【アメリカで活躍する日本企業インタビュー】リコーUSA 副社長 徳永 譲二

コピー機・複合機の日本国内シェア1位メーカーであるリコーだが(2016年データ)、近年 “EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES”を標榜して 、IT技術の進化による個人の生産性をアップさせるシステムを提案している。
アメリカにおいても事務機器ブランドとして確固たる地位を築いたリコーUSAの、フィラデルフィア郊外マルヴァーンのオフィスで徳永副社長に話を伺った。

自社がカバーするすべての事業と技術 今こそそれを先に進める時だと思っています

リコーUSAのこれまでの事業展開の歩みを教えてください。

1962年のアメリカ会社設立から1980年代半ばまでは比較的小規模な基盤での運営でしたが、次第にアメリカでの積極的な市場拡大を視野に置き、ダイレクト・セールスのオペレーションを始めることとなりました。
今までにリコーは戦略的買収を幾度となく行っており、それが会社としての成長に最も役立っていると思います。主な買収は4つあり、まず1995年にコピー・ファクス機器のセイヴィン・コーポレーション社、2001年にドキュメント・マネジメントの大手レニエ・ワールドワイド社を買収。2007年にはIBM社のプリント部門と合併し、インフォプリント・ソリューションを設立。さらに2008年にはドキュメント・マネジメントのアイコン・オフィス・ソリューションズ社を買収しています。
リコーUSAはこのような計画的買収により、90年代半ばには企業価値が10億ドルを下回っていましたが、現在では50億ドルを超えています。

ペンシルベニア州マルヴァーンに本社を置く理由は何でしょうか。

2012年、ニュージャージー州ウエスト・コールドウェルから、アイコン社の本社があったこの地に本社移転をしました。アイコン社の事業規模は当時のリコーの3倍ほどあったため、常駐の社員や会社の資材の便宜性を考えたうえでの決断でした。
またこの地は、カナダや南米も含めアメリカ全体のハブとなり得るエリアとして、ニューヨークやニュージャージーよりも手頃な地価で合理的な立地とされているためです。

日本から赴任した駐在員の人数とその割合を教えてください。

日本からの駐在員はアメリカ全土に50名ほどです。マルヴァーンのアメリカ本社勤務の社員は全550名以上いますが、そのなかで駐在員は20名弱となっています。

現在リコーUSA全体における、コピー機、プリンター関連事業の占める割合はどのくらいですか?

ハードウエア/プロダクトの販売に関しては今でも75~80%を占めています。社内の部門分けではオフィス関連とその他というふたつの扱いとなりますが、オフィス関連は全体の90%ほどを占めます。これは日本、アメリカだけでなく世界的に共通した数字です。

近年はコピー機にとどまらずソフトウエア・ソリューションなど、デジタル・ワークプレイスの提供、提案の分野に注力されているようですが、その経緯を教えてください。

企業の業務形態の変化は、とくにリーマンショック以降に顕著になりました。景気が悪くなると一般的に企業は縮小化し、解雇の必要性も生じます。より少ないスタッフで今までの仕事に対処するには、必然的に仕事の効率化が求められ、デジタル化が進みます。そういった状況を目にし、これまでのようなハードウエアの提供だけでなく、オフィス環境の理解に努める必要性を強く感じました。

現在ハードウエア以外でとくに需要のあるリコーUSAのサービスは何でしょうか?

マインドシフト社を2014年に買収したことにより強化した、クラウドサービスの需要が最も大きいといえます。社内の共有情報をネットワーク化し、社外や遠隔地からでも作業を可能にする環境づくりを実現します。
もうひとつは、社内の郵便管理をアウトソースするサービス。受け取った郵便物の内容をデジタル化して管理し、クライアントに届け管理します。これは買収したアイコン社でもともと行われていた事業ですが、現在アメリカで2,400社ほどがこのサービスを利用しています。

本社1階にあるメインフロアは広々とした見通しの良いオフィス環境となっていますね。

新しいワークスタイルを実践するため、2年前に改装し、今ではマーケティングチームが常駐しています。
以前は各々のセクションが壁によって仕切られ閉ざされた印象でしたが、今は自然光が入り社内の空気も明るく、より開けたオフィスとなっています。スタッフ同士の会話や連携も自然と生まれますし、黒板を共有し役立てたり、ユニファイド・コミュニケーション・システムで各地とネットワーク環境で繋がり、カンファレンスルームやミーティングスペースも多数揃え、有効活用されています。
社員は固定の机を持たず、日々各自が好きな場所で仕事をしていますが、これは新しい仕事環境を顧客に提案する目的もあります。ここは実際に我々のシステムやプロダクトが有効かを顧客に証明するために、さまざまな試みを実践する場でもあります。

現状、多くの会社が体制のスリム化を図り、社員数を減らしています。それにともないオフィススペースの縮小が行われます。社員の多くが自宅勤務となり、オフィススペースを最大限に活用する必要性が出てきます。
我が社もマーケティング担当社員は300人程ですが、オフィスには180人分のスペースしか設けず、代わりにWi-Fi環境の整ったカフェテリアからロビー、中庭まで、あらゆる場所がワークスペースとなる環境を整えました。
同時に自宅勤務など社外から作業する、オフプレミスでのスタッフが共有データにアクセスできるシステムの向上は、これからの時代の大きな課題です。

カルチャーギャップに早いうちから気付くことで、アメリカ流ビジネスにスムーズに入ることができると思います

日本とアメリカの顧客が求めるものに大きな違いはありますか?

日本ではとくにきめ細やかでパーソナルなサービスを求められます。
一方、アメリカでは値段に対するバリューにシビアで、それが顧客の第一の判断材料となります。
技術的には国による違いは感じませんが、世代によるテクノロジーに対する意識の違いを強く感じます。

リコーは日本にルーツを持つ会社ですが、アメリカでビジネスをする強み、または弱みは感じますか?

計画的、戦略的に行なった企業買収により外部からのリソースが増え、我々は日本の企業としてもユニークな経営スタイルを形づくっています。
通常企業が買収合併すると経営をスリム化することが多いですが、リコーは買収する相手選びに慎重な分、一度手に入れた幅広い人材を有効活用する方針です。
優れたイメージ、技術、商品を持つブランドは多々ありますが、我々が顧客に最もアピールするのは最前線でそれを作っているスタッフの魅力であり、それが何よりもリコーの強みだと自負しています。

今後、リコーがさらに目指すものは何でしょうか。

我が社は、ペンタックス・カメラのレンズや医療機器をはじめ、さまざまな分野に投資をしています。自社の持つあらゆる技術や知見を見直し、今こそそれを先に進める時だと思っています。
同時に従来までのコアビジネスであるコミュニケーション・ビジネス、ITサービス、ハイエンド・プリンティングはこれからも中心にあります。

ご趣味などがおありでしたら是非教えてください。

3人子どもがおりますが、いちばん下の子が最近大学を卒業し自立したところなので、あらたな趣味を模索中です。ゴルフやテニスは好きですね。出張が多いため、旅先では歩き回って新しいものをたくさん見るようにしています。大学時代にいたデラウェア州をまた訪れたいと思っているところです。

最後にアメリカでビジネスをしようと思っている人にアドバイスをお願いします。

世界は小さくなりましたが、まだまだカルチャーギャップはあります。
とくに女性の社会的立場についていえば、日本と韓国は独特の風潮があります。日本では年に1度新入社員を部署によって文系または理系から雇い、会社の型にはめるというシステムが残っています。アメリカをはじめとする西洋ではこういった仕組みはなく、各部署にあった人材が雇われます。
この大きな違いに早いうちから気付いた方がアメリカ流ビジネスにスムーズに入っていけると思います。

リコーUSA 副社長 徳永譲二
デラウェア大学卒。1984年リコー入社。33年以上のセールス、マーケティング、および業務管理経験を持つ。レニエ・ワールドワイド社、IBMプリンティング・システムズ社、ダンカ・ヨーロッパ社、そしてアイコン・オフィス・ソリューションズ社などの買収に携わったほか、2012年からはリコー・アメリカ会長室長、そして2015年からはリコー・アメリカ戦略マネジメント・オフィスの副社長も務めた。2017年4月より現職。

Interview : Madoka Sugaya
Photo (Portrait) : Shinji Murakami