【監修】
アデア・マイヤーズ・スティーブンソン・ヤギ法律事務所
弁護士:八木 謙一
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(日本法)浅井綜合法律事務所
弁護士:科埜(しなの)貴広
車社会のアメリカでは、交通事故の対応について覚えておくこともドライバーの責務といえる。ここでは、現場での対応と必要な手続きについて説明する。
現場ですべきこと
交通事故直後の初動と対策は日本とほぼ同じで、以下の通り。
- 安全を確保し、可能な限り交通の妨げにならないように車両を移動させる
- 同乗者や相手側にけが人がいないか確認する
- 911に通報し、事故の状況を説明する
911に通報することにより警察が派遣され、必要に応じて救急車が手配される。警察が到着すると、事情聴取が行われ、処理に必要な基本情報(当事者や目撃者の氏名、住所、連絡先、運転免許証番号、関係車両のナンバープレート、自動車保険情報、事故の状況など)を記載されたポリスレポートが作成される。 この事故レポートに記載される過失の所在は極めて重要であるため、英語に自信がない場合は、英語が話せる知人・友人に連絡し、警察に的確な情報を伝えてもらうことが望ましい。警察への通報義務の要件は、州や管轄地域によって異なるため一概に説明はできないが、その後の法的責任や保険の適用に影響を及ぼす可能性があるため、やはり現場から通報しておくべきである。一方で、軽い事故の場合は警察が現場に来ない場合や、仮に警察が来たとしてもレポートを作成しないこともあるため、そのような場合には自分で基本情報を収集する必要がある。当事者間での情報交換に加え、事故現場や損傷箇所を写真や動画で記録しておくと後々役立つことが多い。また、ドライブレコーダーを設置していると、あらゆる場面でその証拠能力が極めて有効に機能するため、まだ設置していない場合は、 ぜひ設置を検討すべきである。

事故後の手続き
人や物に損害が出てしまった場合、特に心配になるのが各種費用だろう。保険会社や弁護士といった専門家には、できるだけ早く連絡することが望ましい。
けがの治療と費用
自分では大したことはないと感じていても、早急に医療機関を受診したほうがよい。軽い物損事故と思われる場合でも、後日、身体に症状が現れることは珍しくないからだ。また、利用する医療機関については、早期に弁護士に依頼した場合、その弁護士が提携している、または提携可能な医療機関を通して治療を行えば、案件が解決するまで治療費の支払いが不要となることがある。これは弁護士が損害賠償金を回収するまで、または回収できない場合でも治療費を支払わなくてよいという協定(レター・オブ・プロテクション)を医療機関と締結しているためである。このような提携先医療機関を利用することで、被害者は費用の心配をせず十分な治療を受けることができ、弁護士は相手方と賠償額増額交渉をより有利に進めることができる。なお、関連するすべての医療費の記録を保管しておくこと。
保険の請求
交通事故の後、事故の大小や責任の有無にかかわらず、早急に自分の保険会社に事故を報告しよう。保険会社への連絡が遅れると、証拠の散逸などが原因で補償内容に影響を与える可能性がある。また、過失のある相手方が無保険であったり、十分な保険がなかったりする場合でも、自分の保険の特約(UM / UIM特約 =Uninsured / Underinsured Motorist Coverage)によって、自分の保険会社から保険金を受け取ることができる。特に南部の州では、無保険または不十分な保険しか持たないドライバーが多いといわれているため、現在加入している自動車保険にこのUM / UIM特約がない場合は、追加で加入することをおすすめする。また、日本では交通事故の際、事故の大小やけがの有無を問わず、保険会社が各種交渉を代行することが一般的だが、アメリカでは原則として保険会社は物損に関する交渉しか行わない。そのため、慰謝料(Pain and Suffering)の請求には弁護士による対応が必須となる。
弁護士への相談と費用
日本同様、弁護士を介した交渉により賠償額が増額される傾向にあるが、その増額幅はアメリカではさらに大きくなるのが実態だ。一般的に、交通事故を扱う弁護士は人身傷害(Personal Injury)を専門分野として掲げている。日本とは異なり、アメリカでは交通事故に関する弁護士費用は完全成功報酬型を採用していることが多い。そのため、弁護士費用を持ち出しで負担する必要はない。つまり、初回相談料も無料であり、解決し賠償金を得た際に初めて弁護士費用の支払いが発生する。通常、弁護士費用は賠償額の33.3%(提訴前)〜40%(提訴後)が相場となる。この費用に加え、各種実費(医療費など)が清算され、その後に残った金額が依頼者に支払われる仕組みだ。「弁護士費用がかからない」と表現するのは正確ではないが、弁護士費用を持ち出して準備する必要がないため、日本と比べて弁護士に相談・依頼するハードルは格段に低いといえるだろう。
実際の事故解決例
筆者が扱った実際の交通事故のケースを、金額の内訳とともに解説する。
▶︎ A さんのケース…示談
Aさんの車両が後方から追突され、責任が明白であった事故に遭い、むちうち症を負った。事故数日後に筆者へ相談があり、Aさんは提携医療機関で治療を受けた。症状回復後、弁護士と相手方との交渉により、示談金として4万5,000ドルの合意に至った。この示談金から、下表の計算で経費が差し引かれ、最終的にAさんの手元には約1万9,000ドルが支払われた。
重要な点は、示談が成立して初めて、示談金額から弁護士費用や医療費が差し引かれ、Aさんにその残額が支払われるという構造だ。本件でも、Aさんが早期に弁護士に相談し、弁護士の提携先医療機関を利用したことで、損害賠償金を回収するまで主な治療費を支払う必要がなく、Aさんの経済的負担が大幅に軽減された。さらに、提携先医療機関を利用したことで、治療費も60%程度に値引きされ、Aさんが受け取る賠償金が増加している。
▶︎ B さんのケース…訴訟
Bさんは高速道路での衝突事故に巻き込まれ、半月版損傷を含む比較的重度の傷害を負った。このケースでは、いずれの車にもドライブレコーダーが設置されておらず、交渉が難航し、相手方と過失の有無および傷害の程度に争いが生じた。そのため、すぐに示談には至らず訴訟を提起し、ディスカバリー手続きの後、調停を経て和解が成立した。下表の通り最終的な和解金額は25万ドルであり、Bさんの手元には10万ドルが支払われた。
例えば❶過失割合に争いがある場合、❷損害賠償額に大きな開きがある場合には、被害者側が相手方に対して訴訟を提起することになる。アメリカでは、ディスカバリー手続きによって双方の証拠を相手方に開示する義務を負い、その過程で過失や損害に関する証拠がさらに具体的に明らかになる。その後、通常裁判前に調停が行われ、証拠がそろっていることから、ほとんどのケースが裁判に至ることなく和解が成立する。Bさんの場合、訴訟手続きを要したことにより弁護士費用が40%となったが、弁護士の提携医療機関を利用することで医療費の大幅な値引きがされ、結果としてBさんが受け取ることができた賠償金が増加した。しかし、ドライブレコーダーがなかったため過失の証明が困難となり、交渉が難航した。このケースからも、示談交渉や適正な賠償の確保において、ドライブレコーダーの重要性が明らかである。
【免責事項】本記事は、一般的な法律知識を提供するものであり、具体的な法的またはその他のアドバイスを目的としたものではない。また、事故解決例についても、その結果を保証するものではない。記載内容の正確性には十分留意しているものの、本記事の利用によって生じたいかなる損害については、筆者は一切の責任を負いかねるものとする。


