ニューヨークで輝く人にスポットライトを当てる、 ”ニューヨークで活躍する日本人” シリーズ。
今回ご紹介するのは、今年エミー賞を受賞した話題の時代劇ドラマ『SHOGUN 将軍』(主演:真田広之)にて戸田鞠子役の英語吹替を担当した、日本人俳優の三科 怜咲さん。
俳優を目指すきっかけやこれまでのキャリア、そして『SHOGUN 将軍』でのオーディションや英語吹替の仕事について三科さんに伺った。
―渡米した時期とその時の心境はいかがでしたか?
私は大学進学を機に渡米しました。厳しい入学オーディションを経て、ニュージャージー州にあるライダー大学のミュージカル科に奨学金付きで合格しました。もちろんとても緊張していましたし、不安もたくさんありました。自分に才能はあるのだろうか、授業やクラスメートについていけるだろうか、友達はできるだろうか。それまでアメリカでの生活経験がなかったので、文化の違いに対する不安もありました。でもミュージカルは自分がずっと目指してきたものだったので、この機会を最大限に活用して学ぼうと思っていました。
―どのようなきっかけで声優・俳優を志したのでしょうか?
小さい頃から母に連れられて、バレエやコンサート、演劇をたくさん観てきました。母の影響で舞台が好きになり、やがて客席から観るより舞台に立ちたいと思うようになったんです。特にダンス、歌、演技が織り交ぜられるミュージカルが大好きで、将来はミュージカル俳優を目指そうと決心しました。
―今までのキャリアを教えてください。
私の最初の大きな仕事は、15歳の時に行ったオリンピック招致のプレゼンでした。コペンハーゲンで開催された2016年オリンピック・パラリンピック招致活動で、私は東京を代表してオープニングスピーチを務めました。当時の鳩山首相や石原都知事、オリンピックメダリスト達と一緒にステージに立ちました。
その後、英語力を活かしていくつかの教育プロジェクトに携わったのですが、アメリカでの最初の舞台は大学1年の夏に出演した『ミス・サイゴン』です。小さな劇場で、ギャラも多くはありませんでしたが、プロとしての初舞台で多くのことを学びました。大学在学中は夏休みの度に米国内の様々な劇場でミュージカルに出演してきました。
大学卒業後は、NYのタレント・エージェントにスカウトされ、ミュージカルだけでなく短編映画やコマーシャルにも出演するようになりました。初めてのストレートプレイは、2019年に出演した『White Pearl』です。この作品を通じて自分の演技力に自信を持つことができ、仕事の幅を拡げられたと思います。2022年にはワシントンDCで世界初演となる『John Proctor is the Villain』という劇にIvy役で出演、この作品でヘレン・ヘイズ賞を受賞することができました。
ミュージカルも『How the Grinch Stole Christmas the Musical』のナショナルツアーに参加、昨年は声優として初めてオーディオブックにも取り組み、そこから『SHOGUN 将軍』へ繋がっていきます。
―『SHOGUN 将軍』は狭き門だったと思いますが、オーディションはどのような感じだったのでしょうか?
実はオーディションの募集はSNSで見つけたんです。英語が話せる日本人俳優を探しているとのことだったので、キャスティング担当者にすぐメールを送りました。自分の部屋のクローゼットでオーディションテープを録音して送ったところ、翌週、スタジオでのオーディションに招かれました。私にとって初めての吹き替え体験でしたが、運良く2次オーディションも受けられ、その数日後、エージェントから「鞠子役に決まったよ」と連絡がありました。
―英語吹き替えで苦労した点や工夫した点などがあれば教えてください。
『SHOGUN 将軍』は私にとって初めての吹き替えの仕事でしたが、たくさんのことを学べたと思います。セリフを翻訳するプロセスはとても複雑で、口の動きやタイミングなども重要です。スクリーンの口の動きに合わせて話すスピードを調整しなければならないんです。アンナ・サワイさんが鞠子役として素晴らしい演技をされていたので、それを英語でも可能な限り再現したいと思って頑張りました。彼女の演技にある微妙なニュアンスや言葉にできない雰囲気などを、私の声を通じて再現するのはとてもやりがいのある挑戦だったと思います。
―自分が携わった作品がエミー賞に選ばれた瞬間の心境はいかがでしたか?
『SHOGUN 将軍』が批評家からも視聴者からも高い評価を受けたことは嬉しい驚きでした。エミー賞で25部門ものノミネートをされたこともとても嬉しかったです。授賞式当日は部屋で中継を観ていたのですが、『SHOGUN 将軍』の受賞が発表されるたびに大騒ぎしました。アンナ・サワイさんが主演女優賞を受賞した時は感動のあまり泣いてしまいました。『SHOGUN 将軍』が受賞したことは、今後アメリカで活躍する日本人俳優にとっても大きな意味を持つと思います。
―実際に演じたキャストの方々との交流はあったのでしょうか?
残念ながらキャストの皆さんとの交流はありませんが、いつかアンナ・サワイさんにお会いして「鞠子様」への愛を語り合ってみたいです。
―英語はどのように勉強されたのでしょうか?
私は幸運にも多文化の中で育ちました。4歳のときに両親とシンガポールに引っ越し、インターナショナルスクールに通いました。9歳のときに日本に戻りましたが、引き続き日本のインターナショナルスクールで教育を受けました。ただ、私はイギリス英語で育ったので、アメリカの大学に入学したときは少し戸惑いましたね。
―ニューヨークでの生活はいかがですか?
ニューヨークに対しては複雑な思いがあります。ここでアーティストとして活動するのは大好きです。素晴らしい機会がたくさんありますし、ブロードウェイでトップクラスの舞台を観ることもできます。でも物価や治安の問題などもあり、ここで暮らすのは簡単なことではありません。特に私が仕事をする業界はオーディションありきなので、仕事に繋がらないと精神的にとても辛くなることがあります。幸運なことに私にはたくさんの友人やアーティスト仲間がいて、いつもサポートしてもらっています。
―今後、アメリカで声優業・俳優業を目指す方々に一言お願いします。
アメリカでは何よりも個性が評価されます。だからあなたならではの個性を大切にしてください。そして新しい経験や挑戦に対して常にオープンであること。ここにはたくさんのチャンスがあります。私が初めてアメリカに来たとき、声優になるなんて想像もしていませんでしたが、迷わず挑戦し続けた結果、今の私があるのだと思います。
《三科 怜咲さん》
横浜市出身。4歳の時に母親の転勤でシンガポールに移住。インタ
Instagram:@resacurly
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