長となる。2018 年から旭化成ア メリカの取締役社長。1958 年生まれ。

 

グループ企業を統括支援 旭化成のシナジー追求

旭化成のアメリカでの攻勢が目覚ましい。2012 年以降の企業買収(M&A)によって強化した 医療機器や電池部材、住宅などの事業が、成長の柱となっている。アメリカのグループ企業を統括支援する 旭化成アメリカ(Asahi Kasei America, Inc.)の社長・有馬大地氏に、事業の動向や抱負を聞いた。

─旭化成づループの沿革を教えて下さい。

旭 化 成 は 1 9 2 2 年 、野 口 遵( し た が う )に よって創業されました。滋賀県の膳所(ぜ ぜ)で繊維事業、宮崎県の延岡でアンモ ニアの化学合成事業をそれぞれ始めて おります。社名は、滋賀の工場近くの寺 に祭られていた「旭将軍」こと木曽義仲の 一文字をいただきました。ケミカルの意 味の化成は、中国古典で「より良い方向へ変化・発展する」という意味があります。 1931 年にはドイツのベンベルグ社から再 生セルロース繊維の技術を導入し、キュ プラ繊維の製造を始めました。これは高 級スーツの裏地などに使われるコットン生 ま れ の 素 材 で 、創 業 か ら 9 0 年 以 上 経 っ た 今でも弊社の主力商品です。

─どのような事業を展開していますか。

旭 化 成 グ ル ー プ は 「 マ テ リ ア ル 」「 住 宅 」 「 ヘ ル ス ケ ア 」の 3 つ を 主 な 事 業 領 域 と し、多彩な事業を展開しています。マテリアル領域ではキュプラ繊維の他、食品包 装用品、石油化学製品、リチウムイオン電池用セパレータ、半導体などを製造してい ます。住宅領域では、戸建住宅「ヘーベ ルハウス」などの事業を展開しています。 ヘルスケア領域では医療機器や医薬事 業の他、近年はクリティカルケア事業と称 して、AEDなど救命救急の分野にも力を 入れています。事業の多角化は、元々持っ ていた技術を基に、新技術を生み出し進 めてきました。例えば、人工透析用のダイ アライザーの開発には繊維事業の技術 が、アクリル繊維事業への進出にはアン モニア事業の技術が土台となりました。

─身近な商品の例には何がありま すか。

キュプラ繊維以外にも多くありますが、 例えばサランラップでしょうか。元々は、ア メリカのダウ・ケミカル社が開発した製品 で 、商 品 名 は 、開 発 し た 技 術 者 2 人 の 妻 の名前が、サラさんとアンさんだったこと が由来となっています。日本では旭化成 と提携して生産販売をスタートさせ、現在 はどの家庭でも欠かせないと評価いただ いています。

─旭化成アメリカの沿革や役割は。

旭化成は1959 年にニューヨーク事務 所を設立しました。当時はオフィスがエ ンパイアステートビルディングの 79 階にあ り、繊維の市場調査や販促業務が主でし た。旭化成アメリカが法人設立されたの は 1971 年です。弊社は地域統括会社的 な位置付けで、コンプライアンスのチェッ クやシェアードサービス(グループ企業内 の共通業務を集約し、効率化を図る経営 手法)の提供、私自身が各社のボードミー ティングに参加することなどを通じて、アメ リカにあるグループ企業をサポートしてい ます。

─アメリカでの事業動向を教えてく ださい。

旭化成はここ7、8 年で大規模な企業 買収(M&A)を行い、アメリカでの事業を 拡 大 し て い ま す 。 1 つ 目 は 2 0 1 2 年 の 、 救 命 救 急 医 療 機 器 大 手 ゾ ー ル 社( Z O L L Medical Corporation、本社マサチューセッ ツ州)の買収です。ゾール社はAEDなど の除細動器を製造販売しており、旭化成 はこの買収を機にクリティカルケア事業に 本 格 参 入 し まし た 。 2 つ 目 は 2 0 1 5 年 の 、 バッテリーセパレータメーカーのポリポア 社(Polypore International, Inc.、本社ノー スカロライナ州)の買収です。ポリポア社 は E V( 電 気 自 動 車 )な ど に 使 用 さ れ る リチウムイオン二次電池用セパレータなど のメーカーです。現在、旭化成はバッテ リーセパレータ事業で世界一のポジショ ンを確立しています。3 つ目は 2018 年の 自動車内装材メーカーのセージ社(Sage Automotive Interiors, Inc、本社サウスカ ロライナ州)の買収です。セージ社は車 のシートなど各種繊維製品の生産販売 を手掛けており、これにより当社はオート モーティブ事業を川下に近いところまで 展開できるようになりました。一番新しい M & A と し て は 2 0 1 8 年 1 1 月 の 、エ リ ク ソ ン 社(Erickson Framing Operations LLC、本社アリゾナ州)の買収です。同社は戸建 て住宅ビルダー向けにプレハブ建築部材 を提供している会社です。他にはコーポ レートベンチャーキャピタルの機能を西海 岸と東海岸にそれぞれ持ち、スタートアッ プに対して積極的な投資を行っています。 新事業の創出が目的で、実際に買収につ ながったケースも複数あります。

 

─中期経営計画「Cs+(シーズプラ ス)for Tomorrow 2021」の概要は。

これは、旭化成のサステイナビリティを 打ち出した中期経営計画です。持続可 能な社会へ貢献していくということで、従 来の中期経営計画に「Care for People, Care for Earth」という言葉の「C」を付け加 えました。注力すべき事業を「環境エネ ルギー」「モビリティー」「ライフマテリアル」「 ホ ー ム & リ ビ ン グ 」「 ヘ ル ス ケ ア 」の 5 つ に定義したものになります。

赴任時の思いや、社長としての抱負をにこやかに語る有馬大地氏

─次世代へ貴社に何が求められ ているか、考えを聞かせてください。

旭化成は「世界の人々の〝いのち〟と〝くら し〟に貢献する」という企業理念の下、より よい生活を支える事業を展開してきました。 これからも常に変わっていく世の中の課 題に対し、ソリューションを提供していくこ とが重要と考えています。例えば、自動車 をはじめとするモビリティーのあり方は、現 在過渡期にありますが、今後重要になる のは電池です。より高性能で安全な電池 部材の開発は当社グループが次世代へ 貢献すべき使命の1つだと思います。

─自身の社歴を教えてください。

1 9 8 2 年 に 旭 化 成 に 入 社 し 、最 初 の 6 年 は 延 岡 、そ の 後 の 3 0 年 は 東 京 勤 務 、 ニューヨークには2018 年に初の海外駐 在として赴任しました。延岡では経理、東 京では有価証券報告書の作成、中期経 営計画の取りまとめなどコーポレートプラ ンニングに従事しました。2000 年代初頭には、旭化成を持ち株会社に移行する分 社化プロジェクトに携わりました。その後 は合成ゴム事業で、シンガポールのプラン ト検討や営業に従事しました。その後に 経理部長となり、私の会社人生は経理で 終わるのかなと思っていた矢先、アメリカ法人の社長に任命された次第です。

─アメリカ赴任は予想外でしたか。

海外赴任は若い頃からの夢で、ようや く願いが叶った、と思ったのは確かです が、自分が旭化成アメリカの社長になると は思ってもいませんでした。というのも、 旭化成アメリカの社長は海外経験豊かな 人が続いておりましたので。ただ、アメリ カ事業が目覚ましく拡大するなかでの任 命でしたから、私の使命は、グループ企業 のガバナンスや運営面の整備だと認識し ています。

─仕事を通して辛かったことや、達成 感を味わったことを教えてください。

辛かったのは、旭化成ケミカルズの合成 ゴム営業部長時代です。リーマン・ショッ クの影響で予算未達が続き、かなり悩み ました。また、達成感という意味では、社 内の経理体制を整備したことは、後輩たち に残せたことの1つだと感じています。

─アメリカ生活で影響を受けた価 値観はありますか。

家族を大事にすることです。私もアメリカ 人のように、部屋に家族写真を飾っています よ。こちらの人々のポジティブ思考も、とても 良いと思います。日本では歳を重ねるとフッ トワークが重くなりがちですが、私は「まだまだいけるぞ」と思うようにしています。

─最後に、社長としての抱負をお聞かせください。

1 つ 目 は 、人 財 マ ネ ジ メ ン ト を し っ か り 行 うことです。アメリカのグループ企業には 現 在 約 7 , 0 0 0 人 の 従 業 員 が お り 、次 世 代 のリーダーをどう確保するか考えなければいけません。社内の人財を育てるのか、 外部から採用するのか。そこに、旭化成 アメリカはグループの横軸として、今後も サポートしていくつもりです。2 つ目は地 域発の成長でグループに貢献することで す 。 M & A は 現 在 、日 本 本 社 が 中 心 と な っ て案件の企画検討をしていますが、アメリ カでも提案や事業開発ができる体制を整 えたいです。3 つ目がガバナンスやコン プライアンスなどで各社をサポートするこ と。こういったところからシナジーを生み 出し、グループの発展と次世代の社会に 貢献していきたいと考えています。

 

Interviewer: Mika Nomoto
Photographer: Masaki Hori
Editor: Shota Haga

2019 年 8 月14日取材