家庭用ミシンのトップメーカーとしてなじみ深い、蛇の目ミシン工業株式会社。自社製品のミシンを作るための機械を独自に開発・製造したというルーツを持つ同社は、このシカゴでは産業機器部門として、工場で使われる産業用ロボットやサーボプレスの販売を手掛けている。
当地現地法人社長の舌間氏は「メカが主流の会社として、技術を日々伸ばしていきたい」と語りながらも、人との繋がりやチームワークの重要性を強調する。
我々のロボットは、ミシンで培ったノウハウが強みとなって、さまざまなシーンで支持されています。
まずは蛇の目ミシン工業の沿革をお聞かせください。
1921年、当社の前身、パイン裁縫機械製作所が東京で創業し、国産ミシンの製造が始まりました。ミシンの通称カマ部に収められたボビンがヘビの目に似た丸い形状だったことから、「蛇の目式ミシン」という呼び名が定着し、それに由来して社名を変更。
現在では産業機器部門と合わせて日本国内に93拠点、海外に20拠点を展開しています。市場のニーズにあわせ、近年ではブラジルに家庭用ミシンの販売拠点を開設しました。2021年には、創業100周年を迎えます。
ジャノメというとミシンの会社という印象が強いですが、シカゴではどのような事業を行っていますか。
蛇の目ミシン工業全体では売上の78%を家庭用ミシン事業が占め、15%が産業機器事業となっています。
シカゴオフィスは産業機器製品の販売に特化した子会社として設立されました。スマートフォン工場や自動車部品工場で使われる産業用ロボットやサーボプレスの販売を行っています。ロボットというと6軸多関節ロボットや介護ロボット、会話ができるロボットを想像されると思うのですが、それとは別の、生産現場で使われるロボットに分類されるものです。
産業機器部門開設の経緯を教えてください。
1984年、業界初の小型サーボプレス機「エレクトロプレス」の販売を開始したところからはじまります。もともとは、当社ミシンで使用されるステッピングモーターを製造する工程の中で軸を圧入する作業をさせるために自社設備として開発したことがきっかけでしたが、当時はそのような小型のサーボプレス機が世の中に存在しませんでした。そこでこの技術を製品化したところ、当社エレクトロプレスの持つ高い位置決め精度、精密な圧力コントロールが多くの製造業の方々から高い評価を受け、販売が伸びていきました。
1993年には卓上ロボットの販売を開始し、その後、スカラロボット、直交ロボットと製品ラインナップも増やし、各製品にお客様の要望を取り入れバージョンアップを行っています。
海外事業展開の流れを教えてください。
ミシン部門のアメリカ進出の第一歩は、1960年に当時アメリカの4大ミシンメーカーのひとつであったニューホームミシンを買収したことです。
日本国外でのミシン事業においては、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパを中心に広く展開しており、アメリカでは、Janome Americaとしてニュージャージーを拠点に活動しています。産業機器製品のアメリカでの販売は1996年から手掛け、2007年にシカゴに現地法人を設立しました。その他の仕向地としては、中国、韓国、東南アジアなどが好調です。
蛇の目ミシン工業の得意とする産業用ロボットはどういうシーンで使われるのでしょうか。
当社の販売するロボットは、主に自動車部品や電子機器部品を生産している工場で、業務を自動化、もしくは半自動化するために導入されます。主に接着剤などの塗布作業やはんだ付け作業、ねじ締め作業などで採用されています。
そのロボットの導入にはどういった利点がありますか。
まず、安定した品質を保ち、生産量も管理しやすくなります。とくに当社の製品は現場への導入のしやすさ、手軽さにより支持されています。通常ロボットを導入する際には、ロボット言語を学ぶために1週間ほど講習を受けた後、自ら作業プログラムを作る必要があります。これに対して当社の製品ではより手軽に自動化を実現でき、ティーチングペンダントというコントローラ画面上でプログラムを設定し、あとは調整するだけで導入が可能です。1時間ほど勉強すればどなたでも設定も操作もでき、とくにゲーム世代の若い方はとても飲み込みが早いです。
ミシン製造で培った使いやすさを追求したノウハウが強みとなり、さまざまな分野の生産現場で支持されています。
クライアントは日米どちらが多いですか?
シカゴオフィスでは、クライアントの8~9割が米国系企業です。10年以上営業を統括しているスタッフを主体に、専属のチームを組織しています。今後は日系企業マーケットを深耕していくつもりです。
スタッフがよく“We are a team”と言うように、皆が一丸となってベストを尽くしてくれる環境です。
アメリカにおける販売方法の日本と大きく異なる点、特徴を教えてください。
日本や中国では販売代理店に向けてセールスをするのが一般的ですが、アメリカでは雑誌広告や展示会をメインにセールスを行っています。とくにここアメリカでは顧客ごとの細かなニーズに合わせるため、オフィスには3Dプリンターや加工機械を揃え、スタッフが図面を書き、希望の装備を施した製品を納入しています。
蛇の目ミシン工業が持つ、競合他社にはない強みは何ですか。
足の引っ張り合いがなく、フレンドリーでおおらかな社風ですが、ひとつ目標が定まれば社員が一丸となって突き進む力があります。スタッフがよく“We are a team”と言うように、我々はアットホームな雰囲気、チームワークを意識しています。
技術面では、ロボットメーカーのなかではアプリケーションがついたロボットを販売しているのは当社だけではないかと思います。自社でアプリケーションメーカーとタイアップしているため、ミシンを扱うような簡単さでロボットが操作できるというコンセプトを持っているところが強みだと思います。
今後、開拓する市場として視野に入れているのは、どのようなエリアですか。
産業用ロボットは生産工程の自動化になくてはならない製品です。メキシコ、ブラジル、アルゼンチンなど、現在は人海戦術での工場作業に頼っている地域でも、人件費が上がるに従ってロボット化が進んでいくと考えられます。現在、中国でのロボット化が急速に進んでいるのも、同様の理由です。また、新たなマーケットとしてインドへも注力し始めています。
日系企業のメリットはどんなときに感じますか。
「日本製品=高品質」というイメージにも助けられ、日本製の産業用ロボットは好印象を持たれていますが、提示価格の落としどころは難しいです。当社の製品の品質や耐久性を分かってもらえればファンも増えていくでしょうが、壊れたら買い換えればよいというアメリカ的な価値観もあり、価格勝負になることも往々にしてあります。当社製品は、使い方にもよりますが、定期メンテナンスをされている方に他社製品よりも一般的には長くお使いいただいています。
皆がはっきりとした意見を持つアメリカで、いかに製品の魅力を理解していただけるかが勝負だと考えています。
アメリカのものづくり観とはどういったものでしょう?
当社のスタッフを見ていても、日本人は、工程ひとつひとつの品質管理を大切にし、繊細にものづくりをします。対照的にアメリカの場合は、スピード感を持ってラフに作り上げ、最後に締めます。仕事で難題があってもどんどん突き進み、結果を重視するところがあります。
座右の銘があれば、教えてください。
「一期一会」は好きな言葉です。あと若い人によく言うのは、なんでもいいからチャレンジしてみなさい、ということです。失敗は成功のもとなので、思い付いたことはまずやってみるといい、と言うようにしています。
仕事を通して感じる「やりがい」は何でしょう。
色々な人とお会いできるのは素晴らしいことですし、実際に当社のビジネスは成長過程にあり、どんどん伸びているため、やりがいを大いに感じる毎日です。日々の生活のなかでのトラブルにも、アメリカ人はこう考えるのかという発見があったりと退屈しません。
今は赴任して間もないため仕事詰めの毎日ですが、時間ができればやりたいことは山ほどあります。オートバイや車が好きなので、ミルウォーキーのハーレー博物館に行ったり、ハーレーでルート66を走ったりするのもいいですね。
便利帳の読者にアドバイスをお願いします。
自分が一生懸命に働いていると、意外と皆がそれを見ていると感じています。自分が前向きな姿勢であれば、それを見て変わっていくスタッフもいるでしょう。私は本当に恵まれていて、皆が一丸となってベストを尽くしてくれる環境にいます。人と人とが繋がって、会話が自然と生まれ、色々なことが進んでいくように思います。
1988年に蛇の目ミシン工業入社。技術職として研究に携わる。その後、本社営業部門へ移り、産業機器の卓上ロボットを担当。2000年からは産業機器部門の拠点立ち上げに関わり、名古屋、福岡、大阪に営業拠点を開設。2011年には同事業の上海オフィスの設立責任者董事長に。2017年より渡米し現職。北・南米の市場を管轄している。
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