【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】Kodansha USA Publishing, LLC COO 作田貴志

COO
作田貴志
(さくだ・たかし)
広島県出身。早稲田大学を卒業後、映画製作・配給会社のにっかつに入社し企画、制作に携わる。1993年に渡米し、アメリカ映画教育機関・ AFIに留学。その後も在米し版権ビジネスを手がける。2008年より角川映画グループのカドカワピクチャーズ USAで代表取締役社長を務め、11年に講談社の米国子会社であるKodansha USAの役員に就任。19年からKodansha USA PublishingのCOOを務める。

Kodansha USA Publishing, LLC
25 E. 22nd St New York, NY 10010
Tel (917) 322-6200

 

世界が夢中の“ジャパニーズ・マンガ”
老舗出版社のキープレイヤーが描く、次なる物語

コミック「進撃の巨人」のヒットや数々のIP(知的財産)展開で成果を上げる講談社が、アメリカ進出60周年を迎えた。大学や書店など文化的な香りが漂うマンハッタン中心部に新社屋を構え、定期イベントの開催などブランディングにも積極的に取り組む同社のネクストステップに迫る。

 

ー 事業概要は。

1966年にアメリカでの事業展開を始めました。当初は、「日本文化本」「日本武術本」そして、英語ネイティブの方に向けた「日本語教育本」の3つの柱で日本文化を現地で伝えることを目的に出版活動をしてきましたが、2008年に大きく舵を切ってコミックの出版に力を入れ始め、日本で刊行されたコミックを英語に翻訳し、北米を中心に全世界の読者へ届けています。現在、弊社が全世界で展開する出版物の95%がコミックのジャンルです。

 

最近の動向は。

講談社という会社をどのようにブランディングしていくかを念頭に入れた取り組みを行っています。例えば「進撃の巨人」は多くの方が知っていらっしゃると思いますが、「アメリカでこの漫画を出版している出版社はどこか」と聞いても答えが返ってこないケースが多いです。コンテンツを扱う会社のブランディングの成功例で言うと、ディズニーと聞けば、大体どういうコンテンツかピンと来ますよね。このように読者・コンテンツ・出版社のトライアングルのつながりを強化すれば、より多くの方に弊社の本を読んでいただけるでしょうし、収益増にもつながると考えています。「Kodansha」という社名を聞くだけで、ドキドキワクワクする気持ちが読者の胸に湧いてほしい。その思いから生まれたのが、ポップアップイベント「Kodansha House」です。また、2024年6月にこのビルを購入したのも、ここを発信基地としてブランディングしていきたいという目的があるからです。 

マンハッタンで開催された「Kodansha House」。「本や文化を愛する人々が集い、自由な発想を広げる場」でありたいという講談社の思いを体現したイベントだ(提供写真)

 

今、人気のある作品は。

サッカー漫画の「ブルーロック」です。かつて、アメリカではスポーツ漫画は売れにくいとされてきましたが、いざ蓋を開けてみたら大ヒット。幅広い層に届くストーリーや構成であれば、手に取ってもらえるのだなと教えてくれた作品です。今年は北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)とパートナーシップを結び、特別イベントの開催や限定グッズの販売など、IP(知的財産)展開も広げています。サッカーは世界的に人気があるスポーツですが、アメリカでは依然としてバスケや野球、アメフトの存在感が大きいですよね。「ブルーロック」とコラボすることで、サッカー文化のさらなる広がりを協会も期待していると思いますし、弊社としてもより多くのスポーツファンにこの作品を読んでもらいたいなと。来年はFIFAワールドカップもアメリカで開催されるので、さまざまな関連イベントを展開して、作品の認知度拡大を目指します。 

 

日米の漫画市場の違いとは。

一番の違いは、国土の広さです。アメリカ全土に作品を届けるには、日本よりも早い段階から準備を始める必要があります。そのため、通常は刊行日のおよそ9カ月前には作品を発表し、入念な準備を進めています。また、アメリカは「人種のるつぼ」と呼ばれるように、多様な文化や価値観を持つ人々が共存しています。一方で、日本は1つの流行が一気に広がる傾向があります。そういった背景もあり、アメリカでもある程度の流行はありますが、どちらかというと「自分の好きな作品を選ぶ」という個人の好みを尊重する文化が根付いています。そこが、両国の大きな違いだと感じています。

 

日本の制作側との協働は。

青年誌「ヤングマガジン」の編集部による「連載作品をもっとアメリカでも刊行してほしい」という意向から、「ヤングマガジンUSA」を制作し、北米の紀伊國屋書店さんの協力を得て全店舗で無料配布しています(2025年11月に配布終了)。日本の本誌で連載していた「AKIRA」「頭文字D」「攻殻機動隊」などの人気作品はこちら(講談社USAパブリッシング)でも取り扱っていますが、刊行されていない作品は何点もあります。アメリカ市場でポテンシャルのある作品について研究すべく、日本側でアイデアを出し、US側の編集部と検討したうえでこの雑誌が誕生しました。読者の反応を元に、今後の展開を考えていく予定です。 

 

2025年に実験的に創刊された「ヤングマガジンUSA」。電子版が紙の売上を上回る日本市場に対し、アメリカではまだ紙がよく売れていると話す作田氏

 

アメリカの漫画市場の変化について。

渡米してから30年が経ちますが、当初は書店で日本のコミックをほとんど見かけませんでした。ライセンスを受けて、アメリカでコミックを出すという動きが一般的ではなかったからです。転機となったのは、1998年の「ポケモン」アメリカ進出です。翌年には劇場版アニメが大ヒットし、それに伴いコミックの売上も急増。「MANGA」が日本のコンテンツとして認知され始めたのです。書店で棚が設けられたのは、2000年ごろではないでしょうか。07年には市場がピークを迎えましたが、その後は供給過多や海賊版横行の問題で売上が半減。その後、弊社を含む、日本の出版社がアメリカに進出、また電子版の登場もあって16年ごろに市場は再び活況に。コロナ禍で一時的に紙と電子の売上が逆転しましたが、わずか3カ月で紙が急回復し、これには驚きました。オンラインストアの他、注文した本を書店で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」も普及しました。もちろんコロナ禍で大変な思いをされた方が多くいらっしゃいますので、胸を張っては言えませんが、「巣ごもり需要」で新しい娯楽を探す方が増え、SNSの広がりも追い風となり、漫画がより広く知られるようになったのです。当時、「進撃の巨人」は全34巻中29巻まで刊行されており、新しいファンが第1巻からまとめ買いしてくださることもありました。この他、「フェアリーテール」や「美少女戦士セーラームーン」など、巻数の多い作品の売上も好調に伸びました。これは弊社に限らず、バックリストを多く抱える漫画出版社全般で見られた傾向です。

 

映画と出版の共通点や相違点は。

共通点は「コンテンツを扱う」ということです。映画はスクリーン、コミックや小説は紙という出口の違いはありますが、コンテンツをエンドユーザーに楽しんでもらえるようにクリエイトしていく点では同じ土俵に立っていますので、コラボレーションも十分可能です。とはいえ、ある意味ではライバルかもしれません。出版では、著者と編集者が話し合いを重ねて1冊の本をつくり上げます。映画も同じで、最初にアイデアを持ったプロデューサーが、監督、脚本家と話し合いながら1つのシナリオをつくり上げます。本の企画開発と、映画のシナリオづくりの流れは似ていると思います。しかしながら、映画はそのシナリオを元に映像を制作する作業がありますよね。スタッフや俳優を集めて、交渉を重ねながら制作体制を整えていく。そして撮影・編集、音楽の挿入など、さまざまな工程を経て、ようやく劇場で上映できる完成形になる。まさに総合芸術ですね。一方で、出版は本が完成したら一気に市場へと流れていく。だからこそ、著者の先生と編集との間の結びつきは非常に強いと思いますし、「ここでつくられたものがすべて」なので、そこの責任は極めて大きいといえます。 

 

講談社で経験した最も印象的な出来事は。

2016年に講談社がアメリカ進出50周年を迎えた際、ニューヨーク公共図書館で大きなレセプションを開いたことです(編集部注)。当時、私はまだ入社して5年目くらいでしたが、これまでアメリカで出版に関わってこられた方々や関連会社の皆様をご招待しました。このときに、「皆様のご協力があってここまでこられたんだな、講談社は本当に歴史のある会社なんだな」と深く実感しました。50周年とはいえ、コミック事業に力を入れ始めてからはまだスタート時点でしたので、この会社を今後長く続けていくための基盤づくりをしなくてはと、思いを新たにした次第です。 

 

今後の目標は。

今までは出版社として漫画市場を中心に活動を展開してきましたが、今後は出版の枠を超えて、総合的なエンターテインメント企業へと進化していきたいと考えています。その実現のためには、本社との連携が不可欠ですし、アニメ制作や音楽事業を手がけるキングレコードなどのグループ会社の力を結集することも重要だと感じています。そうすることで、ファンとコンテンツの接点(タッチポイント)が増え、さらに多様な展開が可能になると期待しています。現在は、そうした総合エンターテインメントカンパニーへと徐々に脱皮しながら、最終的にはコミックの売上にも還元できるような取り組みについて、構想を練っているところです。 

 

※編集部注…講談社のアメリカ進出は、第4代社長の故・野間省一の「ウォルト・ディズニーと組みたい」という想いから始まった。その経緯もあって、講談社はニューヨーク公共図書館に寄付を行い、館内の柱には社名が刻まれている。さらに、研究者用の閲覧室には彼の名を冠した「Shoichi Noma Reading Room」も設置されている。このように、ニュー ヨーク公共図書館は講談社にとって特別な存在となっている

 

Interviewer: Megumi Hamura
Photographer: Masaki Hori
2025年8月26日取材

▼本誌掲載
ニューヨーク便利帳®️ Vol.34