President & Director General
佐野祐一(さの・ゆういち)
1984年に日野自動車へ入社。試作部門を経て海外部門、製造に異動し、98~2023年の間にパキスタン、アメリカ、タイ、コロンビア、南アフリカの5カ国に駐在。各赴任先で製造現場における技術指導や現場マネジメントに携わる。25年2月から現職としてメキシコに赴任。海外駐在歴は通算16年。メキシコに来て、テキーラの魅力を再発見。
Hino Motors Manufacturing México, S.A. de C.V.
Circuito Mexiamora, Sur #302, Parque Industrial Santa Fe 36275, Silao, Gto
Tel (472) 103-5728
商品とサービスを合わせた
「総合品質」こそが最大の武器
日本を代表する商用トラックメーカーとして世界90カ国以上へ輸出展開する日野自動車。メキシコに組み立て工場を構えて16年目、順調に業績を伸ばしていたが、2022年のエンジン認証不正問題の影響により今年は商品欠落が生じている。しかし、逆風のなかで見えてきた強みと、再起に向けた確かな手応えがある。さらに三菱ふそうとの統合という大きな転機を迎え、新たな挑戦が始まろうとしている。
ー 事業内容とメキシコ進出の経緯は。
当社メキシコ工場では中型商用トラックの製造を手がけております。メキシコは部品の現地調達に関する規制がないため、日本からタイヤとバッテリーを除く半完成状態の部品を輸入し、現地で最終組み立てを行う「セミノックダウン方式(SKD)」を採用しています。生産した車両はすべてメキシコ国内市場向けです。
メキシコ進出のきっかけは、2005年に発効された日墨経済連携協定(EPA)でした。まず07年に販売会社を設立し、小型トラックの販売から事業を開始。08年に生産会社を設立して09年に現地生産を開始し、昨年、工場開設15周年を迎えています。なお、メキシコでは車両総重量7.25トン以下の小型トラックには輸入関税が課されないため、小型車は日本から完成車輸入、現地工場では中型車のみ生産しています。
ー 現地で組み立てているモデルは。
現在メキシコ工場では、ユーロ6(Euro VI)排出ガス規制に適合した「FC2A」という車両総重量約10トンクラスの1車種のみを生産しています。用途は短距離輸送がメインで、食品・飲料業者の商品輸送などに多く使われています。実は昨年までは5モデルを展開していましたが、2022年に発覚したエンジン認証不正問題の影響で、現在メキシコ市場で展開可能なモデルはこの1車種のみに限定されています。

ブランドの信頼回復と市場での巻き返しを目指して、お客様と対話を重ねる日野販売会社の仲間と(提供写真)
ー メキシコ市場における立ち位置は。
2022年まで順調に販売を伸ばし、市場シェアは11%に達していました。しかし、コロナ禍による部品供給の混乱などで一時的にシェアが低下。これを機に、無理な拡大よりもアフターサービスやメンテナンス体制の強化を重視する方針へと舵を切り、その結果、23年にはシェアを9.5%まで回復しました。しかしながら、エンジン認証不正問題により現地で生産できるモデルが1車種に限られてしまい、今年は商品欠品が発生しています。ただ、26年には商品ラインナップの拡充が見込まれており、仲間がブランドの信頼回復と市場での巻き返しを目指しています。こうした困難な局面だからこそ、お客様との対話を大切にし、改善につなげることが重要だと感じています。この状況をチャンスと捉え、残るモデルの生産準備を着実に進め、より良い製品を届けていきたいと考えています。
ー エンジン認証不正問題発覚後の見直しについては。
お客様をはじめとしてステークホルダーの皆様に多大なをお掛けしてしまい、多くの関係者から厳しい批判の声をいただきました。今一度、お客様・社会のお役に立つという原点に立ち返るため、チーム日野一丸となって意識改革に取り組んでいます。その一環として、「誠実」「貢献」「共感」の3つの基本方針が定められました。「誠実」は、不正に対する考えが甘かったことに対して誠実になるということです。生産量や市場シェアを重視するあまり、納期優先で下から上に意見を上げにくい体質となり、これを改善すべくコンプライアンスを徹底し、誠実に行動することを第一としています。「貢献」は、安全と環境に配慮しながら、お客様の事業を支える品質のプロフェッショナルになるということ。そして「共感」は、社員同士が共感し、尊重し合いながら、安心・安全な職場を築くということです。加えて、「人、そして物の移動を支え、豊かで住みやすい世界と未来に貢献する」という会社使命を念頭に、「Hino Way」という小冊子が作成され、全従業員に配布されました。これに沿って日々の行動を改善するよう努めています。
また、不正問題から改めて見えてきた弊社の強みがあります。それが「総合品質」です。問題発覚後、役員が世界各地のディーラーやお客様の元を訪れ、直接謝罪を行いました。当初は罵声を浴びる覚悟で行ったそうですが、実際には多くの励ましのお言葉をいただき、日野車の品質、耐久性、信頼性を買ってくださるお客様が多いことを改めて知ることができたそうです。お客様から「日野の車は止まらない」「止まってもすぐ直る」という声を直接、さらに頻繁にいただいたと聞いております。つまり前者は製品そのものの品質である「商品品質」を代表する言葉、後者は販売後のアフターサービスの品質である「TS(トータルサポート)品質」を代表する言葉だと、身をもって実感したそうです。お客様からの評価を通じて、これらを組み合わせた「総合品質」こそが弊社の最大の武器であると再認識しています。
ー 三菱ふそうとの統合については。
三菱ふそうと日野自動車は、2025年6月に経営統合で最終合意しました。今後は両社のブランド名は維持しつつ、新たに設立される持株会社の下で運営されます。この持株会社には、ダイムラー・トラックとトヨタ自動車がそれぞれ25%ずつ出資する予定で開発、調達、生産といった分野で連携していく計画です。商用トラックは、物流を通じて人々の生活を支える社会インフラの一部であり、今後も安定した供給が求められます。一方で、水素や電動といった次世代モビリティーの開発には膨大なコストがかかるため、両社が協業して技術開発の効率化を図ることも求められます。生産モデルに関してはまだはっきり決まっていませんが、大型・中型・小型とそれぞれの得意分野を生かして、統合ならではの新たな車両ラインナップを構築していくのではと見ています。
ー 社員らと共有している価値観は。
まずは、「メイド・イン・メキシコ」でも日本の品質となんら変わりないということです。工場立上げの段階から「安全・品質」を最重要視しており、立上げ後も改善を積み重ね、品質の維持・向上に取り組んでいます。さらに、「Safety first, Quality always, Kaizen forever」という3つのスローガンを掲げて、品質の良い製品をつくり続けるという価値観を全員で共有しています。
ー メキシコで印象的だったことは。
2009年の工場立上げ時、私自身も現地で建物検査に立ち会いました。そのとき採用されていたスタッフのうち、2人が今でも工場に残り、それぞれ工場長と副工場長として活躍してくれています。転職が一般的な海外において、創業当時から継続して働いてくれていることに驚きつつ、とてもうれしく感じました。文化の違いを感じたのはメキシコシティーで開催された物流展示会で、商談コーナーにワインやテキーラ、ウイスキーといったアルコール飲料が並び、皆さんそれを楽しみながら商談をしていたのには驚かされました。日本では考えられない光景ですね(笑)。
ー 現場で大切にしていることは。
これまでの生産現場で大切にしてきたことは、現場スタッフと密にコミュニケーションを図ることです。毎日現場で1人ひとりに声をかけ、私の名前を覚えてもらい、もちろん私も全員の名前を覚えます。そうするとだんだんと打ち解けてきて、向こうからニックネームを教えてくれるようになります。それから安全と品質およびエルゴノミクスの目線でスタッフの動作観察をします。これも信頼関係が深まってくると、困りごとを向こうから打ち明けてくれるようになります。例えば、長時間の立ち仕事で腰痛を訴える社員がいた際には、すぐにクッション性のあるマットを導入し、「楽になった」と喜ばれました。毎日声をかけ、こちらから寄り添い本音で会話することで、より良い職場環境づくりを目指すことができます。製造業は、現場のスタッフが安全な環境で高品質な製品をつくり続けることが会社経営の根幹にあるため、働きやすい現場環境を整えることこそが私の使命だと思っています。

2025年3月、ラインオフした「FC2A」初号車をバックに。
日々結束を強めているチームメキシコ日野(提供写真)
ー これまでのキャリアは。
1984年に日野自動車に入社し、最初の5年間は試作部門に所属していました。その後、海外事業本部に移り98年、初の海外赴任でパキスタンに出向。その後は生産支援、製造に携わりアメリカ、タイ、コロンビア、南アフリカと続き、メキシコが6カ国目になります。海外駐在では実にさまざまなことを経験しました。例えばパキスタンでは隣国インドとともに核実験を巡る緊張やアジア通貨危機による危機的な会社経営、アメリカではリーマンショックで生産が完全に停止。コロンビアでは新型コロナのパンデミックが起き、南アフリカでは新型コロナ・オミクロン株の発生や洪水で工場全体が浸水するなど、幾度も困難に直面しました。メキシコは治安面の不安はありますが、これまでの駐在経験から危機管理は人一倍できていると思ってます。
ー 今後の展望は。
三菱ふそうと続合することで、持続可能で豊かなモビリティー社会の実現に向けて、自動車産業全体の発展に貢献していきたいと考えています。また、3つの基本方針と「Hino Way」を軸に会社の信頼回復に努めながら、「人、そして物の移動を支え、豊かで住みやすい世界と未来に貢献する」という使命を着実に果たしていきたいと思います。
Interviewer: Miho Kanai
Photographer: Alejandro Arredondo Castro
2025年6月24日取材
▼本誌掲載
メキシコ便利帳 Vol.10


