【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】ジェイテクト・ノースアメリカ 社長&CEO 山中 浩一

光洋精工と豊田工機が合併し誕生したJTEKT
まだ11年目の若い会社ながら、両社の強みを生かし28ヵ国130以上にネットワークを広げグローバルに活躍する。今や、同社のステアリングや軸受は世界中の車に使われ、“IoE = Internet of Everything”のコンセプトの下、工程のスマート化も推進する。
同社にお話を伺うべく、サウスカロライナの北米本社を訪ねた。

日本とアメリカは、自動化推進の最重要拠点であると言えます。

JTEKTの事業内容と、アメリカ進出の経緯をお聞かせください。

弊社はアメリカで、軸受、ステアリングとドライブライン、工作機械の販売という3つの事業を行っています。

軸受は、日米貿易摩擦により現地での生産を余儀なくされた1973年、北米に会社を設立し1975年からサウスカロライナのオレンジバーグで生産を開始しました。
1995年6月には、同州リッチランドにタイヤのホイールに付くハブユニットというベアリング製品の専用工場を建てました。これはJTEKTのハブユニットとしては最も大きな工場となっています。さらに2001年にケンタッキーに、2008年にはテネシーのテルフォードに工場を設立しました。次に大きいのはステアリング部門です。ステアリングについては1988年、テネシーのボノアというところでTRWとの合弁会社を設立。2004年にはメキシコの日系自動車メーカー対応として、テキサスに工場を建設しました。
そして2006年、光洋精工と豊田工機が合併しました。ベアリングの光洋精工、工作機械の豊田工機、ステアリングのJTEKTと3つのブランドを有しています。
現在、買収・合併した会社が元々所有していた工場も含め、北米に15工場、26拠点を、グローバルでは65工場を置き、自動車部品業界のなかではトップ20に入っています。

光洋精工と豊田工機が合併した経緯と、シェアの変化を教えてください。

両社ともトヨタの仕事をメインとしていましたが、同じグループ会社2社でひとつの仕事を得るため競争していたら、リソースがいくらあっても足りません。そこで競争力を高めるべく合併を決めました。元々はステアリング事業での親和性があったのですが、それに限らず色々なものを作り、シナジーを生みたいという狙いもありました。
マーケットシェアは、現在ステアリングがグローバルで25%と、4台に1台は弊社の製品を搭載していることになります。軸受はアメリカでは4番目くらいでしょうか。工作機械はトヨタの北米工場がメインなのでシェアはあまり大きくありません。こちらではサービスと販売を行い、設備は日本から作って持ってきています。

アメリカと日本との事業の違いは。

事業自体は同じですが、ステアリングとひと口にいってもタイプがさまざまです。
日本は中・小型車が多くコラムタイプのEPSが主流、アメリカはSUVや小型トラックが多いのでラックパラレルタイプが主流です。販売時の商品名は同じですが、商品そのものが違うのです。ラックパラレルは日本ではなじみがなく少し苦戦しています。
ベアリングは、競合他社の競争力が非常に強く価格面では苦労していますが、販売品目はまったく同じです。

自動運転化によるマーケットへの影響は。また、日本のものづくりの未来をどう予測されますか。

現在産業機械部分のベアリングはとても好調なのですが、自動運転の車ではベアリングの数が減り、その分電気メーカーの仕事が増えていきますので、我々は臨機応変に対策を講じる必要があります。
自動運転になってもステアリングは残るので、競争力をつけ拡販していきたいと考えています。

しかし、この業界における日本の優位性は低くなってきており、日系メーカーは遅れをとっているのが現状です。自動化のためのロボットも欧州が圧倒的に優れており、最近は多くの会社が、いち早くIoEやIoTに取り組んだドイツの仕事を見習っています。
これまで日本の製造業は時間を際限なく費やし目標を達成してきましたが、政府も提唱する「働き方改革」という面では非常に遅れています。
さらには新興国メーカーの急成長により、競争はますます激化します。
日本は高齢化が深刻で、アメリカは製造業の離職率がとても高いことから、この両国は自動化推進の最重要拠点であると言えます。無人化ラインの取り込みを進め、そのための新製品の開発が急がれます。

サウスカロライナに本社を置くメリットとは。

デトロイトからここに本社を移したのは2016年です。営業と技術部門のトップがデトロイトを拠点としていましたが、各拠点への移動効率が非常に悪かったのです。サウスカロライナからは、15工場のうち11ヵ所に車で4時間以内で行けるため、営業を除く本社機能をここに集めました。
また、近くにクレムゾン大学があり、研究面で大学と連携しやすく、優秀な人材を採用できます。買収したトリントンの研究所を引き継ぐ形で産学共同の形をとっています。

離職率0.7%という弊社の社員の定着率は非常に高いと感じています。

ヒューマンリソースの施策や苦労は。

現在弊社には、アメリカ全体で7,000名、本社だけで200名強が在籍しています。7,000名中、日本人は100名と割合は昔に比べ減っています。
アメリカ全体の製造業の平均離職率は2∼3%です。デトロイトやケンタッキー、テキサスなどに比べても、離職率0.7%という弊社の社員の定着率は非常に高いと感じています。
ローカルスタッフの教育には、苦労は当然あります。工場長、 製造部長、品質課長は全員ローカル社員で、その周辺にあくまでコーポレートアドバイザーという形で日本人を配置しています。
弊社には「JTEKT WAY」という全世界のスタッフが共有する共通価値観があります。マネジャー、工場長、部長クラスは頻繁に交代するのですが、そうした変化点では自ずとJTEKT WAYの理解が必要となり、日本人がしっかり指導をする必要があります。

JTEKT WAYについて詳しく教えてください。

キーワードは「お客様視点」「当事者意識」「たゆまぬ改善」「和して厳しく」「技に夢を求めて」の5つです。
光洋精工85年、豊田工機65年の社史のなかで培ったものが集約されています。
多くの会社に見られる傾向として、トップと話す機会が多いマネジャー以上だけが会社方針を理解していることが多いのです。新入社員も含めすべてのクラスが同じ考え方を共有しようと、こ の共通価値観が提唱されました。
今はタウンミーティングで、会社の方針を上から下へとすべてのクラスへカスケードダウンし、人事中心に全従業員に研修も行います。
「お客様視点」というのは、工場などで前工程から後工程へと物が流れていくときに、前工程に携わる人は常に後工程のお客様のために何をすべきか意識するということです。お客様は、直接取引をしている相手のみならず、どこにでもいるのです。それは製品の質にも表れてく るでしょうし、サービスの向上にも繋がります。

アメリカのビジネスの難しさ、また日本との違いは。

離職率が高くノウハウの定着がしにくいことです。
とくに現場作業者は、離職率が高いと生産性が上がりません。生産性が上がらないから残業をする、残業があるから人が辞めていくという負のスパイラルに陥るときがあり、アメリカで事業をする難しさを痛感します。
また、中国やタイ、インドネシアなど競合の少ないところはまだ競争が激しくないのですが、欧米にはメガ・サプライヤーがいます。デトロイト3などの要求する価格は、日系メーカーに対し20∼30%厳しいのです。
これらの状況に打ち克つには、IoT、IoE、AIを駆使して自動化を進め、競争力をつけるしかないのではないかと思います。

今後の課題や目標を教えて下さい。

会社全体の課題として、他社にない高付加価値製品の開発が挙げられます。何を開発すべきか、それにはどういうリソースが必要なのかをグローバルで考えています。
そのヒントを得るため、年に2回役員研修会を開き、先を見据えた新商品の検討をしています。世界中の若手社員のなかからも年に30名程選抜し、4∼5名のグループに分かれて20∼30年先のために何をすべきか議論をし、アイデアを積み上げています。

サウスカロライナでの生活はいかがですか。

生活面ではまったく苦労することがありません。日本食材店も日本料理屋もあり、生活は快適です。日本人のシェフがいるお寿司屋さんによく行きます。
朝出社するのも早いですが、夜帰るのも早い生活で、健康にはいいですよ。レストランに行っても午後8時半くらいには家に帰りますからね。
休日は、妻と一緒にチャールストンやマートルビーチ、少し余裕があればフロリダなどに旅行に行きます。ゴルフをすることも多いです。

アメリカ南部に進出をお考えの方にアドバイスを。

やはりアメリカの文化を理解してから来られるべきだとは思います。事業計画を立てる際、予想もできない離職率の高さや、パワハラについての認識など文化の違いを念頭に置いておくとよいでしょう。
英語については、南部の英語は手強いです(笑)ナーバスになるでしょうが、恥ずかしがらずにコミュニケーションを積極的にとればなんとかなります!
南部のこのゆったりした感じは、合う人には合うのではないでしょうか。

JTEKT North America
President & CEO 山中浩一

1986 年関西大学経済学部卒業。 同年、光洋自動機株式会社入社、 翌年に同社が光洋精工株式会社と合併。 主にステアリング事業部に 従事する。2002 年より Koyo Steering Europe への出向でフラン ス・リヨンに赴く。2006 年、光洋精工(株)と豊田工機(株)が 合併し JTEKT が誕生。同年、JTEKT EUROPE S.A.S の次長に昇格。 2016 年、同社北米事業統括に就任。2018 年 4 月より現職。
※2018年3月インタビュー時点

Interview:Takayuki Kawajiri