【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】トヨタ紡織アメリカ 社長 望月 郁夫

「ずっと乗っていたい居心地の良さ」 を追求していきます。

自動車のシートをはじめとする内装部品や内装システム、フィルター、およびパワートレイン機器の開発・生産を行うトヨタ紡織。
ケンタッキー州に本社を置くトヨタ紡織アメリカは2005年に設立され、現在米州に18拠点を展開。同製品において世界トップレベルのサプライヤーとしての地位を確立している。
アメリカで17年にわたる経験を持つ同社社長、望月郁夫氏に話を伺った。

車室空間のコンセプト作りから、開発、生産までを一貫して行っています。

トヨタ紡織の歴史とアメリカでの沿革を教えてください。

トヨタ紡織の前身は、1918年に創業した漢字で表記をする豊田紡織です。名前の通り紡織業からスタートし、そこで培った技術を生かして徐々に自動車内装部品事業にも進出しました。
1990年代からは内装システムサプライヤーを目指し、2000年に豊田加工と合併。2004年に内装事業を手がけるアラコ、タカニチとの3社合併があり、そこでカタカナのトヨタ紡織が誕生し、今日に至ります。
2018年で私たちのルーツである豊田紡織の創業から100年、記念すべき節目のときを迎えています。現在世界においてもトップレベルの内装システムサプライヤーとしての地位を確立できていると思います。  

1988年にケンタッキー州のハロッズバーグで工場を設立したのを皮切りに、現在米州においてはアメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンに18の生産拠点があります。トヨタ紡織アメリカが設立されたのは2005年。
約1万1,000人の従業員がおり、ほとんどが現地採用です。インディアナとケンタッキー州においては、2006年に設立されたヘッドオフィスと、4つの工場があり、トータルで1,900人が働いています。
また、アメリカで働く日本人は(現地採用・出向者を含め)約200人です。

ケンタッキー州アーランガーにある本社ビル

主な事業内容を教えてください。また、日本とアメリカで事業内容の違いはありますか。

日本とアメリカでの事業内容は同じです。自動車のシートをメインに、自動車の内装部品、自動車用フィルター、およびパワートレイン機器の開発・生産をしています。
我々のスローガンは「世界中のお客様に最高のモビリティーライフを提案する」。車室空間全体のコンセプト作りから、開発、生産までを一貫して行っています。
「QUALITY OF TIME AND SPACE」というコンセプトのもと、車内でお客様が快適に過ごせるようにという思いで開発、生産を続けています。

トヨタ社以外の自動車メーカーの製品も手がけていますか。

トヨタ自動車に納入する製品の製造が主ですが、ダイムラーやBMWなどの内装部品も製造しており、自動車用フィルター、およびパワートレイン機器においてはクライスラー、ホンダ、スバル向けなどにエアクリーナ、エアコン用フィルター、インテークマニホールドも手掛けています。

今最も力を入れている分野の事業はありますか。

我々の主力製品はシートです。「ずっと乗っていたい居心地の良さ」、「世界トップレベルの安全性」の実現に貢献できるよう、シート作りを進めています。
現在、間もなく小型新型車に搭載されるシートの最終生産準備を行っています。シートは安全性を確実に確保したうえで乗り心地に徹底的にこだわりながら開発を進めています。
また、さまざまな車種に対応できるよう標準化も徹底しています。

ケンタッキー州はビジネスの拠点として、いかがですか。

ケンタッキー州は、アメリカにおける我々の製造拠点のちょうど中央にあり、さまざまな場所に高速道路を使って行くことができるという地の利があります。我々はケンタッキーのほか、テネシー、ミシシッピ、インディアナ、イリノイに製造拠点、ミシガンに開発拠点があるので、非常に行き来がしやすいです。
また、空港も事務所から10分ほどの距離にあり便利ですね。空港のサイズも、例えばアトランタやデトロイトなどの大規模な空港だと空港内の移動だけでも時間がかかりますが、シンシナティ(ノーザンケンタッキー)空港は小規模なので、すぐに飛行機の搭乗口に辿り着けます。移動時間が短縮できるのでかえって便利だと思っています。

望月社長は、いつからアメリカに赴任されていますか。

私は以前デンソーに勤めており、自動車のフィルターなどの生産技術を担当していました。デンソー時代の1990年にテネシーに赴任し、6年間勤務。そして1999年に再びテネシーに赴任して7年間、今度は生産技術だけでなく生産、品質も含めて担当しました。
その後2006年にトヨタ紡織に入社し、2014年からケンタッキーに赴任、現在5年目になります。
ですからトータルで17年間程アメリカに滞在していることになります。

アメリカでビジネスを成功させるうえで大切だと思うことを教えてください。

アメリカは人種のるつぼと言われるほど多民族国家ですので、やはり多様な文化的背景や考え方を持った従業員が集まります。日本と違って、今までずっと同じ会社に居て同じ知識を共有してきたというメンバーではありません。
ですから、何かを実行するときに目的をきちんと伝えて、なぜそれをやるのかを共有しながら仕事をするというのが非常に大切だと思います。
ただ、現地の方も各々の常識や考えを持っているので、それも受け入れて、皆が理解しやすい方法や手順で働いてもらえるようにすることが重要だと思います。私たちが常識だと思っていることがこちらでは常識ではないことも多いため、「こうしてほしい」と伝えるだけでなく、時には実際にやって見せて、目的やメリットを説明しながら伝えることを心がけています。

同社オリジナルTシャツを着た社員の集合写真

自動車業界は大きな変革期を迎えています。人びとの車内での過ごし方が変わり、よりシートが重要視される時代になります。

アメリカ生活はいかがですか。

1990年に赴任したときはちょうど30歳を過ぎた頃でした。家族共々来米し、最初は英語で苦労しましたが、地元の方々にもよくしていただいて、大変楽しい思い出となりました。
最初は家内も誰も知り合いがいないなか、子どもの幼稚園であったり、環境に慣れるまでに時間はかかりました。ただいったん慣れると、お父さんよりも家族の方が生活面が充実するようです(笑)。2回目の赴任からは、もう苦労はなかったですね。
いずれにしてもこちらは生活するうえでのシステムがしっかりと整っています。アメリカは非常に住みやすい国だと思っています。

座右の銘を教えてください。

座右の銘というわけではないですが、「誠実」という言葉がいちばん好きで、とにかくさまざまな仕事や人に対して誠実に向き合おうと思っています。
例えば、お客様から何か依頼されたとき、お客様の対応をするとき、社内のメンバーと仕事をするときも、若い人から年配の人までいますがそれぞれに同じように、真面目に真摯に考えて向き合うということを大切にしています。

もともと生産技術を担当されていたとのこと、技術者の方にいつも伝えていることはありますか。

これはトヨタグループにおける仕事の仕方の基本でもあるのですが、なにかトラブルが起きたときにはその原因の本質をきちんと見つけるように指導をしています。問題が起こったらしっかり解決する。
よく私たちが使うのは「5なぜ」という言葉です。5回「なぜ」を繰り返し、本当に何が問題なのかを見極めてから対策をするという意味です。
私もずっと生産技術を担当してきたので、生産拠点の現場にはよく足を運んで、製品の現物をしっかり確認するように心がけています。

今後の展望を教えてください。

現在自動車業界でよく言われるCASEという言葉があります。Cは「Connected」、Aは「Autonomous」、自動運転のことです。そしてSが「Share」のカーシェアリング、Eが「Electric」で電気自動車のことです。
今は、自動運転、カーシェアリング、電気自動車など、自動車業界そのものが大きな変革期を迎えているときです。そのなかで、私たちもお客様からの期待が少しずつ変わってきていると感じています。それに応えられるような製品を追求していく新たな努力をしていかなくてはいけないと思っています。次の世代に向けた製品作りや生産システムの基盤作りをしていきます。  

今までは自分で運転するものだった車が自動になったり、みんなでシェアをするものになったりすると、車の中での時間の過ごし方が変わってきます。
例えば、自分で運転していたときは、馬力があって操縦しやすいことや、走る喜びを求める方も多いですが、自動運転になると、ゆっくり車の中で休みたい、移動中に仕事がしたいなど、車に求められるものが変わってきます。ですから、それに合わせた製品を作っていきたいと思っています。
車内での過ごし方が変わってくるということは、よりシートや内装が重要視される時代になるということですので、力を入れて開発を進めていきたいです。

アメリカにおけるCASEの動向は。

アメリカは日本よりも先行して多くの会社で実験や開発が進められています。まだいつからどのレベルにまで発展していくか正確には分かっていませんが、世の中のスピードに遅れないように準備を進めていくつもりです。
とくにアメリカは先進的な国ですから、トレンドや最新技術の情報も手に入りやすい場所です。その情報を日本にも発信しながら、事業を発展させていければと考えています。
また、2019年の1月にはラスベガスで毎年開催されるCES(Consumer Electronics Show)に出展予定です。これはモーターショーと並ぶ大規模な展示会となっており、カーシェアリング、自動運転、電気自動車などのトレンドをいち早く掴むことができる重要な機会です。世界の最新技術の情報をキャッチして、そして我々の製品も世界の幅広いお客様に向けて展開していきたいと思っています。

トヨタ紡織 Toyota Boshoku America, Inc. 
社長 President & CEO
望月 郁夫 IKUO MOCHIZUKI

1958年愛知県半田市生まれ。2008年にトヨタ紡織(株)刈谷工場副工場長、2011年に同社常務役員に就任。2014年にトヨタ紡織アメリカ上級副社長に就任し、2017年トヨタ紡織(株)専務役員に。2018年にトヨタ紡織(株)米州地域本部本部長、トヨタ紡織アメリカの社長に就任。

Interview:Kaori Kemmizaki 
※2018年11月9日取材