1933年に神奈川県横浜市に設立して以来、大手自動車メーカーとして躍進を続ける日産自動車株式会社。現在は日本を含む世界20の国や地域に生産拠点を持ち、60以上の国や地域で商品を販売している。
今回訪れた日産メヒカーナは、今となっては世界中から注目を集めるメキシコに根を張って約60年、長い歴史とともに強い信頼を積み上げてきた。
現地メキシコ人スタッフの能力を活かし、お客様が必要としていることを理解し、確実に要望に応えられるようになってきた。
まずはメキシコでの沿革について教えてください。
メキシコでは1959年に、販売会社としてスタートしました。すでに60年近くの長い歴史があります。1961年には日産メヒカーナを設立、1966年には日産初の海外生産拠点であるクエルナバカにあるシバック工場で生産を開始しました。
現在はメキシコ国内に4工場(うち1工場はダイムラー社との合弁)、メキシコシティーのトルーカを中心に4ヵ所の開発拠点があります。
全体の社員数と日本人の比率はどれくらいですか?
メキシコ全体で現在は約1万7,000人の社員がいます。私が勤務するR&Dは約650人、そのうち日本人は約30人で、全体の約5%です。
現地化を積極的に進めているのでメキシコ人の社員が中心ですが、ほかにもアメリカやブラジルからの赴任者など、多様な人種で会社が成り立っています。この多様性を活かしながら、日本やアメリカとの協業をスムーズに進めるためには、互いの理解を常に意識して高めていくことが重要です。
ここまで現地化が進んでいるのはすごいですね。
日本や北米との働き方、日産での仕事のやり方に慣れてもらうには、継続的なトレーニングが必要となります。
現在R&Dには2名のメキシコ人ディレクターがいますが、彼らはかつてシバック工場にR&Dが併設されていたころから30年近く勤続し、今はマネジメントに携わっています。これは、人材を継続して育ててこられた成果だと思います。そういった環境を整えて頂いた先輩方には、本当に感謝しています。
これからの若い世代を将来に向けて育てていくのが我々の重要なタスクのひとつです。
主な販売先はメキシコ国内でしょうか。
合弁も含めたメキシコ国内の4工場合わせると年間89万台強の車を生産をしており、そのうち約36万台をメキシコ国内で販売しています。他社と比べてもメキシコ国内向けの生産比率が高いのではないかと思います。
輸出に関して、主な輸出相手国はアメリカやカナダですが、アルゼンチン、ブラジル、チリなどのラテンアメリカ、欧州やアジア、アラブ諸国などにも広く輸出しています。
過去9年以上、メキシコのマーケットでトップシェアを占めている理由は何でしょうか。
これまでの歴史のなかで、お客様の細かなニーズにこたえられるよう、商品ラインナップ、ディーラーネットワークやサービスを継続して改善し続けてこられたことでしょうか。
メキシコでは、機能的かつコンパクトなサイズの車種が人気です。いちばんの売れ筋は、30年にわたってメキシコでの弊社のアイデンティティーを築き上げてくれたツルを受け継ぐヴァーサで、室内が広いのが好評です。さらにメキシコのお客様に魅力的に感じて頂けるよう、メキシコ専用の2トーンカラーの導入などを企画と連携して短期間で導入するなどしています。
弊社は、おかげさまで長い年月をかけてお客様にご愛顧を頂いてまいりました。現地のスタッフの能力を活かし、お客様が必要としていることを理解し、確実に要望に応えられるようになってきたことが大きいと思います。これからも引き続きお客様の期待にこたえられる商品を提供できるよう努めていきます。
車のマーケットを見ても、メキシコの街並みを見ても、どんどん変わっていく。その変化が本当におもしろい。
今日に至るまでには、さまざまな苦労があったことと思います。
60年も前に販売、生産、開発を立ち上げるのは当然大変な作業の連続だったと思います。
また、車には多くの部品が使われています。そのため、部品を納入して頂いているサプライヤーの方々のご協力が不可欠です。今は当たり前のように多くの部品を納入して頂いていますが、生産を開始したころは日本からのノックダウン生産から始まり、少しずつサプライチェーンを整え、本当に大変だったろうと思います。
さまざまな変化があるなかで、調達の最適化は競争力を維持する ためには不可欠な要素なので、時々の状況を鑑みながら常に検討を進めています。
北米の大きなマーケッ トと年間約36万台の車が売れるメキシコ国内のマーケットは、弊社にとってとても重要です。競争力のある商品を開発・生産できる環境が整う日産メヒカーナをこれからも大切に育てていきたいです。
今メキシコでもっとも力を入れていることは何ですか?
メキシコからの輸出先国は多岐にわたっています。今後も成長を持続し、より広いエリアに対して対応していくには、商品に関わる全員が現地のニーズを理解し、商品の魅力・品質を継続的に上げていく必要があります。そのためには、本社、開発、生産がひとつになって、密に連携をとっていくことが重要です。
将来に向けてメキシコ全体がさらに強力なワンチームとなるよう、部門間の連携を強化して、メキシコ全体の能力を高めていきたいですね。
今後の目標について教えてください。
約60年間をかけてメキシコで活動させて頂いたことが、弊社のブランド力の源となっています。
メキシコでのビジネスを成功させるためには、ますます魅力的な商品を提供していく必要があります。メキシコのお客様にとってどんな商品が魅力的か。これを知るためには現地の方の知識や経験を最大限に活用する必要があり、ビジネス環境を考えながら、今後も最適な現地化を考えていきたいです。
同時に、重要な北米市場での競争力を向上するため、北米拠点との連携強化を通してメキシコ全体の開発能力向上を図るのが目標です。
難波さんご自身について教えてください。
日産では20年間、車体の内外装の開発、設計に関わっ ていました。その間アメリカに4年、フランスに2年の赴任を経て、海外赴任はメキシコが3ヵ国目です。
現地の状況を肌で感じることのできる海外勤務では学ぶことはとても多く、チャンスさえあればいつでも海外赴任はしたいという想いはあります。昨年2017年の4月にフランスから日本へ帰任したばかりでしたので、今回メキシコへの赴任を内示されたときは驚きましたが(笑)。
メキシコには2018年の4月に来たばかりです。家族を一緒に連れて来ることも考えましたが、今まで転校が多かった子どもも中学生になり、彼らの学校生活も考え、今回は単身赴任にしました。
今はメキシコシティーのポランコに住んでいます。買い物も食事をする場所もたくさんあるのが嬉しいですね。
メキシコの印象はいかがですか?
とにかく食事が美味しい! 単身赴任で外食ばかりしていると太りそうで恐いので、週末はなるべく自炊して作り置きするようにしています。
そして一緒に仕事をしている人たちが本当に親切です。困ったことがあっても、助けを求めれば手を差し伸べてくれる、そんなアミーゴの国の優しさをメキシコの人たちに感じます。
これからメキシコに赴任する方へのメッセージをお願いします。
メキシコは人も街もエネルギッシュな国。パワーに溢れたチャレンジングな場所です。
車のマーケットを見ても、メキシコの街並みを見ても、どんどん変わっていく様子が本当におもしろい。これだけ日々成長して活発に変化しているマーケットは、世界中を探してもなかなかありません。
赴任前は心配なこと、不安なことはたくさんあると思いますが、この変化を楽しみにして、メキシコまでいらしてください。
副社長 Vice President
難波喜一 KIICHI NAMBA
1998年に日産株式会社に入社、主に車体の内装の開発に携わり、2009年から4年間はアメリカのミシガン州にある日産テクニカルセンター・ノースアメリカ社に、2013年から2年間はフランスのルノーにあるテクノセンターへ赴任。2018年より現職。
※2018年7月インタビュー時点
Interview:Hisashi Abe
Photo:Raúl Castellanos
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