【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】Mori Hamada US LLP 森・濱田松本法律事務所

Partner / New York Managing Partner
梅津英明
(うめつ・ひであき)
2004年日本で弁護士登録、10年にニューヨーク州弁護士登録。経済産業省への出向やアメリカの法律事務所勤務を経て、国際M&A、企業コンプライアンス、ガバナンス、国際通商・輸出管理などを幅広く手がける。東京大学法学部、シカゴ大学ロースクール修了。 ※写真中央

Partner
加賀美有人(かがみ・あると)
2002年日本で弁護士登録、11年にニューヨーク州弁護士登録。大阪の法律事務所、日・英の企業出向を経て、森・濱田松本法律事務所に参画。独占禁止法/競争法を中心に、企業結合、クロスボーダーな企業犯罪、不正調査案件など幅広く手がける。京都大学法学部、カリフォルニア大学ロースクール修了。 ※写真左

Partner
鈴木信彦(すずき・のぶひこ)
2012年日本で弁護士登録、18年にニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダー M&Aやジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンスを中心に、日常的なコーポレート業務も担当。慶應義塾大学法学部・法科大学院を経て、スタンフォード大学ロースクール修了。 ※写真右


Mori Hamada US LLP
360 Madison Ave
24th Fl, New York NY 10017
Tel (646) 255-1148

 

アジアと世界をつなぐゲートウェイ、
社会インフラとしての法律家集団

アメリカ進出から2年。ニューヨークとサンフランシスコを拠点に、森・濱田松本法律事務所は日米間の大型取引や国際規制対応に加え、ASEAN諸国の成長市場にも対応。トランプ政権の不確実性が多方面に影響するなか、クロスボーダー M&Aやコンプライアンスなど多様な案件の最前線に立つ。

 

ー アメリカ進出の経緯は。

梅津:これまで、森・濱田松本法律事務所は日本の本部を中心にASEAN主要国での活動が中心でしたが、アメリカへは、ASEAN諸国とアメリカ大陸の国々をつなぐ拠点を設けることを目的に進出しました。まずは2023年9月に金融の中心であるニューヨークへ。そして25年5月には、西海岸のスタートアップやテクノロジー企業と組む日本企業が増えたことからサンフランシスコにもオフィスを開設。ここではベンチャーファイナンスやテック系M&Aが主なテーマであり、専門性の異なるメンバーもそろえています。ニューヨークと連携しつつ、アメリカ全土をカバーできる体制を整えています。

ー 弁護士数と一体運営について。

梅津:ニューヨークとサンフランシスコを合わせて現在9名の弁護士が活動しています。規模としては大きくはありませんが、私たちは1つのオフィスで完結するのではなく、ニューヨーク、日本、アジアのチームが一体となって業務を遂行し、関わる誰もが地域関係なく案件全体を把握しながら動ける、それにより地域間の「ブリッジ」を築くことを目指しています。ニューヨークで進めている案件でも、アジアの弁護士とリアルタイムで連携できる体制を整える、それが国際拠点としての私たちの役割だと思っています。

 

ー 専門分野と役割分担は。

梅津:私はニューヨークオフィスの代表として、アメリカ全体の統括をする役割を担っています。意識的に多様な専門性を持つ弁護士を集めており、それが私たちの大きな特徴です。ビジネスローファームとして、当事務所では、M&Aやファイナンシング、会社法、国際通商法、独占禁止法、不正発覚時の危機対応、テクノロジーやデータ関連法務、スタートアップ対応、そして訴訟・倒産対応も取り扱っています。私は元々、M&Aも扱っていましたが、現在は主に国際通商法務分野を担当しています。具体的には経済制裁、輸出管理、関税政策、米中の貿易対立や地政学的リスクへの対応といった領域です。トラブル発生の際の対応はもちろん、契約を通じて事前にリスクを回避する取り組みも行っています。

加賀美:私は独占禁止法分野を主に担当しており、具体的には、企業結合届出、談合・カルテル、独禁法違反などの不正調査対応を担当しております。また、品質やデータ偽装の問題など、ときにはアメリカ合衆国司法省など海外当局が調査に乗り出す案件への対応も行っています。さらに、アメリカの日系企業で発生する解雇やセクハラなどの労働問題、横領などの企業犯罪、不正調査対応も幅広く担っています。

鈴木:私は主に日系企業と北米企業間のM&Aや投資案件を担当している他、ベンチャーキャピタルやスタートアップ関係の仕事も扱っています。また、一般的なコーポレート業務、例えば新役員の選任や契約のサポート、従業員の不祥事による解雇の相談、アメリカ法を睨んだプライバシーポリシーや社内規程の作成なども担当しています。

 

ー 増える法務ニーズは。

梅津:大きく3つあると思います。まず1つ目は、日本企業のアメリカ進出や投資です。トランプ政権下の政策には不確実性があるといわれていますが、政府は「日本ウェルカム」という姿勢を強く打ち出しており、中国とは全く異なる扱いです。日本株の好調もあって、進出や買収案件への意欲はむしろ高まっています。2つ目は、通商関係、特に中国関連の規制対応です。半導体やAI、レアアースなど幅広い分野で影響があり、サプライチェーンの変更に伴う契約交渉など、派生する問題も増えています。3つ目は、AIやテック関連の案件です。アメリカでの投資や規制調査に加え、逆にアメリカ企業が日本に進出する際の規制確認も多く、インバウンド・アウトバウンド両面で案件が増えています。

 

ー 日本企業の課題は。

梅津: 「意思決定の遅さ」はよく課題に挙げられます。確かにスピード感ではアメリカ企業に劣りますが、逆に、慎重に動くという姿勢が信頼につながる面もあります。例えば交渉の場で、日本企業は合意に時間はかかりますが、一度契約を決めたら完遂するという信用を得ています。それは長期的なパートナーシップにおいて非常にプラスに働きます。日本の課題と強みは表裏一体だといえると思います。

 

ー 国際規制と市場動向について。

梅津:中国関連の規制は経済制裁や関税など多岐にわたり、例えばアメリカでは「One Big Beautiful Bill Act」と呼ばれる包括法の下でも、中国への措置が強化されています。直接的には中国を対象としていますが、結果的に日本企業も「とばっちり」を受け、サプライチェーンや輸入取引に影響が出ています。実際、アメリカ市場に進出したい、あるいはアメリカ製品を輸入して販売したいという企業からの相談が増えており、その対応が現在の業務の中心になっています。

 

ー トランプ政権下のM&Aの動向は。

鈴木:日本企業の国内外のM&Aは非常に活発で、2025年上半期は過去最多となりました。日本国内だけでなく、人口減少や市場の伸び悩みを背景に海外へ成長機会を求める流れがあり、特にアメリカは有力な選択肢です。トランプ政権下では、日系企業に限らず、関税など政策の不確実性から様子見の動きもありますが、その分M&Aの入札案件において競争相手が少なく、「良い売り案件」に出会えるチャンスもありました。アメリカにおけるM&Aについて見ると、件数は昨年より減っているという統計もありますが、大型買収が増えており、日本からアメリカへの投資は引き続き増加しています。

 

ー 印象に残ったエピソードは。

加賀美:少し前、日本企業を当事者とする国際カルテル案件に携わりました。アメリカでは制裁金が日本の一桁、二桁上にのぼり、経営陣が刑事責任を問われ実刑を受けた例もあります。さらに、集団訴訟の和解金も巨額で、会社が傾くほどのリスクが現実にあります。こうした経験を通じ、アメリカでの訴訟リスクの高さと、日米の制度の違いが企業のコンプライアンス意識を大きく変えたと感じています。

鈴木:ニューヨークに拠点を置いたことで、以前は日本からアメリカの案件を担当すると時差のため連絡が遅れがちでしたが、今は現地で直接やり取りでき、日本やアジアの拠点とも連携しながら24時間体制でM&Aを進められます。森・濱田松本のチームがシームレスに案件を回せるようになったことは大きな成果であると、強く実感しています。

梅津:米中対立や制裁がアジアでの日本企業のM&Aにも及ぶ現場を体験したことです。アメリカを主要市場とするM&Aの場合、関税や中国企業の影響を前提に調査が必要となり、従来とは違う視点が求められました。また、ロシアのウクライナ侵攻が始まったときには現地で事業を展開する日本企業を支援し、経営判断に近い助言を行いました。刻々と変わる情勢のなかで法的アドバイスにとどまらず、経営判断に近い助言も行うなどの対応は非常に印象深い経験でした。

少人数体制ながら、日系の法律事務所としてアメリカに2拠点を設けたのは、森・濱田松本法律事務所が初めての例だという

 

ー AIの法的課題や規制について。

加賀美:私たちは業界をリードする姿勢で、AIと法務問題に積極的に取り組んでいます。世界的にAI規制は強化傾向にありますが、国ごとに対応は異なります。欧州などではAI規制法の厳格化が進む一方、日本は任意のルールメイキングに任せている部分が多いのではないかと思います。私たちの事務所のメンバーも日本でさまざまな政府審議会・委員会などで制度設計に関与している他、事務所自体もリーガルテックの会社と提携してサービス開発・実務をリードしています。

 

ー 日米の文化・コンプライアンス意識の違いについて。

加賀美:アメリカでは権利意識や法文化が日本と大きく異なり、製造・開発現場におけるデータや試験結果の軽微な改ざんでも刑事事件化し、事案によっては禁固刑となる例もあります。また検事の誘導に軽く同意しただけで自白と扱われるなど、日本では想像しにくいリスクが潜んでいます。さらに調査を担当する弁護士の性別自体が調査の公平性に対するクレームにつながったりと、権利意識の違いが日常的に現れます。政権交代で当局の執行方針が急変することも多く、駐在員や企業は常にアンテナを張り、定期的にコンプライアンス体制を見直すことが不可欠です。

 

ー 今後の目標と展望は。

梅津:私たちの大きな目標は「アメリカ大陸とアジアをつなぐこと」です。ニューヨークに拠点を構えてまだ2年、ようやく最初の数歩を踏み出した段階ですが、中南米を含め、幅広いカバレッジを目指しています。日本企業がアメリカに進出する際、信頼できるリーガルアドバイザーがいなければ失敗しかねませんし、逆にアメリカ企業が日本に進出する際も、現地を理解し言語対応できる存在が不可欠です。法律家は取引を助けるだけでなく、社会インフラの1つであり、「なくてはならない」基盤と考えます。私たちはそのインフラとして、日米企業が安心して挑戦できる環境を整えたい。「ゲートウェイ・トゥ・アジア、ゲートウェイ・フロム・アジア」として、在米邦人や企業の皆様に頼っていただける存在になることを目指します。そのためにも、日々精進していきます。

 

Interviewer: Hisashi Abe
Editor: Sonoko Kawahara
Photographer: Yusaku Komori
2025年9月25日取材

▼本誌掲載
ニューヨーク便利帳®️ Vol.34