【ニューヨークで活躍する日本人】NBAブルックリン・ネッツで2シーズン連続でチームに所属する日本人ダンサー

ニューヨークで輝く人にスポットライトを当てる、 ”ニューヨークで活躍する日本人” シリーズ。
今回ご紹介するのは、ニューヨークのNBAブルックリン・ネッツで2シーズン連続でダンサーを務める、高倉 葵さん。
激しい競争が繰り広げられるオーディションを勝ち抜き、現在は10月のシーズン開幕に向けて日々ハードな練習を行っている。

NBAダンサーになるための日本での取り組みや、オーディションの話、そしてNBAのダンサーとはどのようなものなのか、高倉さんに伺った。

―NBAダンサーになるために日本で頑張ってきたことは
私はオーディションを受けると決めたのが8ヶ月前とかなり遅めで、詳しいことは何も分からなかったのでとにかくチームの情報収集をしました。NBAはSNSでオーディションの様子や詳しい情報を載せているチームが多いので、昨シーズンのオーディションがどんな感じだったのか、何が必要でどんな準備をしなければいけないのかを調べました。すると、ネッツのオーディションは必須でできないといけない3つの技(ヘッドスプリング、V sit、kip up)があることが分かり、器械体操をしていたことはあるのですが、どれも今までやったことがなかったことでした。ダンサーの知り合いに体操教室を紹介してもらって、何回か教室に行って教えてもらいました。
あとはとにかくビザですね。周りの人に聞いたら、ほとんどのチームはビザのサポートをしてくれないと聞いていたので、ネッツの現役のメンバーにNYに留学していた時の友達が1人いたので連絡して聞いてみました。やはりネッツもビザのサポートをしておらず、 過去にオーディションに受かったもののチームが稼働し始めるまでにビザが間に合わず合格取り消しになった方がいたって話を聞いて、ビザが無いとNBAダンサーになれないと自分に言い聞かせ、オーディション前になんとかビザを取得しました。

―どのようなビザを取得されたのですか
取得しなければいけないビザはNBAダンサーに必要というよりは、アメリカで日本人がダンスを仕事として働く場合、アーティストビザと呼ばれるO-1ビザが必要です。
アメリカの移民弁護士を探すところから始め、エージェントやダンスカンパニーにお願いするスポンサー探し、経歴や実績など自分がアメリカに必要なダンサーであることを書類のみで証明しなければいけません。そのため、過去の新聞・賞状などの資料集め、あとは自分が所属していたチームや一緒に仕事をした振付師などお世話になった方々に推薦状をお願いしました。
特に大変だったのは、弁護士の先生とは時差があるので夜中にメールのやり取りをしていたのと、集めた膨大な資料の内容を全て日本語から英語に翻訳するのがとてつもなく時間がかかり、最終的に資料は290ページにまでなりました。

―オーディションまでの取り組みは
昨年、ルーキーとして参加した時はNYに来てからオーディション前にあったネッツのプレップシリーズを受けました。プレップシリーズはお金を払って受けるのですが、2日間あってオーディションでやるクロスフロアとアスレチックコンボと呼ばれる技の入った振りを事前に教えてもらえるのと、あとはオーディションでやるスタイルに似ているヒップホップとヒールの振りを教わりました。
プレップシリーズを受けると自分のことを事前にチームに知ってもらえるのと、模擬面接やバトルロワイヤルの練習などのオーディションの一連の流れを体験することができ、知り合いもできて落ち着いてオーディションに参加することができました。プレップシリーズを受けた人から数人選ばれて、1次審査のクロスフロアをパスするチケットをもらうチャンスもあります。私は幸運なことにその1枚をもらうことができたので、2次審査からの参加でした。
今年は2年目でベテランとしての参加なので、特にスペシャルな準備はしていませんが、バレエやvogueのクラスを受けてオーディションで基礎やフリースタイルでできることが増やせるようにトレーニングしました。

―オーディション当日の流れを教えてください。
オーディションは全部進むと4日間あります。
<Day 1>クロスフロアの振り入れと審査、ヒールの振り入れと審査(途中と最後の2回のカット)

<Day 2>ヒップホップの振り入れとグループ審査 (途中と最後の2回のカット)、ベテランは2日目から参加できます!2日目の最終審査を通過するとそのまま最後日まで進むファイナリストになります。

<Day 3>ルーキーは1人ずつの面接、アスレチックコンボ振り入れ、2日目に行ったヒップホップ の振りのクリーン(クリーンはみんなで揃えるポイントを習います)、複数のグループに分かれてフォーメーション(クリーンとフォーメーションは実際のリハーサルと同じ様にするので、チームのやり方に対応できるのか見られます)

<Day 4>ベテランの面接、1日目に習ったクロスフロア(直接的なカットは無いですが改めて審査対象として見られます)、3日目に習ったアスレチックコンボのグループ審査、2日目に習ったヒップホップのバトルロワイヤル(バトルロワイヤルは自分に似てる人と2人ずつ踊る直接対決)、審査タイムの後、そのまま合格発表となります。

―合格後の1日のスケジュールは?
4日目の合格発表後、すぐに新しいチームの発表のための撮影があります。オーディション中は常にネッツ専属のカメラマンがいて本格的な撮影をしているので、まずは合格後に泣いた跡がついた顔をみんなで直します(笑)
撮影が終わった時点でだいたい夜の10時くらいになっているので、決まっているスケジュールを伝えられた後、解散しました。

―リハーサルや本番当日の流れは?
基本リハーサルは3~4時間が週に2回、あとはハーフタイムやスペシャルルーティンなどがある場合はどんどんリハーサルが追加されていきます。
リハーサルで行うことは、主に新しいルーティンの振り入れやクリーン・フォーメーションです。私達のチームは今シーズン 21人で、1試合に出る人数は基本12人で毎回試合に出るメンバーが同じではありません。試合前のリハーサルでその試合用のフォーメーションを毎回セットします。なので基本、全員が全てのパートを踊れるようにしています。試合当日はコートでの照明、カメラチームを含むエンターテインメントチーム全体(男性のチームであるteam hype、キッズチームであるBrooklyn Nets Kidsも一緒に)のリハーサルが1時間~1時間半くらい。ハーフタイムがあるとアーティストとの確認があるので2時間くらいやることが多いです。その後はケータリングのご飯を食べたり、ヘアとメイクをしたり、ストレッチしたり準備時間が2~3時間あります。その後はトレーナーのウォームアップ、エンターテインメントチームミーティングを経て試合が始まります。

―日本とアメリカのダンスの違いは?
私が日本のBリーグとアメリカのNBAの両方経験してみて感じた1番の大きな違いは、踊るダンスのジャンルやスタイルの数です。もちろん日本とアメリカ全てのチームに当てはまるわけではないで すが、多くのチームがそう見えると感じます。NBAでは多くのチームが、チア・ヒップホップ・ ストリートジャズ・ヒール・vogue・ラテンなど様々なジャンルを踊ります。(私のチームはダンスチームなので、ポンポンなどのチアの要素が一切無いです。)
日本のBリーグはチアがメインでヒップホップかストリートジャズを少し踊るというチームが多いです。なのでアメリカではチアだけ、ダンスだけではなく様々なジャンルをトレーニングしている人が多く、日本はチアに比重を置くチームが多いので学生の頃からチアをメインでトレーニングしてきた人が多いのかなと感じます。もちろんジャンルやスタイルが多い方がいいと言うわけではなく、そもそもチームから必要とされていることが違うのでオーディションを受ける層が違うという印象です。
個人的にはアメリカからもBリーグの試合を見ているので、日本でも様々なスタイルが見られるようになるとエンターテインメントの幅が広がって楽しいなと思います。

 

《高倉 葵さん》
6歳からチアリーディングを始め、2003年にJapanCupキッズ部門で全国優勝。10歳から体操とダンスを始め、体操は小中学で部門入賞・県大会に出場。ダンスコンテストではチームで国内外問わず多数の入賞・優勝を経験。高校卒業後、ニューヨークに1年半の単身ダンス留学。帰国後、インストラクターや様々なダンスの仕事を務める。2021-22シーズンからバスケットボールB.Leagueで2年『群馬クレインサンダーズ』と『アルバルク東京』でダンサーとチアリーダーを経験。2023-24シーズンNBA 『Brooklyn Nets』のダンスチームBrooklynettesに合格。2024年10月からはNBAダンサーとして2年目のシーズンが開幕する。

Instagram:@aoi_takakura