「こんなに古くて歴史的な高層ビルがたくさん残っているとは思わなかった」。
これは、日本からニューヨークに観光で訪れた方からよく聞かれる言葉です。どうやら日本に住む人にとって、ニューヨークといえば、東京のようにキラキラ輝く近代的な高層ビルばかりが乱立しているイメージがあるようです。
しかしニューヨークに降り立ち、マンハッタンを少しでも歩けば、エンパイアステートビルやグランドセントラル駅に代表されるように、瀟洒なデザインの建築物がこの街にたくさん残されていることに気づくでしょう。
東京にはないニューヨークの良さはおそらく、これら歴史的な建築物と近代的な建築物が混在していることにあるのではないでしょうか。
今回は、ニューヨークを象徴する新旧建築物の中から、私がよく「これ何のビルですか?」と観光客に聞かれることが多いもの3選をご紹介します。
ザ・デービッド N・ディンキンズ・ミュニシパル・ビル
The David N. Dinkins Municipal Building(別名The Manhattan Municipal Building)
ブルックリン橋をマンハッタンからブルックリン方面に歩いて渡る際、入り口左手に立つこの荘厳な建築物は、The David N. Dinkins Municipal Building(ザ・デービッド N・ディンキンズ・ミュニシパル・ビル)です。
6年かかって1914年に竣工し、完成当時、世界有数の規模を誇る庁舎として話題になりました。市内で一番最初に地下鉄の駅と連結した画期的なビルとしても知られています。1914年といえば日本はちょうど大正3年。大正初期の時代にすでにこのような高層建築技術がアメリカにはあったのだと驚くばかりです。
庁舎内は、市政監督官、パブリック・アドヴォケート(公的擁護)、マンハッタン区長室の3つのオフィスと、建物を管理する市営行政サービス局の本部があり、約1,000人が毎日ここで働いているとされています。市の財務省や税務署、公務委員会、歴史的建造物の保存委員会、ペイロール(給与)管理局、環境保護局、市長の関連チーム、IT&通信局もここにオフィスがあります。
ビル名は、この街の経済回復に貢献したDavid Dinkins(デイビッド ・ディンキンズ)元マンハッタン区長に敬意を払い、2015年に改名されました。
建築資材は石灰岩で、ローマ建築、ルネサンス建築、クラシカル建築に影響を受けた建築様式が特徴です。 1階のオープン広場には、古代ローマ時代のコンスタンティヌスの凱旋門に影響を受けたアーチや柱があり、3階部分までの高さは、下から見ると圧巻の一言。また、建物の一番上に乗っかっているのは、Civil Fame(市民の名声)という名の金色の女性像です。市内5区が集まってできたニューヨーク市を祝っているもので、像の左手は五岳の冠です。下から見上げるととても小さく見えるのですが、実際の像は7m弱の大きさとか!
建物は、結婚の儀式を執り行うシティクラークス・オフィスとしても長年使われてきました。2009年にシティクラークス・オフィスが現在の場所に移転するまで、約30万人のニューヨーカーがここで結婚式をあげたそうです。
ザ・ウィリアム・ヴェイル The William Vale
低層の建物が多く、マンハッタンに比べて空が広いブルックリン。その中でも特に人気のエリア、ウィリアムズバーグ北部を歩いていると、近年視界に入ってくるのは、1つだけ飛び出ている高層近代建築。The William Vale(ザ・ウィリアム・ヴェイル )という、デザイナーズホテルです。
2016年開業の22階建てビルで、全183室にベランダがついているのが特徴です。
この建築を手がけたブルックリンの建築会社Albo Liberis社のニック・リベリス氏によると、(近年のブルックリン建築のトレンドである)インダストリアル・デザインのマネゴトだけは避けたいというクライアントの意向を汲み取ってデザインし、完成させたものだとか。
また、ホテルを下から支えるコンクリート製のトラス構造は、周囲の橋、工場設備や跡地、タンクなどとうまく同化するようにデザイン、設計されたものだそうです。
ウィリアム・ヴェイル が決して無機質な印象を与えていないのは、ここに遊びに行けばすぐにわかります。敷地内には、芝生のある屋外広場Vale Parkがあり、気候の良い季節はMister Dipsというレトロなフードトラックでランチを買ったり、休憩で芝生の上に寝っころがっている人々なども!
このホテルのルーフトップバー、Westlightにはぜひ行きましょう。ゴージャスなマンハッタンの景色を見ながら飲むマティーニは、格別です。
オキュラス Oculus
最後はこちら。グランドゼロを観光する人に、必ず「あれ何ですか?」と聞かれるのが、このOculus(オキュラス)です。2016年にグランドオープンした、大きく広がった鳥の翼や何かの骨を連想させるような、クリエイティブな近代建築物は必見です。
マンハッタンとニュージャージー州を繋ぐPATHトレインと、地下鉄ワールド・トレード・センター駅、ショッピングモール、室内プラザから成るオキュラス。広さは、80万ft² (約7万4300m² )で、ターミナル駅としては市内で3番目に大きな規模なんです。
建築家は、スペイン出身のサンティアゴ・カラトラバ(Santiago Calatrava)氏。アテネオリンピックのスタジアムを手がけたことでも有名で、ほかにも青空に映える白色と、骨や翼を組み合わせたようなフレームがトレードマークの建築物をたくさん創ってきました。米国内ではほかにも、テキサス州ダラスのマーガレット・ハント・ヒル橋やウィスコンシン州のミルウォーキー美術館新館なども、カラトラバ氏が手がけています。
オキュラスの見所はユニークな外観同様に、内側も見逃せません。建物の内側両脇に、エスカレーターを併設した階段があります。構造計算を駆使して、下からの支柱がないまま、内側に飛び出したかような状態で設置されているんです。建築業界の関係者でさえも、「どのように支えられているのか?」と首をひねるほど高度な技術で作られたものです。近代建築が好きな人は、必ず見てほしい建築物の1つです。
以上、「これ何?」とよく聞かれることが多い建築物3選をご紹介しました。
ニューヨークに住んでいてもそのビルが建てられた歴史や背景というのは、意外と知る機会がないもの。日本から家族や友人が遊びに来たときに聞かれたら、この記事を再度参考にしていただけたらうれしいです!
参考資料
NYC Citywide Administrative Services
安部かすみさんの新書が出ました!
『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ(旅のヒントBOOK)』
2018.03 On Sale
ブルックリンの本をイカロス出版から出しました。
この本はブルックリン子のおばあちゃんと私の会話ではじまります。
“私のお気に入りスポット”のみならず、ブルックリンがなぜ魅力的な街として生まれ変わったのか、歴史や背景、ブルックリン愛あふれる人々などをカバーした私的ガイド本(全176ページ)。
NYの紀伊國屋書店、日本全国の書店、Amazonなどでお手にとっていただけます。
ご意見箱フォーム