11月20日に開幕した、イギリス発のミュージカル「two strangers carry a cake across new york」を鑑賞しました。本記事では、その舞台の魅力と、観て感じたことをレポートします。

©Andreas P. Verrios 左:デゥーガル役のサム・タッティー 右:ロビン役のクリスティアニ・ピッツ
誰にも言えない悩みや問題を抱え、立ち止まった経験は誰にもあるはず。
それでも、ふとした出会いや、ちょっとした遊び心が心の風向きを、明日を変える…??
登場人物
- ドゥーガル(陽気なイギリス人)/ 役:サム・タッティ 一度も会ったことのない父親の結婚式に出るためニューヨークへ。父親との関係に悩み、式に出るべきか迷う。
- ロビン(現実主義のニューヨーカー)/役:クリスティアニ・ピッツ 花嫁の妹。家族との関係に悩む27歳で、ウェイトレスとして将来への不安を抱えながらマンハッタンで暮らす。
あらすじ
一度も会ったことのない父親の結婚式に出席するため、イギリスからニューヨークへやってきた陽気なドゥーガルと、花嫁の妹で、将来に不安を抱えるウェイトレスのロビン。性格が正反対の二人がウェディングケーキを運びながらニューヨークを巡るうちに、お互いの悩みを打ち明け、影響し合っていく。ケーキを落としたり、喧嘩したり、誕生日を祝ったり、トラブルの連続だが…!?

© Matthew Murphy 身の上話をするロビン(左)と興味津々に聞くドゥーガル(右)
見どころ
物語の終わりに、主人公たちの悩みが劇的に解決するわけではありません。しかし、ウェディングケーキを落としても、それを食べてしまう場面や、喧嘩の後でもロビンの誕生日を祝おうと必死で店を探すドゥーガル、そして結局彼に付き添うロビンの姿から、日々忘れがちな大切なことを気づかされます。
悩みが完全に晴れなくても、答えが見つからなくてもいい。ただ、そっと隣に寄り添う人がいるだけで、胸の奥で絡まっていた何かがほどけていくー。そんな気づきをくれる物語です。
テンポの良いコメディと歌の魅力
本作の最大の魅力は、テンポよく展開される軽快なコメディと、サム・タッティー演じるドゥーガルの圧倒的な歌唱力です。
ササムは、ロンドンで上演された、現代の若者の葛藤を描く話題作「ディア・エヴァン・ハンセン」で主人公エヴァンを演じ、その繊細で圧倒的な表現力が大きな注目を集めました。2020年にはローレンス・オリヴィエ賞「最優秀ミュージカル主演男優賞」を受賞。いま最も期待される舞台俳優の一人です。
そんなサムが演じるドゥーガルは、どこか気恥ずかしくなるほどのあどけなさで、会場内も観客の笑いが止むことはありませんでした。普段はしっかり者のロビンが羽目を外す姿も見逃せません。
そして、彼のソロ曲「Dad」ではコミカルな演技とは一転し、柔らかく優しい歌声が劇場に響きます。彼のまっすぐな歌声は、素直で純粋なドゥーガルの性格をそのまま映し出しており、思わず胸を打たれました。
小道具やセットが少なくキャストも主演の二人だけなのも「two strangers」の魅力。本来であれば、華やかなイメージがあるブロードウェイミュージカルですが、「two strangers」のセットは至ってシンプル。スーツケースが積み重なり、それをベットやお店のレジ、レストランのテーブルとして使用します。その演出が、二人の細かな表現の変化をより一層際立たせます。開演まもなく、二人のキャストが作り出す世界観のとりこになってしまいました。これぞ、舞台演劇の醍醐味ではないでしょうか。

開演前の舞台。スーツケースが積み上がったセット
観劇のポイント
アップビートな楽曲や早口のセリフが多いため、事前にキャラクターやニューヨークの有名観光地を軽く把握しておくと、よりストーリーを楽しめます。思いっきり笑いたい夜も、なんとなく心細い時も。一人でも友達とでも、ぜひ観てほしい心あたたまる作品です。

開演初日の劇場。多くの人で賑わっていた
チケットはこちらから ↓
two strangers carry a cake across new york
https://twostrangersmusical.com
キャスト
Sam Tutty : サム・タッティ(ドゥーガル)
Christiani Pitts : クリスティアーニ・ピッツ (ロビン)
劇場
Longacre Theater
220 W. 48th St, New York, NY 10036
【取材/執筆】
ニューヨーク便利帳
編集部 Chihiro Abe

