アメリカのビザの種類と概要 〜就労ビザ〜

アメリカのビザの種類は非移民ビザ(Nonimmigrant Visa)と移民ビザ(Immigrant Visa)の2種類に分かれます。非移民ビザとは、アメリカ に短期滞在することを目的に発行されるビザのこと。一方、移民ビザは、アメリカに永住する目的のビザのこと。
本記事では、アメリカの就労ビザについて説明します。

就労ビザ

日本国籍保持者が申請することが多い就労ビザには、H-1Bビザ(特殊技能、専門職)、L-1ビザ(企業内転勤)、Eビザ(貿易、投資)、およびO-1ビザ(卓越した能力)などがある。

H-1Bビザ

特殊技能や専門的知識を有する外国人に適用される短期就労ビザの1つである。新規年間発行数は6万5,000件。近年は審査が厳しくなり、取得は難しくなっている。H-1Bビザ申請の留意点は以下の通り。

申請条件

  1. 学士号以上の学歴、もしくはそれに相当する実務経験を有すること(専門知識を必要とする実務経験3年で4年制大学の1年に相当する。たとえば高卒の場合は12年、短大卒の場合は6年の職務経験が必要)
  2. 職務内容が取得学位と一致していること
  3. 職務内容が特殊技能、または専門知識を必要とする専門職であること
  4. 雇用主が在米企業であること
  5. ビザ受給者が起業して、受給者本人が雇用主としてビザをスポンサーすることはできない
  6. 雇用主が、雇用する地域の同職種に支払われる平均給与額、もしくは申請企業の同職務に支払われている給与のうちいずれか高い金額を、ビザ受給者に支払うこと

H-1B新規申請と年間発行枠

新規申請は毎年4月に受付を開始する。H-1Bビザは年間発行枠があり、上限に達すると翌年度まで申請を待たなければならないので、申請は早めに行ったほうがよい。2019年4月1日に受付を開始したH-1Bビザの申請者数は発行数の4倍を上回り、抽選により申請を受け付けるか否かを決めた。また、抽選に外れた書類は返送された。発行枠制限は、新規申請者にのみ適用され、雇用主変更や延長、更新申請には適用されない。さらに雇用者が大学や非営利の研究機関などの場合も、枠制限に影響されない。政府から公的資金援助を受けている企業は、H-1Bビザ申請における規制が追加される。H-1B新規申請の場合、就業開始は10月1日。

有効期限

H-1Bビザの有効期間は3年であり、その後3年の延長申請が可能。最長6年滞在した後にアメリカ国外に1年滞在すると、新規にH-1Bビザ申請が可能。なお、H-1Bビザの有効期間内に永住権申請を開始し、第1段階である労働証明書申請を連邦労働局に提出して1年以上経っている場合、H-1Bビザの有効期限である6年を過ぎても1年ごとに更新できる。さらに、第2段階である移民申請(I-140)を移民局に提出して許可が降りた場合は、3年ごとに更新することも可能。

H-1Bビザ雇用主変更申請

雇用先が変わる場合、新たにH-1Bビザを申請する必要がある。ただし、新規H-1Bビザ申請とは異なり、いつでも申請可能。また発行枠にも影響されない。前雇用主との雇用関係が終了する前にH-1Bビザを申請すれば、許可証を待たずに、申請書類を移民局に提出した翌日から新雇用先で働き始めることが可能。H-1Bビザは、ビザスポンサーである雇用主の下での就労に限定されているが、同時に複数のH-1Bビザを申請することもできる。2社の雇用主からビザを申請し、許可を移民局から得られれば、同時期に両社に勤務することも可能。

H-1B雇用主への監査

2009年度から、移民者を雇用する企業に、抜き打ちで監査を行うようになった。職務内容および給与額が移民局に提出した書類上の記載と異なることを移民局審査官が発見した場合、許可されたビザが無効になることもある。

H-4家族ビザ

H-1Bビザ保持者の配偶者、および21歳未満の子どもが対象。配偶者はアメリカ国内での就労は不可。

L-1ビザ

日本または他国にすでに会社が存在して、そこからその会社のアメリカ法人(子会社)やアメリカ支社または関連会社に派遣される社員に発行されるビザである。親会社が子会社の株式の50%以上を保有しているか、50%未満の場合は、実質的に会社経営をコントロールしていることが条件で、同じ株主によって所有、管理されている兄弟会社の関係でもよい。

L-1ビザは2つの種類に分けられる。管理職として親会社などに勤務し、アメリカの会社でも管理職として勤務する人に発行されるL-1Aビザと、特有な知識の保有者に発行されるL-1Bビザである。どちらのビザも、海外の親会社や関連会社などでビザ申請前3年以内に、少なくとも1年間就労していたことが条件である。滞在期間は、L-1Aビザは初回3年、以降2年ごとに更新可能で最長7年許可される。L-1Bビザは初回3年、以降2年の更新が可能で最長5年許可される。

L-2家族ビザ

L-1ビザ保持者の配偶者、および21歳未満の子どもが対象。配偶者は就労許可申請を移民局に提出して許可が下りれば、特別な制限なしに就労が可能になる。

ブランケット(一括)申請

アメリカの雇用主企業がアメリカ国内、もしくは国外に3つ以上の支店や関連会社を持ち、アメリカ国内で1年以上業務を行い、さらに下記のいずれかに該当する場合、移民局にLビザのブランケット申請をすることができる。

  • 最近12ヵ月間に10名以上のLビザ社員の許可を得ている
  • アメリカ国内の関連会社の総売上が2,500万ドル以上である
  • アメリカ国外で1,000名以上の社員を雇用している

一度許可された場合、それ以降は個別に移民局に申請書を出す必要はなく、申請者はブランケット申請許可証を持参し、アメリカ大使館や領事館で直接Lビザの手続きを行うことができる。申請は初回で3年認められ、有効期限終了前に延長申請を提出すれば、無期限のブランケット申請許可証が発行される。

Eビザ

日米間の貿易を条件とするE-1ビザと、アメリカにおける投資を条件とするE-2ビザの2種類がある。申請には次の条件を満たす必要がある。

  1. アメリカと友好通商航海条約、あるいは二国間投資協定を締結している国(日本はこの条約の締結国)の法人か個人が、アメリカ法人の50%以上の資本を所有している。ただし、投資をする個人が日本国籍を保持していたとしても、アメリカの永住権を持つ場合は対象にはならない
  2. Eビザ取得希望者が、上記条約を締結した国の国籍を保持している
  3. Eビザ取得希望者は、アメリカ法人に役員・管理職として勤務する。または、その企業に不可欠な特殊技能者として勤務する

E-1貿易商ビザ

日米間において相当量の貿易があり、かつ全世界の取引高の50.1%以上が日米間の取引であることが条件。

E-2投資家ビザ

このビザの取得には、資本を含めたアメリカ法人への投資額が十分であることを証明する必要がある。ただし、投資内容が積極的な事業経営を行うものでなければならず、単なる資金投資や消極的な不動産投資などでは許可されない。新規投資による申請では、今後5年分の事業計画書、設備投資計画書、従業員雇用計画書、収益予想の調査書、事務所の賃貸契約書などを申請時に提出する必要がある。投資額に制限はない。

申請および有効期限

ほかのビザを所持してアメリカに滞在している場合は、アメリカの移民局に必要書類を提出してEビザに滞在資格を変更することが可能である。ただし、ビザを取得するにはアメリカ大使館や領事館にアメリカ法人のEビザ資格登録をし、面接を受ける必要がある。移民局に滞在資格変更でEビザを申請した場合は2年許可され、アメリカ大使館や領事館で申請が認められれば5年許可される。ただし、新規にアメリカで起業した場合は、初回は2年しか許可されない場合もある。事業が継続し、申請者のポジションの必要性が認められれば、次回アメリカ大使館や領事館でビザを申請した場合に5年許可される。なお、Eビザはアメリカ入国時に、査証の有効期限とは異なり2年の滞在資格が許可される。

Eビザ保持者が日本の親会社に出張すると、その度に滞在資格が延長されるが、アメリカ国内に留まっている家族の滞在資格は延長されない場合がある。うっかりしていると、家族はI-94の滞在期限を過ぎてもアメリカに滞在していて、オーバーステイの不法滞在者になってしまうこともあるので注意が必要だ。前述のように現在はI-94がペーパーレス化されたので、入国後すぐにアメリカ税関国境取締局のサイトにアクセスしてI-94のコピーを取得し、保管することをすすめる。

E家族ビザ

Eビザ保持者の配偶者、および21歳未満の子どもが対象。配偶者は就労許可を申請することもでき、特別な制限なしに就労が可能。

O-1ビザ

科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で卓越した能力を有する人に発行されるビザのこと。卓越した能力を証明するために移民局が定めた6つの条件は以下の通り。このうち3つ以上を満たす必要がある。

  1. 過去に行った展示会、ショー、イベント、さまざまな業務を証明するカタログやフライヤー、そのほか新聞、雑誌の批評や記事
  2. 芸術の分野における業績を認められ、国内外で評価されている賞の受賞者であることや業績を証明する資料
  3. 本人や本人の作品に関して、主要な新聞、雑誌などのメディアに掲載された記事
  4. 商業的に成功したことを示す資料、たとえば興行収入、CD売り上げやチャートランキングなど
  5. 本人の専門分野における業績が関係団体、評論家団体、政府機関そのほか専門団体から高く評価され、貢献したことを証明する資料
  6. 本人がその専門分野に従事しているほかの者と比較して多額の給与、出演料そのほかの報酬の受けている場合は、その事実を証明する資料

ビザの有効期限は、就労およびイベントやショーなど企画が予定されている期間のみ。申請が可能な期間は最長3年。申請は、雇用主かエージェントを通して行う。エージェントを通して申請した場合は、各イベントやショーなどの就労先からの契約書も提出しなければならない。近年、移民局はO-1ビザの審査を厳格化しているので、申請には、十分な卓越した能力と業績を証明する資料を揃える必要がある。O-1ビザは、同じ雇用主またはエージェントを通した場合や、同じ雇用者でも職種が異なれば1年ごとの延長、雇用主またはエージェントを変更した場合は、新規に3年の申請が可能である。

O-2ビザ

O-1ビザのサポートスタッフとして就労する者が申請できる。約1年にわたりO-1ビザ申請者とともに仕事をしていたなどの証明が必要である。ビザの有効期限はO-1ビザ申請者に準ずる。

O-3家族ビザ

O-1ビザ保持者の配偶者、および21歳未満の子どもが対象。就労不可。