【Japan Pride 注目企業エグゼクティブインタビュー】郵船ロジスティクス・アメリカ

Senior Vice President, Business Development
野口享祐(のぐち・きょうすけ)
大学卒業後、半導体関連の製造会社に入社。海外への夢を膨らませ、90年代にベトナムへ留学。現地で郵船ロジスティクスに採用され、この業界に入ったのは「偶然のようなものです(笑)」。ベトナムで13年勤務、アメリカは14年目。

Senior Vice President and General Manager, International Freight Forwarding Group, Americas Region
Steve Sheets(スティーブ・シーツ)
アトランタ出身。1992年に大手物流会社に就職し、主に航空貨物の分野を担当。2024年10月に郵船ロジスティクス入社。自身のキャリアで2社目となる同社への参加を「素晴らしい変化」とし、グローバル戦略に貢献。

Vice President, Strategic Sales Engagement
花田靖享(はなだ・やすゆき)
1996年、郵船航空サービスに入社。フランス研修や香港駐在を経験し、営業畑を歩む。コロナ禍真っ只中の2021年にアメリカ駐在を開始。長年のキャリアを振り返り、「飽きることのない物流業界」と再確認。
※サムネイル写真左から​

Yusen Logistics (Americas) Inc.
300 Lighting Way, 5th Fl, Secaucus, NJ 07094
Tel (201) 553-3800
solutions-atl@us.yusen-logistics.com

 

世界をつないで70年。
グローバル企業への歩みと改革

モノを滞りなく運ぶことで世界をつなげ、私たちの生活を支える物流業。これまで日常で物流業が注目されることはほとんどなかったが、特にコロナ禍でその重要性が知れ渡った。1968年にアメリカへ進出し、2025年で創業70周年を迎えた郵船ロジスティクス。グローバル物流企業の代表格として顧客のサプライチェーンを支える同社のエグゼクティブ3名に、話を聞いた。

 

ー事業概要は。

野口:弊社は東京に本社を置く日本郵船(NYK)グループの完全子会社であり、主に倉庫管理、国内輸送、サプライチェーンソリューションおよび、航空貨物、海上貨物、通関業務を含む国際貨物輸送を行っています。地理的なニーズや地域のニーズに基づいたサービスを提供していますが、事業の根幹は、お客様のサプライチェーンを最適化し、リスクを軽減するための提案をすることです。「お客様第一」を掲げ、できる限りお客様のニーズに合わせてサービスをカスタマイズするよう努めています。お客様の業界はさまざまで、航空宇宙、自動車、製薬、医療、食品、小売、Eコマース、テクノロジーなどが含まれます。

 

ー各国拠点で共有する目標は。

シーツ:世界中で一貫した高品質かつ革新的なサービスを提供することです。また、世界で認められ選ばれ続ける企業になることで、ビジネスと社会の持続的な発展に貢献することです。2025年4月、新たにYLGM(郵船ロジスティクス・グローバル・マネジメント)を設立しました。日本地域事業と併存していたGHQ機能を独立させることで、柔軟な意思決定と市場ニーズへの迅速な対応を可能にします。また、英語を社内の公用語として採用し、今後すべての財務結果は米ドルで報告されることとなり、真のグローバル組織へと変革を進めています。

 

ー2025年で創業70周年。

花田:郵船ロジスティクスは1955年に設立され、今年2月に創業70周年を迎えました。当初は国際旅行公社から始まり、59年に郵船航空サービスという前身の会社が誕生。これが航空フォワーダーとしての始まりです。そして、NYKロジスティクスが事業を開始したのが83年。この両者が2010年に統合し、現在の郵船ロジスティクスという形になりました。アメリカ法人の立ち上げは1968年と、こちらも長い歴史があり、40拠点に約2,100名の従業員数を抱え、お客様のサポートができる体制を構築しながらグローバルに市場を拡大しています。グローバルに展開し、70周年という節目に本社の統括機能を一新したこともあり、世界中でさらにビジネスを発展させていきたいです。

現在46カ国に650拠点のグローバルネットワークを持つ(提供資料)

ー業界の課題や動向は。

シーツ:現在進行形の最大の問題の1つは、サプライチェーンの混乱です。トランプ政権下では毎日のように関税ルールが変わり、これは貿易や物流業界にとって大きな問題です。私たちは状況を監視するための専門家チームを設け、随時お客様に報告していますが、なかなか今後の予測がつかないのが現状です。また、2023年から続く紅海危機により船はルート変更を余儀なくされ、喜望峰を通過しなければなりません。これによりアジアからヨーロッパへ向かう貨物の移動時間が約2~3週間延びています。さらに、ここ数年成長が著しかった航空貨物市場は最近、減速傾向にあります。なかでも目立っていたEコマースですが、これが海上貨物にシフトし始めています。アメリカにはデミニマス規定があり、貨物が800ドル以下であれば関税なしで輸入できるため通関はほぼ自動的に行われますが、それが今後も続くかどうかは疑問です。実際にトランプ政権は2月、同規定を数日間にわたり停止しました。その結果、国内で約400万個の荷物が通関できずに滞留し始め、これも非常に大きな問題です。このように物流業界にとって厳しい状況が続きますが、弊社は柔軟な対応を心がけ、お客様へのソリューション提供に注力しています。

 

ー物流業界の技術改革については。

野口:私たちはAIなどのソリューションを積極的に採用しており、例えば倉庫内にはロボットなどの自動化ツールを導入し、これにより確実に生産性が向上しています。輸送においては、国内・海外問わず実に多様な出発地と目的地の組み合わせがあるため、ルートを最適化するのにAIは必須です。例えばお客様が私たちに運賃を問い合わせる際に、500以上の出発地と目的地の組み合わせが記載された表を送ってくることもあります。膨大な量を検索するのは非常に困難で、さらに航空貨物の運賃は大変複雑です。そこで私たちはRFP(Requests for Proposals)システムを活用し、これによって効率化を図ります。また、AIに過去の料金を学ばせたり、お客様独自の表を私たちの形式に落とし込むために、AIに自動化作業を任せたりします。この作業を単に人手を増やして行うことはほぼ不可能なので、AIは不可欠です。

同じ業界でも異なる経験を積んできた3人。各方面で培った知見を生かして会社を牽引する

 

ー最も印象的な出来事は。

花田:やはりコロナのパンデミックでしょうか。以前はこの業界にも日本的な「とにかくお客様のニーズを最優先に」といった考え方がありましたが、コロナを境にお客様のサプライチェーンに対する考え方が大きく変わったと感じています。予定通りにお届けできない状況が続くなかで、私たちはよりお客様に寄り添ったサービスを意識するようになり、お客様は自分たちのサプライチェーンを支えてくれるパートナーシップを求めてくださるようになりました。過去最大のチャレンジを要しましたが、このときに逆にお客様の信頼を勝ち得た部分もありますし、本当に大きな経験になったと思います。

シーツ:日本の本社を訪れたことです。本社を訪れるというのは大きな意味のあることですし、日本の従業員たちに会い、会社の文化に触れたことで、素晴らしい会社だと実感しました。アメリカ各地の拠点にも行き、たくさんの従業員たちと交流しました。郵船グループの従業員たちは、本当に優秀な人々だと思いますし、この会社の一員になれたことを大変誇りに思います。

野口:最近印象的だと思うのは、サプライチェーンや輸送、物流業界が急速に進化し、その役割がより人々に認識され、評価されていることです。コロナのパンデミック以降は特にそう実感しています。この業界がより多くの人々、特に若者層から注目を集めていることは大変喜ばしいことです。例えば、私自身はサプライチェーンソリューションと輸送の修士号を持っていますが、10年前は大学にサプライチェーンや輸送を学ぶ学部などありませんでした。しかし今日では、多くの大学がこれらのプログラムを実施しています。業界は確実に変化しており、この業界で昼夜を問わず努力している人々にとっても良いことだと思います。

 

ー「運ぶこと」とは。

シーツ:「運ぶこと」は「この世界の『ライフライン』」であると思います。辞書で「輸送」の定義を調べると、「物をある地点から別の地点に移動させること」と記されていますが、それは一部の側面に過ぎません。コロナ禍で私たちは、命を救うための薬や医薬品を世界中に運び、今日でもそれを続けています。テクノロジーの未来を築くために、半導体工場に部品や工具、機器も運んでいます。航空機用の重要な部品を運び、製造組立ラインの役割も果たしています。世界中に食料を運び、海外からアメリカへ製品を運んでいます。私にとって「運ぶこと」は単に物を運ぶだけでなく、私たちの生活をより豊かにする役割を担っていると思います。モノを運ぶ背景にはたくさんの物語があり、物流は人やモノ、経済を世界中で結び付けるためのとても大切な存在です。

野口:「運ぶこと」は私たちの社会において、とても重要な役割を担っています。特にアメリカにおいて、グローバル化は最も話題性のあるトピックの1つですが、グローバル化の要因には間違いなく輸送、物流、サプライチェーンの存在があります。昔は海外に工場や生産拠点を持つことは不可能と考えられていましたが、物流の進化がそれを実現させ、さらに物流業界の発展がグローバルビジネスの発展につながっているのです。物流業界のビジネスは、今世界で起こっていることの裏側にあります。これを理解することで、社会がどこに向かっているのか、次に何が起こるのか、そしてどうやって継続的に社会に貢献していくのか、などが見えてくるでしょう。もちろん私たち物流業者にとっては利益のためのビジネスではありますが、同時に「この世界で私たちが見たり使ったりしているあらゆるもの」を表していると思います。

 

ー物流業界の未来は。

花田:私たちの業界は間違いなく、今後さらに注目されていくと思います。つくる側と消費する側のどちらにとってもモノは必ず必要ですし、あらゆる経済活動はつながっているので、物流がなくなることはありません。同時に、実はものすごく改善の余地があると思っています。AIの活用もそうですが、お客様のニーズに対していかに付加価値を付けることができるかが重要です。お客様のニーズをしっかりと追いかけ、きちんとお届けするための信頼関係を築くことが私たちの使命だと思っています。

 

Interviewer: Miho Kanai
Photographer: Masaki Hori
2025年4月2日取材

▼本誌掲載(まもなく発売)
アトランタ・ノースカロライナ・サウスカロライナ・テネシー・アラバマ・テキサス便利帳 Vol.21